7.事なかれ主義者の平穏な日常

「おはようございます、マスター」

「おはよう、ホムラ。今日もレンガ運び頑張ろう」


 商人ギルドで登録した後、ホムラを冒険者としても登録した。

 その方が何かと都合がいいんじゃねぇか? とラオさんが言った事と、魔道具を作りつつ開店資金を貯めるためだ。


「さっさと飯食うぞ」

「はーい。ホムラ、部屋の鍵は閉めた?」

「閉めました、マスター」


 ラオさんが先に下に降りていく。

 それに続いて降りる前に、ホムラが借りている部屋の前を通ったのでついでに聞いた。

 同室もできるし、その方が安く済むと言われたけど、女性と相部屋は未経験の男の子にはちょっと刺激が強すぎると思うんです。

 銀貨二枚、一日で稼ぐ必要がある。浮遊台車の売り上げで賄える金額だが、今後何があるか分からないし。

 幸い、ホムラが浮遊台車を使えたので依頼の受け方、やり方を一通り説明した後、浮遊台車を使ってレンガ運びをさせている。

 ホムラの冒険者一日目は僕とラオさんも同行したが、二日目以降は一人で行っている。一日で銀貨一枚以上稼いでくる。

 自分の食い扶持を稼いでいて偉い! と褒めつつ、その調子で僕以上に目立ってくれ、と思っていたらラオさんがボソッと一言。


「一緒に登録していたから、お前も目立っているからな」

「えっ」


 身代わりというか、広告塔になっているようだ。

 冒険者ギルドに着くとホムラと別れて別行動。

 ホムラは今日も浮遊台車を押して空いている受付めがけて進んでいった。

 僕はお買い物ついでに気晴らしの散歩。

 魔力マシマシ飴を舐めながら錆が酷くて投げ売りされている武器を買い漁る。

 荷物はラオさんが持ってくれているが、なんだか申し訳ないし、いい加減浮遊台車を自分用に作ろうかな。

 でも目立つんだよな、あれ。


「屑武器買い漁ってアタシに持たせてる今も目立ってるからな」

「え?」




 とりあえず屑武器と木の端材をたくさん集めて宿に帰り、泊っている部屋の隅に置いてもらう。

 その後、ラオさんには出てってもらい、一人で作業を始める。

 【加工】で錆がたくさんついてしまった鉄製の武器たちを蘇らせよう。

 錆の部分と鉄のインゴットに分ける作業を終えると、今度は木材の端材を【加工】で数枚の板に分ける。

 木材は浮遊台車にする予定だから、その形に【加工】する。鉄はとりあえず買い漁った武器をしっかりと見て、それと似たような物を作った。

 魔道具を売った方がお金になるだろうけど、そんなに数を準備できないので、露店で売る間は【加工】も活かす事にした。


「おい、そろそろいくぞ」


 ラオさんが扉の向こう側から声をかけてきた。

 外を見ると夕暮れ時だった。

 ホムラと合流するついでに浮遊台車を納品しに行く。

 イザベラさんはなんかこめかみを抑えていたけど、僕は何もしていないのでとりあえず浮遊台車を納品する。


「シズトくん、とりあえず浮遊台車の納品、あと三十台くらいお願いしてもいいかしら? ホムラさんが自前のものを使っているのを見て他の低ランク冒険者たちがうるさいんですよね。それで、ホムラさんにちょっかいをかける馬鹿も出始めたので」

「え、ホムラ、大丈夫なの!?」


 驚いてホムラを見るが、ホムラはいつもと変わらない無表情だ。

 最初にあげた服を今も着ていて、胸の部分がちょっと苦しそうだがちょっと大きめの服には汚れている様子はない。怪我も特になさそうだ。というか、魔法生物って怪我したら血とか出るのかな。


「ホムラさんが返り討ちにしたんですけど、容赦がなかったのでちょっと注意させていただきました。冒険者間の揉め事にはあまり介入しませんが、以後気を付けてください。いいですね?」

「はい」


 頷かないと怖そうなので頷いとこう。

 ホムラも僕を真似て後ろで頷いていたらしい。




 猫の目の宿に戻ると、受付に鎧を着た人がいた。

 あれって、なんていうんだっけ。フルプレートアーマー? フルいらないんだっけ??

 見ていた事に気づいたのか、ガチャガチャと音を立てながら鎧を着た人が近づいてくる。

 背丈は僕よりも低くして、兜? をしているから顔は分からない。


「ドーラ。よろしく」

「あ、はい」


 端的すぎる自己紹介にあっけにとられながら、手を差し出されたので握手する。

 高めの声だし背も低いから女性かもしれない。

 握手が終わると、とりあえず泊っている部屋に戻る。

 後ろからガチャガチャと音が付いてきた。

 三階の階段そばの角部屋がドーラさんの部屋の様で、ガチャガチャと音を立てて中に入っていった。

 後で鎧じっくり見せてくれないかなぁ。

 そんな事を思って夕食を一階で食べたが、ドーラさんはご飯を部屋で食べるらしく、その日は会う事がなかった。




 次の日の朝、いつものように部屋の外に出るとすぐにホムラが挨拶をしてくる。

 ラオさんも大きなあくびをしながら挨拶をしてきた。寝不足だろうか。安眠枕でも作ろうかな……閃いた。作れそうだから作ってプレゼントしてみよう。

 そんな事を思いながら階段を降りようとしたところでドーラさんも出てきた。


「おはよう、シズト」

「あ、おはようございます」


 あれ、名乗ったっけ? 名乗ってもらったし、名乗った……かな?

 ガチャガチャと音が付いてくるのを聞きながら階段を降りる。

 ドーラさんはご飯を食べずに宿から出ていき、ラオさんとホムラと同じ机で朝ごはんを食べる。

 今日もルンさんの胸をちらちら見ながら目の保養だと思っていたら、ラオさんが小さな声で忠告してきた。


「あのドーラってやつ、気を付けとけよ」

「何でですか?」

「相当の手練れだからさ」


 そういうラオさんはどこか面倒くさそうだ。

 イザベラに報告しねぇとなぁ、なんて面倒そうに言いつつ、いつの間にか盗った魔力マシマシ飴を食後のデザート代わりに舐めていた。

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