17.事なかれ主義者は猫の置物を売った

 ホムラが自分で考えて行動ができるといったので驚いたけど、今までの事も考えるとできなくもなかったのか。

 作る時のイメージの問題なのかな。

 今度、魔石買ってまた作ってみるかなぁ。

 そのためにはたくさん金貨が必要だし、夜は部屋で浮遊台車1台と、浮遊ランプを3つ作った。

 自動探知地図は材料のダンジョン産の紙で結構お金かかるし、魔力も持ってかれる。

 その点、浮遊ランプは浮遊台車より魔力は必要だけど、作りやすい。

 余った魔力は、【加工】に回して鉄のインゴットをナイフやフォーク、コップ等の食器を作った。

 単調作業に飽きて猫の置物を作ったところで、気絶するように眠った。


「ホムラ、行くよ」


 次の日は朝ご飯も食べず、お店も開かず、他のマーケットをホムラと回る事にした。

 露天商がどんな風に接客しているのか、お釣りの受け渡しとかも含めて体験してみた方がいいと思ったから。

 まずは宿から一番近い北門のマーケットから攻めてみた。

 料理を売っている屋台がたくさんあり、目移りする。

 ホムラは「見て学ぶように」という言いつけを守り、店員とお客のやりとりをじっと無表情で見ていた。

 2人だけだったらデートのように見えるかもしれないけど、僕の反対側にはラオさんもいる。

 ……あれ、両手に花ってやつなのでは?


「あのスープみたいなの2人分買ってきて」

「わかりました、マスター」


 一通り見て回ったあと、学習の成果を見てみようと思いホムラに命じる。

 ホムラはトコトコとお財布を持って目的の屋台に行くと、普通に言葉を交わして無事目的のものをゲットできていた。


「お待たせしました、マスター」

「ありがと、ホムラ」


 ラオさんの分?

 さっきからたくさん食べてるからいいでしょ?

 ……半分くらい飲まれた。


「私のをどうぞ」

「え? あ、ありがと…」


 自分で考えるように言った影響なのかな。

 ホムラの方から話しかけてきたの初めてかもしれない。

 気を取り直して難しい方のダンジョンが近い東門のマーケットに行く。

 こちらは冒険者に向けた品や、ダンジョンで出てきたものをやり取りしている人が多かった。

 ホムラは時々、立ち止まって真剣に品物を見ていた。無表情だったけど。

 愛想よくしなさい、って言ったら愛想よくなるのかな。




 お昼は宿に戻って食べて、かわいい猫耳少女のランと軽くおしゃべりをした後、露店で売る準備をする事にした。

 ホムラは何も言われなくてもてきぱきと準備をして、準備はすぐに終わった。

 僕もホムラの隣で座り、ラオさんは店先で腕を組んで立っていた。

 見上げると二つの大きなアレがさらに強調されますね。足元とか見えてるんですか?


「そんなぷかぷか無駄に浮かせる必要あんのか?」

「人目引くでしょ?」


 僕とホムラの周りには浮いた状態の浮遊ランプが4台浮いている。

 道行く通行人が必ずこちらを向いているからアピールはばっちりですね!

 ラオさんは「限度ってもんがあるだろうが」なんて呆れながらぼりぼりと髪をかいた。

 夕方まで粘ったけど、売れたのは猫の置物だけだった。




 猫の目の宿の受付に僕が作った猫の置物がある。

 ええ、ルンさんが買ってくれたんです。


「置いてみたが、悪くないな」

「かわいいねー」


 ランが尻尾をゆらゆらさせながら眺めている。

 ゴリマッチョのライルさんも、顎を指でさすりながら満足気だ。

 毎度ありがとうございます。


「武器とか魔道具はあそこで出すより東西のどっちかの方がいいんじゃねぇか? なんか部屋に置くようなもんならこのあたりでもいいだろうな。数あった方が部屋に置けるだろうし」

「ん-、そうなんかなぁ。それより、接客ももっと学ばないと。呼び込みとかした方がいいのかな」

「頑張ります」

「物はいいんだから売る場所だと思うがな。不愛想な屋台の店主からでも飯は買うだろ?」


 僕たちはご飯を食べながら反省会をしている最中だ。

 ラオさんはもう食べ終わって食後の一舐めという感じで魔力マシマシ飴を舐めている。

 そこへガチャガチャと音を立てながらドーラさんがやってきた。


「魔道具売ってるの?」

「はい」

「売れた?」

「全然?」

「そう」


 そうなんです。まあ、材料費と場所代だけで考えたらぎりぎり黒字なんですけどね。

 ドーラさんは明日も売るのか聞いてきたので、とりあえず東門の所で店を出す事を伝えた。

 満足した様子で、ドーラさんはまたガチャガチャ音を立てながら階段を上っていった。

 魔道具欲しいなら言ってくれればいいのに。

 明日は売れるといいんだけどなぁ、とか考えながら自分の部屋で浮遊台車と、浮遊ランプを3つ作って、その後は【加工】で木と鉄を使った盾を作り、翌日それを抱えて寝てしまい、ラオさんに引きずられて起きた。


「ほら、起きたか? 早くしねぇと場所埋まっちまうぞ」

「マスター、着替えましょう」


 起きた、起きました。起きましたので服を剥ぎ取るのやめて。ホムラも手伝わなくていいから。

 ちょっとホムラ、それパンツ!

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