第27話 致命的な、勘違い。
部屋に現れた人物は俺の実姉、沙月姉ちゃんだった。
俺が目を見開いて驚いていると、姉ちゃんはこちらに嬉しそうに手を振ってきた。
「やぁやぁ、マコトぉ!! 元気にしてた~?」
「なっ……! どうして沙月姉ちゃんがここに……?」
「もう、お姉ちゃんにそんなことを言うなんて酷いじゃないの。せっかく会いに来たっていうのに」
「そっちこそ、そんなこと言ってる場合か! それにコイツの協力者ってどういうことだよ!?」
ベッドの上で拘束されたまま、俺は事情を説明するように訴えた。
しかし当の姉ちゃんはというと、こちらの必死さを余所に相変わらずマイペースだ。まるで緊張感がない。
「えっとねぇ、まず最初に言っておくけど、アイテムをこの子たちに提供したのは私なんだ~」
「なっ、なんでまた!」
「まぁちょっといろいろあってね。でも安心して、マコトのためにやったことだから」
どうも要領を得ない話だ。
とはいえ姉ちゃんが嘘を言っているとも思えない。いったいどんな理由があってそんな真似を?
混乱を深めている俺の元に、それまで黙っていたタカヒロが口を開いた。
「まぁ、そんなことはどうでもいいじゃないかマコっちゃん」
「はぁ? どうでもいいわけねぇだろ!! だいたいお前の狙いは何だ! 姉ちゃんたちに何をした!」
「質問が多いなぁ。そんなに一度に聞かれても答えられないよ」
「……んだとっ!? おい、お前ふざけんなよ!!」
あまりに余裕ぶった態度に苛立ちを覚えて怒鳴りつける。だがタカヒロはまるで意に介さない。
それどころか俺の神経を逆なでるような、まるで友人のように親しげな笑みを浮かべたまま、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
そしてタカヒロはとても穏やかな口調で諭すように語りかけた。まるで子供でもあやすかのように。
「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ。それに僕もマコっちゃんと同じ境遇なんだしさ」
「はぁ……?」
コイツは何を急に言い出しているんだ?
「マコっちゃんは元々、この世界の住人じゃないでしょ?」
「――っ!?」
「突然、この世界に飛ばされた。そうだよね?」
待て待て。今なんて言った!?
それに同じ境遇ってまさか、タカヒロも俺と同じ転移者なのか……!?
「ハイスクール・クライシス。三年前にとある同人サークルから発売されたエロゲー。……マコっちゃんも知っているんでしょ?」
「そ、それは――!!」
その名前だけじゃなく、発売の経緯まで知っているだと!?
さすがにそこまでは莉子たちにも話していない情報だ。ということは本当に……?
「(いや、待てよ? こうなってくると、マズイことになってくるぞ……)」
これまでは俺だけがこの世界の真相を知っていると思って行動してきたが、他にも転移者がいるとなると話がだいぶ変わってくる。
俺は目の前の男を睨む。
そもそもコイツが死を偽装したのは何故なんだ? わざわざ手を込んだ真似をしてまで、俺やトワりんを巻き込んだ理由は?
それを確かめるべく警戒を強めながら、慎重に探りを入れることにした。もし仮にこいつが何かを企んでいるのだとしたら、油断はできない相手である。
「……そこまで俺に信じてほしいなら、お前の目的を正直に言ってみろよ」
「あはっ、もちろんだよ。……僕はね、マコっちゃんと一緒に救済エンドを目指したいんだ」
「救済エンド? ま、まさかゲームには無かった生存ルートのことか?」
俺の問いかけに対し、タカヒロは笑顔を絶やさぬまま首肯で返した。
「(話を聞く限り、矛盾点は無い。もしコイツの言うことが、すべて本当だとしたら……)」
タカヒロにゲームの知識があったとすれば、自分が殺される未来も当然知っていたはずだ。
ともすればどうにかして生き残りたいと思うのは、ごく自然な流れだろう。
だからゲームのエンディングで自分が殺される前に、先手を打ったということか。ある意味では俺と同じ思考だったと言える。
「(だがそうなると、もしかして……)」
「おい、タカヒロ。お前の知っていることを洗いざらい話せ。その口ぶりだと、お前を狙っている黒幕の正体も知っているんだろ?」
「まぁまぁ、落ち着いてよ。別に傷つけたりするつもりはないからさ」
「こんな状態で落ち着けるかよ!! 良いから早く俺たちの拘束を解けって!」
「そんなに急かさなくても話が終われば解放するし、情報は最初から話すつもりだよ。……の前に。マコっちゃんはこのハイスクール・クライシスというゲームについて、どの程度のことを知っているのか教えてくれないかい?」
最低限の情報共有をしておきたいからね、とタカヒロは付け加えた。
そんなことを言われても、俺はこのゲームをプレイしたことがあるだけだ。
俺はトワりん推しだったし、他のヒロインの攻略ルートは軽く触れた程度。唯一分かっているのが、どのヒロインを選んだとしても、結局主人公とマコトは死ぬということだけ。
「作中では黒幕の正体なんて出てこなかったし、大して気にしたことも無かったよ」
だがそれを伝えると、タカヒロは満足げにうなずいた。
「うん、実際にプレイしたことがあるだけでも十分な知識を持っているよ。正直、ホッとした。……それにやっぱり、嬉しいな」
なんだ? 今の会話にコイツが喜ぶ要素なんてあったか?
「実は僕、このハイスクール・クライシスを開発した一人なんだ」
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