第二十七話 神傑剣士の印

 そして向かうはルーフ、ではなくまずは会議室だ。ちょっと野暮用を思い出したので制服を着替えて王城内へ向かった。


 当たり前のように第1座に座り、俺が入ってきたことにすら気づかないほど集中していたルミウを第2座に座ってじっくり観察する。


 めちゃくちゃキレイな横顔。あー、ずっと見てたいわ。


 と思ってもさすがにバレる。


 「イオナ、見すぎだよ。何か用事があるなら聞くけど」


 書物に目を落として集中を切らさないまま耳を傾ける。いつからバレていたのか、多分座った瞬間からだな。微塵もその動きを見せないのは慣れたものだ。


 「ああ、最近おじいさんとおばあさんが俺の隠語で連行されなかったか?もしくはその話を他の神傑剣士から聞いてないか?」


 先の事件、プロムとして自首をしたであろう老夫婦が気になった。誰かが裁いているなんてことはないだろうが。


 「しっかり聞いてるよ。その件は後回しにしてあるから君がこの任務から帰って来たら裁いてくれ」


 「まじ?それなら良かった」


 ちゃんと自首をしてくれたことが嬉しい。あの後逃げたりでもしたら殺されることも視野に入れなければならなかった。俺の人を見る目は正しかったってことか。


 「あっそうだ、俺が捕まえた2人はもう?」


 「情報を絞り出させたらよ。正確には自分で、だけどね」


 「そうか、了解。俺の代わりに始末してくれてありがとな。今度プラスで何かお礼するから」


 「楽しみにしてるよ」


 「ああ。そんじゃ行ってくる。明日の7時までに戻らなかったら――頼む」


 「私は寝てるから他に頼んでよ。どうせ無駄起きになるんだから」


 「俺を信じるのは良いが、もしもの時は知らないぞー」


 俺が死んだとき責められるのはパートナーであり、託したルミウ。死ぬことは考えられないが、もしもは常に背後に居る。決して油断してはいけない。


 そしてニアに貰った刀をホルダーではなく鞘に収めて今度こそルーフに向かった。到着予定時刻は19時半。


 ――そして20時、俺はジェルド公爵家の屋根上に誰にも察知されず到着していた。ここからでは誰が何をしているかは把握できないものの、何人の男女がどこにいるかは把握できる。


 その中から1番強い圧を探す。


 「繊心技・サウンドコレクト」


 目的を見つければその先に波を放つ。返ってくるまでの間にレベルをできるだけ確認する。繊細な技術が求められるサウンドコレクトを使いながら、レベルを確認するのは骨が折れる。


 今のとこ折れてないけど。


 「見つけた」


 二階の角部屋、おそらく寝室だな。圧も殺意も感じられる気は全て油断しているもので、平均的なものだ。気派も落ち着いている。


 少なからず幹部であるなら常日頃から神経を張り巡らしているだろうに、このクソジジイは余裕をかましてやがるのか、全く注意が足りていない。


 守護剣士や神託剣士を頼っているのか、死なない自信があるのか。どっちもあるのが面倒だ。


 貴族は守護剣士を護衛に付けることができ、上位貴族ともなれば神託剣士を付けることも可能。ジェルド公爵は神託剣士を2人付けていると聞いている。


 ジェルド公爵がプロムだとはもちろん知らないのだから殺すことはできない。が、もし敵対勢力だと知って神託剣士として付いているならそれはアウトだ。


 俺、判断も苦手なんだよな……。絶対引き受けないほうが良かったやつだってこれ。


 なーんて言ってもやらないといけない。


 ふぅーっとため息を吐き出して仮面を被る。今回は顔バレはしないように隠せとルミウに言われたのでそうする。


 屋根から降りた俺は正面玄関を叩く。こんな時間に尋ねるなんて常識知らずにもほどがあるってもんだ。でもこれはちゃんとした理由があるからジェルドも怒れないだろう。


 「はい、何方でいらっしゃいますか?」


 出てきたのは若い剣士。守護剣士だろう。レベル4であり、主に雑務を任されてる新米パシリってとこだな。


 「夜分遅くに失礼。神傑剣士第1座ルミウ様より、ジェルド公爵への伝言を預かっている。直接伝えろとのことで印も貰っている」


 守護剣士の前に正式なルミウの印が印された紙を見せる。


 「はっ!畏まりました。では、どうぞ」


 神傑剣士の印は有能で、どんなとこであれそれさえあれば入れる。拒否をする場合は理由を説明しなければならず、その説明が認めてもらえないなら強制的に神傑剣士の印の内容が許可される。


 職権乱用だな。


 そのまま守護剣士に付いていく。場所は分かってるので居なくてもいいが、案内なしで初見の剣士がジェルドの居場所を当てれるわけもない。さっさと終わらせたいのは山々だがな。


 んー、この守護剣士は刹那刀か。オリジン刀は扱いにくいタイプってことですか。刀鍛冶と相性が悪いとこうなる。もっと良い刀鍛冶見つけたほうが良いなんてアドバイスした過ぎて落ち着かないな。


 「ここにジェルド公爵がいらっしゃいます。私はこの場にて待たせていただきますので、要件を済ませましたら再びお戻りください」


 「ああ。案内ご苦労」


 「はっ!」


 誓いの敬礼が上手いものだ。俺もこんなカッコよくしたいわ。


 「あっ、少し良いか?」


 「はい、如何されましたか?」


 「貴方は王国に仇なす国民を許せるか?」


 「もちろん許せません!」


 瞳孔、脈拍、気派それぞれ正常。僅かな動揺も見られない。こいつは知らないか。


 「いい答えだ。では失礼する」


 正体不明の仮面野郎ってカッコいいな。ワクワクする。


 心の中ではいつもの俺でありながらも、外見は威厳のある神傑の使徒として振る舞う。そして決戦の場へ足を踏み入れた。

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