第32話 過去
「アルフレッド様、フローラ、お疲れさまでした」
先に馬車を降りたトレヴァーが、馬車を降りようとするフローラとアルフレッドに手を貸した。
「ありがとう、トレヴァー」
「ありがとうございます、トレヴァー様」
三人はアルフレッドの屋敷に戻るとため息をついた。
「……やってしまったな」
アルフレッドがそう言って笑うと、トレヴァーが言った。
「アルフレッド様、笑い事ではありませんよ」
「まあ、そうだねぇ……とりあえずお茶でも飲みたい気分だな。トレヴァー、準備してくれるかい?」
「はい、アルフレッド様」
「あ、お茶は三人分用意してね。これから教会と、どう関わるかをトレヴァーとフローラに相談したいんだ」
「私も……ですか?」
「うん」
アルフレッドはコートをトレヴァーに預け、食堂に向かった。
「それではフローラ、お茶の準備をしましょう」
「はい、トレヴァー様」
トレヴァーとフローラはダージリンティーとクッキーを用意して食堂に向かった。
「お待たせいたしました」
「それじゃあ、トレヴァーとフローラも座って」
「はい」
「失礼します」
トレヴァーは紅茶とクッキーを配膳してから、食堂の出入り口に近いアルフレッドの向かいの席に座り、フローラはトレヴァーの右隣に腰かけた。
「さて。教会とは、おじい様の代から仲が悪かったわけだけど、今回のことで溝がふかまったね」
「そのようですね」
「あの、そうなんですか?」
フローラがトレヴァーに尋ねると、アルフレッドが説明した。
「僕のおばあ様は、御子だったんだ。おじい様と駆け落ちし、教会を破門されたんだよ。おばあ様はおだやかな優しい人だった」
アルフレッドの言葉を聞いて、フローラは青ざめた。
「それでは……今回のことで、また教会の面子をつぶしてしまったということですか?」
今度はトレヴァーが口を開いた。
「……そうですね。教会は、民衆の魔女や魔法に対する恐怖心をあおって、寄付金をたくさん手に入れていますから、今回のように外部の人間が教会の意思に反する行動をとると……教会の立場は悪くなるでしょうね」
トレヴァーは無表情で、何を考えているのかフローラには読み取れなかった。
「最近は寄付金を多めにしたり、教会のやっていることに目をつむったりしていたから、昔より付き合いやすくなったと思ってたんだけどね。フローラを連れてきちゃったし、魔女の刻印を消したりしちゃったから、また教会ににらまれるんだろうね」
アルフレッドは他人事のように言うと、紅茶を飲んでクッキーをかじった。
「あ、おいしいね、このクッキー」
「アルフレッド様……私、アルフレッド様の立場も考えずに……行動してしまって」
「謝ることは無いよ? フローラ。だって、僕が君の立場だったら、同じことをしているもの」
アルフレッドはそう言って、フローラに微笑みかけた。
「アルフレッド様、教会を敵に回すのはできれば避けたほうが良いと思います。領民たちは教会を信じていますから、私たちの立場が悪くなります。ただでさえ、魔術をつかう悪魔のような領主だと言われているのですから……」
「誤解なのになあ」
アルフレッドはもう一枚クッキーをかじってから、紅茶を味わった。
「とりあえず、教会とはかかわらないようにするよ。それでいいでしょ? トレヴァー?」
「……それ以外にできることは無いかと思います」
「……レイスは……大丈夫かしら……」
フローラが呟くと、アルフレッドは困ったような表情で言った。
「助けを求められるまで、僕たちにできることは無いよ。でも、彼女がフローラに助けを求めることなんてあるのかな……?」
アルフレッドは静かに紅茶を飲み終えると、自分の部屋に戻っていった。
トレヴァーとフローラはお茶の片づけをしてから、夕食作りにとりかかった。
「私がいるから……アルフレッド様も……レイスも……困っているのでは……」
フローラは、一人暗い表情で食器を磨いていた。
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