第38話 諍い
「アルフレッド様……」
トレヴァーがアルフレッドに困惑した様子で声をかけた。
「ああ、人が集まっているね」
教会の近くに来た時、馬車の外では怒号が飛び交っていた。
「教会は出ていけ!」
「俺たちを脅すのはもうやめろ!」
「インチキ御子なんて、信じないぞ!」
教会の閉ざされた扉に向かい、叫ぶ人々。
なかには扉に向かって石を投げている者もいる。
アルフレッドはため息をついた。
「どういたしますか? アルフレッド様」
トレヴァーの問いかけに、アルフレッドは少し考えた後、返事をした。
「そうだね……とりあえず馬車から降りようか。アビントンさんも、一緒にきてくれるかな?」
「ああ」
「フローラは……ちょっと危なそうだから、馬車で待っているかい?」
「……いいえ、私も……まいります」
「それじゃ、馬車をおねがいするね、トレヴァー」
「かしこまりました」
アルフレッドが一番先に馬車から降りた。つぎに、アルフレッドはフローラの手を取って馬車から降ろすと、アビントンに声をかけた。
「一人で降りられますか?」
「大丈夫だよ」
アビントンが下りると、トレヴァーは教会のはずれの林のそばに馬車を移動した。
「さてと、皆が僕の話を聞いてくれるといいんだけど……」
アルフレッドは町の人々が集まっている、教会の扉のほうに向かって歩き出した。
「アビントン! 領主様を連れてきたのか!?」
「領主様、教会は横暴です! どうか、懲らしめてください!」
「領主様、私たちを教会からお助けください!」
アルフレッドは集まっていた町人たちに囲まれた。フローラとアビントンも、ぎゅうぎゅうと押されている。
「皆さん、落ち着いてください!」
アルフレッドは叫ぶような大声で言ったが、話を聞くものはいなかった。
「仕方ないなあ……」
アルフレッドは胸元から銃を取り出し、空に向かって打った。
パン、と乾いた音がした。
「領主様……?」
「静かにしてくださいますか?」
アルフレッドは銃を見つめ、黙った町人たちに微笑んだ。
「みんな、アルフレッド様が俺たちの代わりに教会に話をしてくれるそうだ」
「うーん。そんな約束はしてないけれど……」
アルフレッドが苦笑すると、アビントンはアルフレッドに頭を下げた。
「みんな、教会には困ってるんだ。どうか、俺たちを助けてくれ」
「……話をしてみます」
アルフレッドの返事を聞いて、町人たちは喜びの声を上げた。
「アルフレッド様、魔女の刻印を刻ませるのをやめるよう言ってくれ」
「寄付金が高すぎる、もっと下げるように言ってくれ」
「教会はけが人や病人を助けてくれない。以前のように、皆を助けるように言ってくれ」
アルフレッドは口々に要望を上げる町人たちに向かって言った。
「最善を尽くします」
人々の群れの中から、首謀者のダリル・エイミスが現れた。
「領主様、どうか、よろしくお願いします」
ダリルはアルフレッドに手を差し出した。
「できることをいたします」
アルフレッドは差し出された手を取った。痛いくらい、強い力で握り返され、アルフレッドはすこしだけ顔をゆがめた。
「魔法が使えるだけで、命を狙われるのは、耐えられません!」
アビントンが、アルフレッドに説明した。
「ダリルの家の娘は、魔法が使えるんだ。だから、つぎに狙われるのは娘じゃないかって、おびえているんだ……」
「……わかりました」
アルフレッドはダリルから手を離すと、彼を見つめて言った。
「教会には、むやみに魔女の刻印を刻まないよう、強く求めることにします」
「よろしくお願いします」
騒ぎが少し落ち着いたところで、教会の扉が開いた。
「お前たち! 神聖な教会の前で何を騒いでいるんだ! 静かにしろ!」
神官のカイル・ジェキンスが現れた。
「さあ、ここは騒ぐ場所ではない! 皆、家にかえりなさい!」
カイルの言葉に町人たちは反論しようと声を上げ始めた。
「ここからは、私が話をします。皆さんは、お待ちください」
アルフレッドは右手を挙げて、町人たちをなだめてから、カイルのほうを向いた。
「少々お時間をいただけますか? 町人たちが教会に対して抱いている不安についてお話できれば、と思うのですが……」
「……それは……」
「入っていただきなさい」
神官長のクリフ・サンチェスが出てきて、カイルに声をかけた。
「クリフ、元気そうだな……」
アビントンがクリフに話かけた。
「アビントン……この騒ぎは何ですか?」
クリフの言葉を聞いたアビントンは、吐き捨てるように言った。
「教会のやり方は納得できねえ」
「そうですか」
「町人たちの声を聴いてほしいのですが……」
「わかりました。ここではなんですから、中にお入りください」
クリフに言われて、アルフレッドとアビントン、フローラは教会の中に入った。
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