第41話 夜中の訪問者

 夜が来た。耳が痛くなるくらい、静かな夜だった。

「今日は静かですね。いつもなら鳥や動物の鳴き声が聞こえるのに」

 フローラが夕食の片づけをしながら、トレヴァーに話しかけた。

「そうですね」

 トレヴァーも食器を運びながら答えた。


「トレヴァー、ラム酒を入れた紅茶を作ってくれるかい? どうも、今日は神経が高ぶって眠れそうにないんだ」

 ガウンに着替えたアルフレッドが自分の部屋から降りてきた。

「珍しいですね、アルフレッド様。少々お待ち下さい。出来たらお部屋にお持ちします」

「いや、今日は部屋ではなく食堂で飲むよ。フローラ、トレヴァー、一緒にどうだい?」

 トレヴァーは微笑んだまま、フローラを見た。


「私もいただきます」

 フローラがアルフレッドに答えると、トレヴァーも頷いた。

「それでは、私もご一緒にいただきます。すぐに準備をしますので、もう少しお待ちください」

 トレヴァーとフローラは食事の片づけを手早く終わらせた。

トレヴァーは紅茶を三人分入れ、フローラはドライフルーツを一口サイズに刻んで小皿に乗せた。


「お待たせいたしました」

「ありがとう」

 トレヴァーはアルフレッドの前にラム酒の香りが漂う熱い紅茶を置いた。

「お砂糖はどれくらい入れますか?」

「そうだね。今日は甘いのが飲みたいかな」

「かしこまりました」


 トレヴァーはアルフレッドの紅茶に多めの砂糖を入れた。

 アルフレッドは一口紅茶を飲んで、息をついた。

「……ああ、温まるね。今夜は思っていたよりも冷える」 

 アルフレッドはオレンジピールの砂糖漬けをひとかじりして、また紅茶を飲んだ。


「フローラ、トレヴァー、君たちも一息ついたら?」

「それでは、失礼いたします」

「いただきます」

 トレヴァーとフローラも空いている席に座り、紅茶を飲んだ。


「……おいしいですね」

 フローラは微笑んだ。

「……」

 トレヴァーは何も言わなかった。


 三人が静かな夜を楽しんでいると、ドアをたたかれる音が響いた。

「なんだい? こんな時間に」

「私が見てきます」

 トレヴァーが席を立ち、玄関に向かった。


「……夜分に失礼します」

「カイル様……こんな夜更けに何の用でしょうか?」

 トレヴァーがカイルに尋ねると、カイルは言った。


「恥をしのんでお願いがあります……クリフ神官長を……お救いください」

「……少々お待ちください」

 トレヴァーは食堂にいるアルフレッドに言った。

「カイル様がアルフレッド様にお話があるようです」

「ふうん……こんな時間にねえ……。通してくれるかい?」

「かしこまりました」

 トレヴァーはカイルを玄関の中に入れた。

「お入りください、カイル様」

「ありがとうございます」


 明りに照らされたカイルの顔は真っ青だった。

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