29.事なかれ主義者と大掃除②

 魔力切れの翌日に来る気怠さに加えて筋肉痛でとても目覚めの悪い朝。

 ラオさんはすでにいなかった。


「ラオさんは?」


 ホムラの頭をぐりぐりしながらすでに着替えを済ませていたドーラさんに聞くと、「ギルドへ行った」と教えてくれた。

 最近ギルドによく行ってるけど、何かあったのかな。


「シズトは気にしなくていい。朝ごはん」

「あ、買ってきてくれたんだ。ありがとう」


 近くの屋台から買って持ってきたそうだ。

 ラオさんほど大量に買ってこないから残す心配もなく、ドーラさんとホムラも一緒に机を囲み、黙々と食べる。

 一緒に暮らす仲、という事もありドーラさんと以前より少し距離が縮まった気がするけど素顔にはやっぱり慣れない。

 今まで兜で顔が見えなかったからそのギャップのせいかな。


「なに?」

「え、あー……そういえば、なんでいつも全身鎧来てたのかな、って」

「絡まれるから」

「……なるほど?」


 ちらちらと視線を送っていた事が丸分かりだったらしく、不思議そうにこちらを見ているドーラさん。

 慌てて前から気になっていた事を聞いてみたらドーラさんは何でもない事かのように教えてくれた。

 確かにこれだけ顔が整った人が冒険者をしてたら目立ちそうだ。

 まあ、台車で運ばれてよく目立っている僕が言えた事ではないんだけどさ。

 その後は特に何か話す事もなく、今日もたい肥作りのための魔道具を裏手に作る。

 草が馬鹿みたいに生えてた事もあって全然足りなかった。昨日も追加で4個ほど作ったけど、もういっそ燃やしてやろうか。

 ……近所迷惑になりそうだし燃やすのはやめとこう。

 たい肥ができたら売れるかもだし、頑張るしかないかぁ。

 まとめて5箱作って残りの魔力はご飯後に魔道具を作るために取っておく。

 ホムラとドーラさんは室内の埃をとにかく集めて外に出してもらう。ついでに軽く清掃もお願いしておいた。

 問題は壁にそって伸びた蔦? みたいなやつだ。

 建物全体を微妙に覆う感じに伸びていて、景観的に廃墟感がやばい。

 まあ、誰かを招く事はないからいいかな、とか思ったけどご近所さんから何を言われるかわからないから見た目はある程度整えたい。

 なんかこう……外壁を綺麗に……。


「あー、そういえばCMで見たような?」


 うん、できそう。

 蔦の方は全自動草刈り機を改良して様子を見る事にした。

 とりあえず壁面を走行できるように【付与】をかけなおした。

 かけなおしている最中に、背後に気配を感じて振り向くと、ドーラさんとホムラがいた。


「埃がほとんど集まらなくなりました、マスター」

「そう、ご苦労様。じゃあ草集め手伝って」

「はい、わかりました」

「私は?」

「じゃあ、ドーラさんもお願い」

「ん」


 僕もやらないとね。

 全自動草刈り機を壁にセットして起動させると、一緒にたい肥作りを頑張った。

 夕方頃に帰ってきたラオさんに連れられて外食を済ませる。

 今日は屋台の食べ物を食べ歩きするだけだった。

 何かの魔物の肉串を食べながらラオさんの後をホムラと一緒に歩く。

 ドーラさんは後ろをついてきている。


「ちょっとホムラ、口周り汚れてる」

「そうですか、マスター」


 ……指摘しても特に気にせず食べ続けるホムラ。

 しょうがないからハンカチで口元を拭ってやったんだけど、しばらくして見たらまた口元が汚れてるのは何でですかね?


「あれ、ドーラさんも口の周り汚れてるよ」

「ん」


 拭かないんですか? 拭くものないんですか? まあ、丁度持ってるので拭きますけど……。

 ドーラさんも口を拭いていてすぐにまた口の周り汚してるし、世話が焼ける。


「アタシも口の周り汚した方がいいか?」

「いつも手で拭ってましたよね?」




 ご飯を食べ終えて、屋敷に戻ると寝る前に【加工】で高圧洗浄機もどきを作る事にした。

 あんまり記憶にないんだけど、それっぽい見た目になればなんとかなるでしょ。

 そう思ってたけど、作っている途中でふと思った。ホースって何製だ? 鉄で代用できるかな。


「何作ってんだ?」


 寝間着姿で筋トレをしていたラオさんが近くに寄ってきた。

 意識してそちらを見ないようにしつつ、作りたいものを説明すると、「ホース要らないんじゃねぇか?」なんて事を言う。

 いや、ホースはいるでしょ。だってほら、水道から水を持ってこないといけないし。


「水が直接出るようにすればいいんじゃねぇか?」


 ……【加工】でガン部分だけ作り、ノズル付近に【付与】をしたところで――朝になってました。

 他の部屋の掃除も終わったらしいし、ちょっと今日はベッドを作ろう。

 意識しないようにするために気絶するように寝るの結構面倒になってきた。それに僕が寝ている間に他の無意識でアレが起きてたら気まずいし。

 まあ、その前に腹ごしらえをしよう、とさっさと着替えを済ませて朝食を買いに行ったらしいラオさんを待つ。

 今日はギルドに行っていなかったらしく、おすすめのものを買ってくるそうだ。

 おすすめを教えてくれるのはとっても嬉しいんだけど、限度ってものを知ってほしいなぁ。

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