1章-1 ビビオは新種族の説明を聞く1

ガランはまた始まったか、くらいの感情でそういった目に慣れているため受け流すことができるが、ビビオは大丈夫かと隣を見ると、全く何を考えているかわからないぼやっとした表情だった。


実際のところビビオはもともと鈍いというのもあるが、学校で散々出自をバカにされ成績を妬まれたせいかさらに鈍さに磨きがかかり、侮蔑の目など心にかすりもしていなかった。

ただしすれ違った鬼族には、出会ったときから相いれない何かを感じ取っていた。


「よお、悪いなガラン忙しいのに」


にやにやと嫌な笑いを浮かべながら一人のエルフが声をかけてきた。


「問題ない。新しく誕生した部族の調査も俺たちの管轄だからな」


できるだけ手短に進めようとするガランだが、いやがらせがガランに通じないと思ったのかすぐにビビオへ視線を向けた。


「なんだ、役立たずの部署の新入りか?確か首席で卒業したのに分館へ飛ばされた無能だとか。やっと中央に移れてよかったな?」


誰も彼も、みんな自分のことをよく知ってるものだな、とビビオは感心した。


「みなさん私のことをよくご存じで、驚いています。わたしは誰のことも存じ上げず申し訳ないです」


素直にそう言ったビビオにその場の空気が凍り付く。ガランは笑いたいのをこらえたために口元がおかしなかたちになっていたが。


「おい、こちらも忙しい。さっさと説明を済ませるんだ」


例の鬼族が鋭く声をかけると嫌味を言っていたエルフはびくっと体をゆらし、二人を会議机に座らせた。

エルフが杖を振ると、机の上に地図が浮かび上がった。


「新種が見つかったのはここから南東に位置するリブスタレオス連合国、100年ほど前に複数の国が合併してできた国だ。貴族や王族の血筋は残っているが一応議会があり金持ちの市民も議員として参加している。我々国家歴史調査部はリブスタレオスの歴史に疑義があり調査をしていた」

「どんな疑義があったんだ」


ガランが聞くと、エルフは不愉快そうに顔をしかめた。


「お前たちには関係のないことだ、今回のこととは関係がない」

「そうでしょうか」


急に反論したビビオに誰もが驚いた顔をした。


「新種についてはいまだ未知数なところが多く発生理由は明確ではありませんが、何か強い現象が起きて発生するという報告書が多数あります。調査するにあたってあらゆる可能性を知っておく必要があります」

「小娘の言う通りだ」


同意したのは鬼族の男だった。同意されたにもかかわらず小娘呼ばわりされたビビオは「は?」という恐ろしく冷めた声を出して男にがん飛ばした。


「しかしティタニウス、疑義については我々の調査で問題ないと結果がでたはずだ」

「可能性の話だ」


別の司書が声を上げたが、ティタニウスと呼ばれた鬼族は一刀両断した。


「何が理由となるのかわからないと言っている。ここは図書館だ、すべての情報は余すことなくつまびらかにしろ」


腕を組み冷めた目で言うティタニウスは、それ以上説明する気はないとでも言うようにだまりこんだ。説明役のエルフは不承不承という様子を隠すことなく彼らがリブスタレオスを調査をしていた理由についてこちらに説明を始めた。

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