第20話 巨乳お姉さんと、オイルマッサージ。


 食事の後片付けを終えた俺たちは、そのまま入浴タイムに突入した。


 トワりんは先に脱衣所に向かい、その間に俺は準備をする。


 彼女に俺も一緒に入ろうと誘われたのだが、鋼の意志でお断りさせてもらった。前回みたいに骨抜きにされると、この後にする予定である新アイテムのお披露目に支障が出ると思ったからだ。



「よし、始めようか」


 一人リビングに残った俺は邪魔な家具をどかし、代わりに必要な道具を並べていく。


 まずはテーブルクロスを敷き、その上にアロマオイルの入った瓶を置く。次にバスタオルを何枚も重ね、その上から厚手の布を被せる。最後に照明を少しだけ暗くし、雰囲気作りを行う。


 そうこうしているうちに、トワりんは浴室から出てきた。



「え? どうしたのコレ? すっごい雰囲気出てるじゃない!!」

「あぁ、お帰り。姉ちゃん経由で、ちょっといいアイテムを手に入れてさ」


 彼女は体にバスタオルを巻いた姿で、濡れた髪を別のタオルで拭いている。そんな彼女を見て、俺は思わず息を呑んだ。


 湯上がりの火照った肌。ほんのりと赤く染まった頬。潤みを帯びた瞳。とても色っぽくて艶めかしい。見ているだけでクラリときてしまう。


 こんな人が自分の恋人だと思うと、自然と顔がニヤけてくる。



「ちょっとマコト君~? いくらなんでも、ジロジロと見過ぎじゃない?」

「――え? あっ。ご、ごめん。つい見惚れちゃって」

「も~。そんなに見たかったのなら、マコト君も一緒に入ればよかったのに。……タオルの中も見ちゃう?」


 トワりんはこちらに向かってバスタオルをずらす。彼女のたわわな胸が見えそうになったところで、慌てて目を逸らした。


 危なかった……。もう少しで理性を失うところだった。


(いや、ダメだ。今日は我慢しないと)


 俺は気を引き締め直すと、彼女に背を向けたまま話しかけた。正直言って、今の俺は理性を保つので精いっぱいだ。



「と、とにかくマッサージをするから。トワりんはそこに寝てくれる?」


 そういって、用意してあったビニール製のマットを指差す。すると彼女は素直にベッドの上に横になった。


「うふふ、照れちゃって可愛いなぁもう」

「もう、茶化さないでってば。ほら、始めるよ」


 トワりんはクスッと笑うと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。



「はーい。よろしくお願いしますね、マコト先生♪」

「はい、任されました。トワりん先生」


 彼女の誘惑に耐えきった自分を褒めつつ。俺は気を取り直して、ポケットの中から”とあるアイテム”を取り出した。


 それは小さなガラス製の小瓶だ。中には薄緑色の液体が入っている。俺はそれを自分の手に塗り始めた。


 これはマッサージオイルと呼ばれるもので、その名の通りマッサージに用いるオイルだ。


 このオイルにアロマや薬効成分のある物を加えることで筋肉をほぐし、さらなるリラックス効果を得られるのだが。



「(もちろん、エロゲ世界のマッサージオイルが普通なわけがないよな)」


 俺が仕入れたのは、『塗る塗るオイル』だ。開発提供元の沙月姉ちゃんいわく、このアイテムのテーマはストレス社会で疲れた女性を癒すこと。香りも良く、肌にも優しいということで、世の女性ウケを狙ったものなのだとか。


 だがここはエロゲ世界。これは体のコリだけじゃなく、心もほぐせるアイテムらしい。


 マッサージをしている間、使用された者は催眠状態となり、無条件で使用者に心を許すようになるらしい。


 ”らしい”というのは、俺はゲームプレイ中に使ったことがないからだ。

 心を許すといっても、その効果は大したことがない。精々が好きな食べ物や行きたいデートスポットを教えてくれるといった程度。


 つまり、好感度を上げるためのヒントを得られるだけなのである。


「(マッサージするシチュエーションになるぐらいなら、その時点ですでに好感度は高いだろう――という尤もな理由で、どのプレイヤーからもクソアイテム認定されていたんだよな……)」


 そういうわけで、実際の使い道なんてほとんどなく、通常のプレイ中では使用されることは滅多になかった。まぁ、とあるキャラクターにだけ面白イベントが用意されていたので、ネタとして使う奇特なプレイヤーはごく少数はいたのだが。



 ゲームの話はともかくである。俺が置かれているこの状況に限っては、まさにピッタリのシチュエーションである。


 コレを使うことで、タカヒロの死で壊れかけてしまったトワりんのメンタルを癒してあげたい。それが今回の俺の目論見だ。



「まずは肩周りからやるね」

「うん、分かったわ。優しくお願いね」


 トワりんがうつ伏せの状態で、体を横にする。


 バスタオルが床にはらりと落ち、彼女の裸体が露わになった。


「(おほっ、やっぱり大きい……!)」


 胸の巨大マシュマロが体重で潰れて横にはみ出している。頭に置いているクッション枕よりも高性能そうだ。くぅ、今だけ俺もマットになりたい。


 そんな煩悩を振り払い、俺は彼女の背中にオイル塗れになった手を伸ばしてみた。そして、そっと触れる。


 ――ピクン。


 触れた瞬間、トワりんの体がビクついた。



「ごめん、冷たかったかな?」

「うぅん、違うの。ちょっとビックリしただけよ」


 続けて、と彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめると、こちらを振り返ってくる。


 その表情は何かを期待しているようにも見えた。



「それじゃあ続けるけど……」


 俺はもう一度、彼女の体に触れた。今度は冷たい思いをさせないように注意しながら、ゆっくりと。首筋から肩甲骨にかけて、両手を使って撫でるように優しく揉んでいく。


 ――むにゅっ。


「んっ……」


 ――ぷにゅん。


「ああっ」


 ――ふにょん。


「んんっ、んぁっ」


「(しゅ、集中できねぇ……!!)」


 トワりんの艶めかしい声に、どうしても反応しそうになってしまう。しかも、腰まわりを揉んだ時なんて、明らかに感じていたような……。



「マコトくぅん、どうしたのぉ? 手ぇ、止めないでぇ……」

「え!? ああ、悪い。次は脚をマッサージするね」

「うん。お願ぁい……」


 トワりんに急かされ、俺は慌ててマッサージを再開する。


 彼女の太ももに手を伸ばすと、またトワりんの口から甘い吐息が漏れた。



「(こ、これってもう効果は出ているよな?)」


 これ以上はいろいろと危険だ。

 俺は内心で焦りながら、トワりんが催眠に掛かっているかを試してみることにした。


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