第30話

 翌朝、ドアをノックする音がアルフレッドの屋敷に響いた。

「アルフレッド・ダグラス伯爵はいらっしゃいますか?」

 トレヴァーがドアを開き、訪問者に尋ねた。

「早朝からどのような御用でしょうか?」

「教会のクリフ神官長の使いです。ダグラス伯爵家に魔女がいると報告を受けました。早急に教会にくるよう申し伝えよと言われております」

 そう言うと、教会の使者はトレヴァーに手紙を渡した。


「それでは、教会でお待ちしております」

 教会の使者はすぐにアルフレッドの屋敷を後にした。

「アルフレッド様、いかがいたしましょうか?」

 トレヴァーは困ったような表情でアルフレッドに手紙を渡した。

「……何が書いてあるのかな?」

 アルフレッドは手紙を開けて読み上げた。


「ええと『魔女の刻印を消したという話は本当でしょうか。詳しい状況をお聞かせください。 神官長 クリフ・サンチェス』か……」

 アルフレッドは少し考えた後で、トレヴァーに言った。

「フローラを呼んできてくれないか? どうやら皆で教会に行ったほうが良さそうだ」

「分かりました。朝食はどういたしましょうか?」

「そうだね、かるく食べてから行こう」

「それではトーストと紅茶を用意いたしますので食堂でお待ちください。アルフレッド様が食事をしている間にフローラを呼んでまいります」

「ありがとう、トレヴァー」


 アルフレッドは食堂に行き、いつもの席に座ると肘を机に着け両手を組んだ。

「さあ、何を言われるのか……」

 憂鬱な顔でぼんやりしているアルフレッドの前に焼き立てのトーストと、いれたての紅茶が並べられた。

「ありがとう、トレヴァー」

「いえ。それではフローラを呼んでまいります」

 トレヴァーは食堂を出て行った。


 アルフレッドが一枚目のトーストを半分食べたところで、フローラが現れた。

「おはようございます、アルフレッド様」

「おはよう、フローラ。朝から悪いね」

「いえ、遅くなり申し訳ありませんでした。ところで何かお話があるそうですが……」


 アルフレッドは食べかけのトーストを皿の上に置き、フローラのほうを向いた。

「実は、教会から呼び出しを受けてね」

「え?」

「この前の、魔女の刻印を消したことが教会に伝わったらしい。詳しい話を聞かせてくれとクリフ神官長から手紙が来た」

「……クリフ神官長……」

 フローラの眉間にしわが寄った。


「大丈夫。君のことは僕が守るよ」

 アルフレッドはフローラに微笑みかけた。

「私……またアルフレッド様に……ご迷惑を……」

「迷惑なんてかけてないよ。ところでフローラは、朝食がまだだろう?」

 アルフレッドはフローラの後ろに立っていたトレヴァーに言った。

「フローラの食事の用意と、トレヴァーも食事をとってくれ」


「はい、アルフレッド様」

 トレヴァーがキッチンに行こうとするとフローラは言った。

「私も手伝います」

「それじゃ、フローラ。二人分のトーストを焼いてくれるかい? そのあいだに私は紅茶をいれるから」

 トレヴァーの言葉にフローラは頷いた。


 三人は朝食をとり終わると、馬車に乗り、教会に向かった。

「何を言われるのかしら……」

 フローラが不安そうにつぶやくと、隣に座ったアルフレッドが、固く握りしめたフローラの両手の上に、やさしく右手を置いた。

「僕たちは悪いことはしていない。……大丈夫だよ」


 震えるフローラの視線を受けとめて、アルフレッドは優しく微笑んだ。

 

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