私が死んでから~貴方が未来を歩む為に貴方の夢へと~
言われた言葉。
気にしたくはなかったが、気になっていた私が「殺された後」の事だった。
正直恨み満載だし、心の残りは山ほどあれば、墓迄持っていきたい事を隠しきれてないし、考えたくない内容ではあったが、気にならないわけではなかった。
悪い事が続いたらどうしようとか考えてしまって、直視が怖い。
『まぁ、それを実際に見るのが怖いだろうから、直接ではないが事実だけ分かりやすく伝える事にしよう』
神様はそう言うと同時に、指を鳴らす音が聞こえた。
目の前には大型のモニター?
いや、テレビ?
ええい、どっちでもいい、そんなのが現れた。
私があのクソ野郎に殴られた後の情報が表示される。
はらわたが煮えくり返りそうだがざっくりとした流れはこうだ。
殴られた私は倒れてぴくりとも動かなくなる。
私が庇った子が救急車を呼ぼうとすると邪魔するクソ野郎。
だが、いつもはクソ野郎に怯えていた他の社員が救急車を呼び、警察に連絡。
搬送先で、私は死亡が確認される。
クソ野郎は急に倒れたと嘘をつくが、見ていた他の社員と庇った子がクソ野郎に金槌で殴られたことなど事細かに発言。
私の死亡を聞いて、両親たちが駆け付け、レコーダーとノートを発見。
クソ野郎の罵声がばっちり残っていた。
ノートにはクソ野郎と会社の対応、書類が挟まっていた。
日ごろからの隠蔽体質等、我慢を止めた社員達と私の証拠から会社の責任者全員責任追及をされる。
クソ野郎は殺意はないと否認するが、日ごろからのパワハラ基「殺すぞ」発言と、暴力行為があり、その上自分の拳ではなく、明らかに殺意を明確に持っているであろう凶器を机に隠して置いていたことと、それで殴って殺した事を追求される。
確定的故意か未必の故意かはまぁどうでもいいが、普段からの発言と、妨害行動、凶器を机に日常的に隠していたことなどから「死んでも構わない」と思っていたと追及される。
ここで、どうでもいい情報が入った。
このクソ野郎、クソ上司。
DVで奥さんと離婚してた。
奥さんだけでなく、子どもにも暴力をふるっていたので離婚、そして子どもの養育費を払わないのに、面会を求める、慰謝料も払っていないという最低野郎と発覚。
何でそんなクソ野郎を会社は入れたのかと思ったら、親族だったからという。
身内経営ってこういう所でクソだよなぁと再認識。
まぁ、情状酌量の余地無し、と扱われた。
で、その結果で会社は信用がた落ち。
身内以外の社員は全員会社を辞めて、そのまま潰れた。
で、私の方は。
両親が私の残したものはどうしようと悩んでいた。
オタク趣味のあれこれだからなぁ、処分されたら困る。
そこに、オフでも仲良くしていて、私の本名を知るオタク仲間がやってきた。
『お金を払うので、娘さんのその……美鶴さんの趣味の物を引き取らせてください、処分したら彼女はきっと悲しむので』
と言いだし、まぁ大金を出した。
両親は価値が分からないからそんなにと断ったが、オタク仲間が適正価格とか見せて納得し、趣味の薄い本等そういう類は引き取られた。
そして私のノートパソコンの中身は……
二次創作はオタク仲間が穏便に対処したが、かわりにオリジナルの作品が世間の目にさらされることとなりダメージを喰らう。
――オウイェ……――
オリジナルの作品はウェブサイトで掲載してたからまぁ仕方ないっちゃそうなんだが……
それより気になったのが、私が庇った子だ。
彼女はふさぎ込んでいた。
それもそうだろう、彼女を庇った結果として、私は殺されたんだし。
実家に戻った彼女はふさぎ込んで部屋から出なくなった。
彼女の家族がいい人なのが救いだった。
毒親とかだったら、彼女はもっと苦しかっただろうし。
しかし、にっちもさっちもいかない。
夢で何度もクソ野郎と口論し、そして殺される私の光景を何度も見てしまう所為で睡眠不足にもなっている。
このままじゃ彼女が死んでしまう。
「……ねぇ、神様。私がどうにかするのってできないの?」
『お前は既に死んでいるんだぞ?』
「いや、だからほら、夢枕に立つってあるじゃないですか。彼女に前を見て欲しいんです」
神様の言う通り、死んでいる私なりに考えた手段を伝える。
『ふむ……それ位ならいいだろう』
「本当ですか?!」
『ただ、うまくいくとは限らないぞ?』
「……その時はフォローお願いします」
『まぁ、全部身内の馬鹿の所為だからな、責任は取る。分かった』
「有難うございます」
そう言って、私は彼女が寝るのを待つことになった。
睡眠薬を服用し、ベッドに入った彼女はしばらくしてから眠りについた。
『……よしいまだ』
神様が指を鳴らすと彼女の部屋から周囲の風景が変わった。
誰もいない――いや、クソ野郎に怒鳴られている彼女がいるオフィス。
これは相当ひどいなと思いながら、私は夢の中に姿を現す。
いつもの、着慣れた格好で。
「おい、クソ野郎」
夢の中の「私」は実際怒った通りにあのクソの名前を呼ぶが、呼ばない。
「お前上司……ごぐぇ?!?!」
殴り飛ばす、蹴りつける、どかどかと何度も踏みつける。
「夢の中でも
クソ野郎が消えた。
「こ、高坂、さん?」
彼女――真由美ちゃんが驚いた顔をしている。
私は唖然としている彼女に近づいて肩を掴んでから抱きしめる。
「真由美ちゃん、私が死んだのは貴方の所為じゃない。あのクソ野郎の所為。貴方は何一つ悪くない」
「で、でも高坂さんが私を――」
私は彼女を抱きしめるのをやめ、肩を掴んだまましっかりと彼女を見据える。
「いい、私は、あの畜生以下のクソに殺されたの。貴方が殺したんじゃない、貴方が自分を責め続けているから、私は成仏できない」
私は嘘をつく。
「え……?!」
「言っとくけど、真由美ちゃんが心配で成仏できないだけだからね。確かに目の前で人が死んだ――自分をパワハラから庇って逆ギレしたクズに殴り殺されたのを見てうなされるのは仕方ない。けれども、自分を責めないで。真由美ちゃんは何一つ悪くないんだから」
私は何度も何度も真由美ちゃんに言い聞かせる。
彼女が何も悪くない事、生きている私はもう未来がないけれども、貴方には未来がまだあると、歩む権利があると。
「いい、真由美ちゃん。お願いだから、もう責めないで、貴方は何も悪くないんだからね」
「高坂さん……」
『このクソ女共……!!』
「「?!」」
声がした方を見れば消えたはずのクソ野郎がいた。
私がもう一遍ぶん殴る前に、真由美ちゃんが動いた。
バチ――ン!!
綺麗なビンタの音が聞こえた、そして倒れる音がした。
「このクズ野郎!! 一遍殴りたかったの!! 二度と私の夢に現れるな!! テメェなんか汚物に塗れて死ね!!」
真由美ちゃんはクソ野郎にそう言って、先ほどの私と同じように何度も蹴りつけた。
再びクソ野郎は消えた。
「高坂、さん……」
泣きそうな、それでも頑張ったという顔で彼女は私を見る。
「大丈夫そうだね」
「……はい」
「じゃ、元気でね真由美ちゃん!」
私はそう言って彼女の夢から姿を消した。
もう彼女はあの悪夢を見ない、前に進めると確信できた。
――どうか、私の分まで生きてね――
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