14.事なかれ主義者はしばらく冒険したくない

 ゴブリンキングが爆散したその下にラオさんがいたから見た目が大変な事になってる。

 だけど、そんな事を気にした様子もなくラオさんはあたりを見回しながら近づいてきた。


「これで終わったみたいだな。とりあえず、お前はドーラと一緒に奥に進んで、階段の近くにある転移陣で上に行け。ドーラ!」


 呼ばれたドーラさんに僕のお守りを任せて、ラオさんは解体作業に入るようだ。

 爆散したゴブリンキング以外の普通のゴブリンでも百以上ありそうだ。

 僕はロープに縛られたまま、ホムラが押す浮遊台車でドナドナされる。

 大部屋の奥にまた通路が現れていて、そこを通り過ぎれば小さな部屋があった。

 ドーラさんの案内をもとに転移陣を使って外に出る。

 その後はドーラさんが監督官に説明をしに行って、僕はホムラと一緒に放置されていた。

 ………周りの視線が痛いです。




 宿に戻るとゴリマッチョ猫耳おっさんがいた。

 僕の顔色が良くない事を心配したおっさんにお姫様抱っこされつつ部屋にドナドナされた。

 とっても逞しい雄っぱいだった。

 ご飯は喉を通りそうになかったので、ベッドに横になりつつ魔力マシマシ飴を舐めて過ごす。

 その日はなかなか寝付けなかった。

 目を閉じればボロボロの冒険者や、被害にあった女性冒険者と腕がなく動かなかった男性冒険者が瞼の裏に鮮明に出てくる。

 あの人は無事に帰れたんだろうか。

 夢にまで見そうで恐ろしかったので、ラオさんにあげた枕カバーを自分用に作った。

 枕カバーを枕にかぶせてそこに頭を乗せると――スヤァ。

 目が覚めると朝食のちょっと前の時間。設定どおりに起きれるとても便利な代物。これがあれば不眠症で悩む人たちはいなくなるだろう!

 とりあえず起きて朝ご飯を食べるために外に出る。


「なんだ、寝れなかったのかもとか思ったけど、元気そうじゃねぇか」

「安眠カバー作って寝たんだよ」

「ああ、なるほど。とりあえず、腹ごしらえするぞ。昨日食わなかったらしいじゃねぇか」

「食欲がなくって……」

「なくても食え。腹減ってたり、寝不足だったりすると良くねぇ事ばかり頭によぎるからな」


 ラオさんに肩を組まれて引き摺られるような格好で歩く。

 あの……お胸がですね?

 当ててるんだよ、ですかね??

 ホムラが何も言わずについてくる。

 ドーラさんは今日はいないようだった。

 朝ご飯を食べ始めると、ラオさんはいつも通りさっさと食べ終え、胸にこぼれた食べかすを払っている。

 僕の朝ご飯はなんかポトフ? みたいな汁物だけだった。

 具が柔らかくほぐれていて食べやすい。

 空っぽになったタイミングでルンさんがポトフ? が入ったお皿と空っぽのお皿を取り換えた。


「いっぱい食べなきゃメッですよ?」


 ……わんこポトフ頑張った。




 おなかが膨れて動きづらかったので浮遊台車に座ってホムラに動かしてもらっている。

 これ結構慣れたら快適かも。階段でのジェットコースターモドキは速くて怖かったから勘弁だけど。

 周りの視線を気にしなければ問題ない。

 っていうか、こういう移動方法が当たり前になればいいのでは?

 それこそ人力車みたいなのとか……うん、普通にできそう。

 ちょっと普及させちゃう?


「ほら、ギルドに着いたんだから変な事を考えるのやめろよ」

「変な事なんて考えてないけど!?」


 むしろ、交通網の貢献をできるような思いつきなんだけど!?

 ラオさんは相手にせず、冒険者ギルドに先に入った。

 ホムラもその後を続く。

 イザベラさんがこちらに気づき、一瞬僕を見て目を丸くしていた。

 ただ、すぐ受付から出てきて、こちらに駆け寄ってくる。


「イザベラさん、おはようございます」

「ええ、おはようございます。ちょっと上でお話をしましょう」


 ギルドマスター直々の呼び出しですね、逆らわずに行きましょうホムラさん。

 階段を上る時は斜めになるけど、浮遊台車は途中までL字のような形になっているので背もたれになるから怖くない。

 降りる時は前傾姿勢になるので掴まってないと怖いけど。

 ギルドマスター室でのお話は、昨日の件だった。


「今現在、高ランクの冒険者と調査官を派遣して調査してもらっている状況ですが、おそらく活発期に入ったと思われます」

「活発期?」

「ダンジョンの中で変異種が生まれやすくなる時期の事だ。ただ、それは一定の周期で起こるから予想はしやすいはずなんだが……今回はまだ猶予があったはずじゃねぇか?」

「そうね。何が原因かわからないからこそ、高ランク冒険者に行ってもらったのよ」

「……あの冒険者と女の人たちはどうなったんですか?」

「男性の冒険者グループ――『戦士の集い』は解体作業を遅くまでやって、今は宿に戻って休憩中です。一人の男性と複数の女性で構成されてた『俺の嫁たち』は壊滅しました。男性は右腕の欠損のため、冒険者をやめて実家に戻るらしいです。奴隷だった女性たちは手放すらしく、修道院でこれから静かに暮らしていく事になるでしょう」

「貴族のぼんぼんが自信過剰で自滅した、とは言い辛ぇ状況だなぁ」

「ラオとドーラさんにはそれぞれ、使われたポーション代金の請求をする権利があるけど、どうするの?」

「ドーラは知らんが、アタシはいいわ。女共を助けた駆け出し冒険者どもには払えねぇ金額だし、どうせ支給品だしな」

「そう。ただ、『戦士の集い』はポーションの件もあるから今回手に入った魔石などの所有権は放棄されたわ。だから、シズトさんのパーティーにはゴブリンの魔石とゴブリンキングの討伐による金額が渡されます。受取人はシズトさんでいいですね?」

「えっと……みんなで四等分する感じにできますか?」

「アタシはいらんぞ。お膳立てされてキングぶっ殺しただけだしな。ドーラに三等分するかどうか聞くまで、お前が預かっとけ」


 そういう事になって、僕の手元に大金貨一枚、金貨二枚、銀貨と銅貨が一枚ずつにゴブリンの魔石一個が返された。

 ゴブリンキングの魔石はCランクの魔石なので、大金貨1枚になったらしい。

 後は睾丸とか残ってたら貴族にもっと高値で売れたらしいが、ラオさんが殴ったら爆散したから……。

 Cランクの魔物倒すだけでこんな大金手に入るなら冒険者はとっても儲かりそう、とか思っていたけど、違うらしい。

 ラオさんに後から教えてもらったが、まずCランク以上の魔物はCランクパーティで倒すのが前提で報酬が山分けになる。そこからそれぞれが、もしもの時のための道具や武器・防具の手入れでめちゃくちゃお金が無くなるらしい。

 また、もしも余っても男どもはすぐに女遊びや酒に使ってしまうんだとか。

 危険と隣り合わせだからそういう事で息抜きするんだとか。

 女性はどうなんだろう? と思ったけど、ラオさんには聞きづらかったので分からない。

 報酬と、Eランクの手続きを済ませてドッグタグを受け取り、ギルドを出た。

 依頼を受けるか聞かれたが、断って浮遊台車だけ納品して宿に戻る。

 ドーラさんと山分けしても、露天商のための開業資金には十分すぎるほどのお金が手に入った。

 しばらくは危ない冒険をしたくないし、本格的に物を作って生活していこう。

 『いのちだいじに』作戦だ!

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