1章-1 ビビオは同級生に絡まれるも天然返しをする

中央図書館の転送スポットに到着し、地上へ上がると見晴らしがよい広大な庭に出た。

規則正しく植えられた花々と樹木の間を様々な種族が歩いているのが見える。周囲は堀でかこまれており背後には険しい山。

中央図書館は婉曲に造られた白壁の豪奢な見た目で、図書館と名がついているがまるで城だ。


「贅沢な見た目ですねぇ」


ビビオはぼやきながら図書館に向かって歩き出した。しかし庭は美しいのであちこちうろうろしながらながめつつ正面入り口から入った。入ってすぐ二階へ続く大階段、大階段の裏側に扉、また左右への通路がある。

国や種族によって分類がまとめてあり、その中でもさらに宗教、産業、歴史書、童話、小説など細かい分類がなされ配置してある。


ビビオは二階の総合受付カウンターへ向かった。階段をのぼると正面にすぐ入口があり、巨大なホールと数十人もの司書がカウンターに並び、カウンター内では忙しそうに司書たちが動き回っている。


異動先は「少数部族情報収集室」というどうやら地味な部署であると聞いていたが、小さな部署は数多くありどこにどんな部署があるのかビビオはほとんど把握できていないため、聞いてみようと近くのカウンターに座っている女性司書に話しかけた。


「すいません、本日より本館の部署に異動になったビビオ・カレシュですが」

「ビビオ?あら、誰かと思ったら」


最初彼女は私が話しかけるまであなた誰?というように首をかしげて、ビビオが名前を伝えると思い出したというように感じの悪い笑顔を向けた。


「首席卒業したくせに分館へ飛ばされた無能じゃない。どうかされたの?」


嫌味ったらしくビビオを攻撃する彼女は、もちろんビビオをすぐに視認していたし話しかけてきたときは嫌味を言ってやろうと待ち構えていた。


彼女、サブリナ・モルサスはいわゆるビビオの同期で学校時代も同学年、親が司書の上層部にいるため取り巻きも多くなにかとつっかかってくる女だった。しかし、ビビオはサブリナの怒りを爆発させる天才だった。


「……?今話しましたが異動でこちらにきました」


暗にたった今ここに来た理由言ったよねと不思議そうに言うビビオ。頬がピクリと痙攣したサブリナだが、気を取り直す。


「そうね、確か少数部族情報収集室だったかしら?せっかく分館から中央配属になったのに、あんな無能のたまり場のような部署って……ふふ」


かわいそう、と笑っているといつの間にか何人かが近寄ってきて同調し始めた。

学生時代、いわゆるサブリナの取り巻きをしていた連中だったが、ビビオは正直誰が誰だかわからなかった。ただ、「学生時代となにもかわりませんね」と思ったままを言うと彼女たちは目を吊り上げた。


「なんなのよあんた、司書として血筋も立場も上なのはサブリナさんなんだから!」


この図書館国家において貴族などはおらず、よって基本的には血筋による身分は存在しないことになっているが、過去王国だったころの古い血筋だった者や、他国からの亡命王族や貴族、そして古くから司書をしている家系などは存在する。


サブリナの家系は代々司書を輩出しており、父親が司書の上層部で働いているいわゆる司書のエリート家系なのだ。

対してビビオはマジもんの農家である。首都から遠く離れたド田舎で6人兄弟の5番目として生まれ、誰からも期待されていなかったにもかかわらず司書という公職につくことができた突然変異だ。


「みんな、血筋なんて関係ないわ。司書は能力が全てだもの」

「その通りですねぇ」


とりなす振りをして分館へ飛ばされたことを腐すサブリナに、ビビオはその裏の意などまったく気づかず頷いた。

(この女、いつもいつも全く嫌味が通じない!)


わかっているのに嫌味を浴びせるサブリナも残念ではあるが、ビビオが人との機微にだいぶ疎いのも事実だった。今までのやり取りもただの旧友との心温まる会話だと思っている。そして、


「それで、情報収集室はどちらに?」


嫌味の応酬をしていたはずなのにこれである。


「……っ!ふん、2階右奥の突き当りを左、さらに突き当りまでいったら右にある扉よ。仕事ができない司書なんて目障りなんだから私たちの前をうろちょろしないことね」

「そうですか、ありがとうございます」


直接的な嫌味も無視をしてお礼を言ったビビオは、その場を離れようと背を向けたが一度立ち止まってサブリナを振り返った。


「サブリナさん」

「なによ」


身構えるサブリナに、ビビオはこう答えた。


「私の異動や配属先までご存じなんて、お仕事熱心で本当に素晴らしいと思います」


「私は誰のことも知らないので」と、心から伝えてまた歩き出した。付き合いが長いからサブリナは理解している。あれは本気で言っているのだ、裏の気持ちなどない。しかしサブリナにはこう聞こえてしまう。


「私のことよく知ってるけど私のこと好きなの?暇なの?あ、私はあんたたちのことなんか眼中にないけど」


その日帰るまでサブリナが怒りに燃えていたことは言うまでもなかった。

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