第8話 再会
「しかし良かったのか? オリハルコンの剣なんて高価なものを買ってもらって」
「気にしないでください。元を辿ればランの剣が折れたのは俺のせいですから」
覚醒した力を使い、俺は数多くのSランク魔物を倒して回った。その素材を売って得たお金でオリハルコンの剣を購入し、ランに渡したのだ。俺と出会わなければもしかしたらあの剣は折れなかったかもしれない。そう思うと罪悪感があったのだ。
「それこそ、君を助けなくともあのブラッドドラゴンには出会っていたかもしれない。そうなればどちらにせよ剣は折れていた。だから、剣が折れたのは君のせいでは無いよ」
「なら、パーティ結成祝いってことでもらってくれませんか?」
「そうか。なら、ありがたく頂戴しよう」
これで少しは気分も晴れるというものだ。
ランと話すことに夢中になっていたが、俺たちの前方に魔物の気配がしたためそちらに注意を向ける。
「魔物がいますね」
「ああ、私も確認した」
数十メートル先にAランク級の魔物、グレートスライムが群生している。ヤツらをただのスライムと侮ることなかれ、物理攻撃を無効化する特性を持っているため有効打は魔法か有利属性での攻撃に限られる。物理で固めたパーティなんかだとかなりの強敵になる厄介な魔物だ。
逆に魔法ダメージの通りは良いため、魔法職にとっては良いカモでもある。
「ラン、俺が属性をエンチャントするので前衛頼みます」
「了解!」
俺はランの剣に攻撃力強化と火属性付与のエンチャントを行い、ついでにラン自身に身体能力強化の付与も行う。
「うおぉぉお!!」
ランは瞬く間にスライムの群生地に飛び込み、そのままスライムを一匹また一匹と斬り倒していく。グレートスライムは火に弱いため、火属性を付与すれば物理攻撃でもヤツらを倒すことが出来る。
身体能力強化によってランの移動速度は遥かに上昇しており、その動きにスライムたちは翻弄されているようだ。
「最後の一匹!」
ランが最後の一匹を斬り、魔物の気配は無くなった。
「君のエンチャントを受けると、自分が強くなったかのように感じてしまうな」
「そんなこと言わないでください。実際、ランの剣の腕は大したものですよ」
「そう言ってもらえると、嬉しいものだな」
俺はあくまで身体能力を上昇させただけ。その後に必要な技術などは本人に依存する。
「リアぁぁぁぁぁっ!!」
「今のは!?」
突然、ダンジョンの奥から聞き覚えのある少女の悲鳴が聞こえた。それは紛れもなく、長いこと共に冒険者としての道を歩んできたメルのものだ。
それに、同じくパーティメンバーだったリアの名を叫んでいる。
この状況が指し示すことはただ一つ。彼女たちが危ない……!
俺たちは声の聞こえた方へ急いで向かった。
「クソッ!! こいつ、攻撃力が高すぎる!!」
ヘルマンティスは絶え間なく俺へと攻撃を繰り返す。今はなんとか盾で受けられているが、このまま攻撃が続けば先にバテるのは間違いなく俺の方だ。そうなれば近接職では無いメルとリアはまず助からない。
いや、何より俺の命が危ない。最悪こいつらを囮にして俺だけでも逃げるか……。せっかくこんな美人になったってのに勿体ないが、命あっての物種だ。俺だけ生き残れば後は他の女を探せば良いだけだしな。
「あれ……メル……?」
「よかった! 生きててくれた……!」
「リア! 寝起きで悪いが回復を頼む!」
「う、うん!」
なんとかリアの回復が間に合った。ヒーラーさえ戻ってくれば後はこっちのもんだ。俺が攻撃を耐えつつメルが魔法を打ち込んで終わり……。
「え……グロス……?」
急に視線が低くなった。
何が起こった……?
痛い。腰周辺から、タンクとしての耐久スキルが無ければ到底耐えられるものでは無い程の痛みが襲ってくる。
「あ……ぁ?」
うまく言葉が出せない。
「グロス……下半身が……!」
俺は残された力を使い、自分の腰を当たりを確認する。そこにあるはずの下半身が無い。俺の下半身が丸ごと斬り落とされていた。
「う、うわぁぁああっぁあぁあ!?」
「グロス、落ち着いて! 今ポーションを……」
ギラがこちらにポーションを投げる。かろうじてキャッチしそれを飲む。これでなんとか出血を抑えることは出来た。
「おい、アイツをなんとかしてくれ! 俺は今動けないんだ!」
「私が止めます!」
ギラは大剣を使いヘルマンティスの攻撃を止める。だが反動が大きく、後ろにのけ反ってしまった。
その隙を、ヘルマンティスは逃さなかった。
「うっ!!」
ヘルマンティスはギラを吹き飛ばし、そのままの勢いでメルとリアの元へ向かっていく。
「おい! リアは、やめてくれ! ソイツがいないと俺の怪我が……!」
「いや……死にたくない……。誰か……助けて……!!」
ヘルマンティスの大きく鋭い鎌がメルとリアを切り裂こうと振り下ろされた時、見覚えのある……忘れるはずも無いヤツがその鎌を素手で受け止めた。
「ギリギリ、間に合ったようだな」
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