第48話 任命式2

 教会の中は、前に来たときと同じく飾り気はないが清潔に保たれていた。


 すれ違いざまに人々の声が聞こえた。

「あの美しい人は誰?」

「領主のアルフレッド様だよ」

 フローラはアルフレッドをちらりと見た。いつもそばにいるから慣れてしまったが、改めて見ると、絵画の天使が青年になったような美しい顔をしている。ふだんの言動のせいで意識から外れていたが、アルフレッドは確かにかなりの美男子なのだとフローラは感心していた。


「フローラ? 僕の顔に何かついてる?」

「……! いいえ、何も」

 フローラは慌てて前を向いた。

「そう? なんだか皆、僕を見ている気がしたんだけど」

「それは、アルフレッド様が……美しいからです」

「そうか、それじゃしょうがないね」


 アルフレッドは別段気にするわけでもなく、カイルの後を歩き続けた。 

「アルフレッド様、こちらへおかけください」

 カイルが最前列の席を手で示し、アルフレッドにお辞儀をした。

 アルフレッド、フローラ、トレヴァーが席に着きしばらくすると見慣れない司祭が現れた。


カイルがその司祭を先導し、アルフレッドを紹介した。

「こちらがこの地方の領主、アルフレッド様です。アルフレッド様、本国のアッキレ・カレビ神父です」

 アルフレッドは立ち上がり、右手を差し出した。

「はじめまして、アルフレッド・ダグラスです」

「はじめまして」

 アッキレ神父はニコリと微笑んで、アルフレッドと握手をした。


「立派な領主様だとクリフから聞いております」

「恐縮です」

 アルフレッドがアッキレ神父にお辞儀をした。アッキレ神父も目礼をし、アルフレッドから離れ、また別の要人と挨拶をしている。

 アルフレッドが席に着くと、一緒に立ち上がっていたトレヴァーとフローラも席に着いた。


 しばらくするとアッキレ神父は奥の部屋に入り、パイプオルガンの音が奏でられ始めた。

「そろそろだね」

 アルフレッドの言葉にトレヴァーが頷いた。

「さあ、アビントンさんの晴れ舞台がはじまるよ」

 アルフレッドがにこやかにフローラに話しかけると、フローラはぎこちなく微笑み返した。

(今まで、こんな風に緊張することなんてなかったのに)

 フローラは心の中でつぶやくと、アルフレッドの整った横顔から目をそらした。

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