外伝:こうして世界は終わった

 Side 宮沢 ケイ


 桜木駐屯地。


 そこが自分達のような少年兵――第044小隊に与えられた居場所だった。


 最前線にして激戦区。


 敵の物量は膨大であり、人でありながらもはや戦略どころか戦術の概念すら捨て去っているような波状攻撃。


 味方も俺達のような少年兵を送り込んでる時点で人材不足だが敵も人材不足らしく、素人にパワーローダーを着せてそのまま戦場に送り込んでるような感じだ。


 敵も味方もベテランと呼ばれる奴はもう殆ど生き残っちゃいないだろう。


 人間が畑から取れるのではないかと言える物量の東側でもそんな惨状だ。


 と言うのも敵のエースはほとんど木之元 セイさん――ウチのエース、紅い稲妻の異名で知られるエースをはじめとした自分達、西側のエースが殺害した。


 だがエースを倒しただけでは戦争は終わらない。


 この果てのない敵の海の先にいる、肥え太ったクソ政治家どもをぶっ殺さないと終わらないと思っていた。


 だがその前に――まさかあんな日が来るとは思っていなかった。



 この日を生き残った仲間達は様々な風に呼んだ。


 世界が終わった日。


 Xデイ。


 終戦日。


 その日は何となくだが予兆していた。


 皆、口を揃えて「俺達の戦いはなんだったんだ!!」と叫んだ。


 自分もそうだった。


 俺の場合は人体改造されてまで戦場に再び送り込まれた身だ。

 

 そうまでして戦争に勝たねばならないのかと嘆いた。


 だが第044小隊の皆のためなら戦えた。


 そのために俺は――あのミスズ隊長の制止を聞かずにバカみたいに、ワケも分からず核シェルターを守るために戦った。


 俺はパワーローダーを身に纏う。


 最新鋭の第三世代のパワーローダー月光などを含めて様々なパワーローダーが桜木駐屯地および、第044小隊は集められた。


 上の連中は良い装備を与えてやるから死んでこいと言う意味なのだろう。


 だが今となってはありがたい。


 上の命令は"お偉いさんが到着するまでシェルターを死守しろ"とのことだった。


 日之本 ミスズ隊長は「今の今まで散々こき使ってこれってなによ!?」と命令を無視した。


 皆文句どころか隊長に同意し、一足早く退避した。


 だが敵の動きも想像以上に素早く――四方八方から核シェルターを確保しに近隣の敵部隊が集結してきた。


 さながら鋼鉄の波。


 昔見たSF映画みたいな状況だ。

 

 エイリアンか人かの違いでしかない。


 ギリギリまで第044小隊の戦闘要員は戦った。


 だが隊長やセイは苦渋の決断を下そうとしたので、密かに他の隊員同士で示し合わせて眠らせて――俺は貧乏クジを引くことにした。

 

 自分はサイボーグ。


 普通の人間じゃない。


 普通の人間よりもとにかく頑丈で、そして長生きするように作られている。


 戦争が終わっても俺の戦いは終わらない。


 ならいっそここで死んだ方が楽だろう。


 そう思ったから引き受けた。


 アメリカ製のバスターシリーズのカスタム機。


 深緑色の歩く武器庫――バスターカスタムと仮称しよう。


 背中に二門のビームのミニガン。

 両肩サイドに二連奏キャノン。

 手にビームアサルトライフル。

 両足に小型ミサイルコンテナ。


 大多数の敵との戦いを想定した今の状況にピッタリの装備だ。


『最後の最後までうじゃうじゃ湧きやがって!!』


 とにかく必死に敵を倒す。

 体の各部のビームやキャノン砲が火を噴き、敵のパワーローダーやロボット、車両やヘリなどで即席のバリケードが出来てしまう。


 だがそれでも敵の勢いは止まらない。


 敵も生き延びたくて必死なのだ。


 だがこちらも必死だ。


 善悪もなにも無いだろう。

 

『で、アル? どうしてお前も残った?』


 アル――緑色のフェイスカバーに純白のヘルムのような頭部の白い機体、パワーローダー寄りの軍用ロボット。

 人手不足を補うための無人兵器計画で産み出された製造モデルだ。

 正式名称は無人パワーローダーアサルトアイゼン。


 両腕にガトリングガン、サブマシンガン。

 背中のパックパックに接続されているアームユニットには頭部を挟む形でキャノン砲二門、胴体の側面にガトリングガンが接続。

 両足部にはそれぞれ二門のキャノンユニットが接続されている。

 

 名前は昔の有名だったラノベのAIキャラクターを験担ぎとして名付けられた。


 そいつが俺のバックアップに回ってくれている。


『私ならば核爆発で生存できる可能性は高いです。それにこう言う時のための無人兵器なのでしょう』


『お前も、もう立派な隊員だ。悲しい事言うんじゃねえよ』


『ありがとうございます』


 全身の火器を惜しげも無く発射し、自分達の基地もろとも敵を吹き飛ばす。

 もう何体倒したかなんて分からない。

 敵はまるでゾンビのように味方の死体を踏み越えて迫り来る。

 本当に中に人間が入っているのかどうか怪しい程の狂気を感じた。

 もしかすると何割かはウチの隊にいるアンドロイドか、アルのようなAI操作なのかもしれない。


『基地の迎撃システム全壊、残弾の消費量から計算するにこのペースでは三分も保ちません』


『・・・・・・最悪自爆システムを作動させてこいつらだけでも道連れにするぞ』


 パワーローダーの動力は小型の核融合炉。

 その気になれば小型の核爆弾にも出来る。

 敵、味方ともにやった常套手段だ。

 幸いその辺に核爆弾つきの鉄の棺桶――もといパワーローダーが転がっている。

 上手く誘爆させれば殲滅も出来るだろう。


 ふと『こんな時に味方の信号――』と、自軍の反応をレーダーが捉えた。


 アルが『この状況下で援軍でしょうか?』と言うが俺は『バカ言うなシェルター開けろってことだろ』と返した。


 そう言うとアルは『もう間に合わないでしょう』と何処か残念そうに言う。


 アルの言うとおりシェルターの開閉には時間が掛かるし今シェルターを開けたら敵と味方も雪崩れ込んで最悪シェルターを開けっ放しのまま全滅する可能性もある。


 それを分かっているので俺は『だよな・・・・・・』とだけ呟いた。


 自爆のプランは消え去ったのは良かったがこの分だと味方にも銃口を向けなくなるだろう。


 核兵器の着弾を早く祈るなんて本当にろくでもない最後だと思った。

 

 だがそれは敵も駆けつけた味方も同じだろう。


 そもそもどうして俺達は戦争なんかしてるんだ?


 東側と西側と言う枠組みに別れて殺し合いした結果がこれか。


 こうなるぐらいならいっそ戦争がしたい奴達同士で殴り合いで決めてくれ。


 そうしてくれた方が平和的だ。


『あ――なんか大事な場面を決め損ねた感じがするな・・・・・・』


 本当に貧乏くじだわと思った。

 サイボーグにならずに死んでりゃよかったと何度か思った事があるが、今もそんな気持ちだ。


 だが悪いことだらけではなかった。


『アル――後どれぐらいで核は着弾するんだ?』


『既に着弾している箇所もあると思われます。ここも、もうそろそろ――』


『はあ、ドラマッティックにいかないな――』


 敵と味方の壮絶な殺し合いを半ば見物状態になりつつ、それでも律儀に引き金を引いてこれまでの人生を考えて――


『漫画みたいな恋愛したかったな――』


 必死に戦っていたせいで分からなかったが、何時の間にか紅い夕日が出ていた。


 何度も見た光景だがこれが見納めかと思うと特別な感情が湧いてくる。


 その夕日を背景に――駐屯地の遥か遠くでキノコ雲が見えて――遅れてその衝撃波で意識が遠退いた。


 それが最後に見た光景だ。



 結論から言うと俺は死に損ねた。


 パワーローダーは耐放射能の防護服としても機能するぐらい頑丈と言われていたが本当だったらしい。


 アルは――核のEMPを受けても大丈夫だった。外郭がパワーローダーだからかAI――頭脳に当たる部分は無事だったようだ。


 だがここからが本当の地獄だった。

 

 俺と同じようにパワーローダーを身に纏っていたせいで死に損ねた連中が敵味方ともにとても多かった。


 核兵器が落とされてもなお、ゾンビのように立ち上がり、シェルターを確保しようと戦い続けた。

 

 その光景は恐怖でしかなかった。


 冷静に考えれば分かることだがシェルターの開閉機能は外部から操作できないように出来ている。


 にも関わらず狂ったように殺し合っている。


『お前らのせいでこんな事になったんだ!』


『うるさい!! 俺達だってこんなとこで死にたくなかったんだよ!!』


『黙れ!! 死ね!!』


『どうせ俺達全員死ぬんだ!! 殺してやる!!』 


 そして徐々にではあるが殺し合いが始まる。

それが大規模な戦闘になるのは時間の問題だった。

 俺はアルを引きずりながら(つきあってられるか)とその場から退避した。


(死後の地獄の方が地獄なのか、今のこの世が地獄なのか、わかりゃしねえ・・・・・・) 


 そこからサバイバルがはじまった。


 大気中の放射能がある程度収まった頃にはシェルターから退避したメンバーと合流し、生き残っていた事を大層驚かれた。


 俺も正直驚いている。


 その頃には駐屯地での戦闘は沈静化していて、シェルターの扉周辺には力尽きたゾンビのように核爆発で"多少の時間"生き延びたパワーローダーが大量に倒れ込んでいてホラーだった。

 

 残ったのは核兵器で汚染された死んだ世界。


 ここから第044小隊は隊長の指示で(他にやることねえし)長い長い復興作業に従事することになる。

 

 END

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