第2話
「や、やっと終わった……」
書類の山をなんとか片付けた俺は力尽きていた。
「もう何もやる気にならない……帰るのすら苦痛でしかない………」
「はい。これ。」
そう言いアキ姉は俺にコーヒーを渡してきた。
「ありがとうございます。」
早速俺は渡されたコーヒーを飲む。
「一仕事した後のコーヒーは格別だなぁ〜」
「はぁ〜。元はと言えばイツが仕事を面倒くさがって後回しにしてたからこんなに大変な思いをするんだよ。今後は、仕事は溜めないようにしなさいよ。」
「返す言葉もありません。というか綾瀬先生……その化けの皮が剥がれていると言いますか………いつも通りの口調になってますけど…」
「今この生徒会室にいるのは私とイツだけだから大丈夫!!イツもいつも通りで大丈夫だよ!」
「そう言うところからボロが出るんじゃ……」
「いいの!学校にいる間ずっと猫かぶってるのも結構疲れるんだよ。誰もいない時くらいは許して!」
「まあアキ姉がいいならいいけど……てか俺そろそろ帰るよ?」
「いいな。私も帰りたいよ……」
「だって仕事まだ残ってるでしょ?」
「うん。」
「じゃあ頑張って。俺も頑張ったから。」
「わかった。じゃあ、頑張るから今度クレープ食べに行こう。」
(やっぱりクレープ食べたかったのか……)
「わかったから頑張って。」
「うん。」
(なんかこうしてるとどっちが年上か分からなくなってくるな……なんか年下みたいでかわいいな………)
「じゃあ俺帰るけど頑張ってね。」
「うん。」
寂しそうにするアキ姉を見て正直待ってようかとも思ったが下手に誰かに見られたら面倒なことになりそうなのでアキ姉には悪いが先に帰ることにした。
♢♢♢♢♢♢♢
夕暮れ時
特に何も考えるわけでもなくただただ黙々と家に向かっ歩いていた。
そんな時だった。1人の少女の歌声が微かに聞こえてきた。
いつもなら無視して家に帰っているのだがなぜかこの日は違った。
なぜか少女の歌声に惹かれたのだ。
少女の歌声に惹かれてついた場所は見覚えのある公園だった。
ここに来るのは久しぶりだ。
昔はよく毎日のようにここに来ていたが最近ではほとんど来ていなかった。
自分では意識してはいなかった今思えば、あえてこの場所に来ないようにしていたのかも知れない。
俺は少女の方に目を向けた。
歳は俺と同じくらいだろうか。
少女はベンチに座りギターを弾きながら歌っていた。
夕暮れで少女の髪が真っ赤に染まっている。
その風景を見て俺は、過去の思い出がフラッシュバックする。
そう、あれは確か5年前。
当時中学1年生になりたての俺はたまたま立ち寄ったこの公園でベンチに座りギターを弾きながら歌っている少女と出会った。
その時も確か夕暮れ時で少女の髪は真っ赤に染まっていた。
その時の少女は今歌っている少女よりもう少し幼かったが、当時とても衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。
今歌っている少女も過去の記憶の中の少女にどことなく歌い方が似ている気がする。
透き通った伸びのある歌声。
声質は全然違うはずなのにどこか懐かしさを感じた。
そう言えば久しぶりにまともに音楽を聴いた気がする。
今まで言っていなかったが俺はあまり音楽を好ましく思っていない。
別に音楽自体を批判しているわけではない。
例えば、BGMが一切かかっていない店は堅苦しい感じが出ていて店に入りづらかったという経験をしたことはないだろうか。
BGMをかけることで少し場が和み誰でも入りやすい雰囲気を作り出す事ができる。
また、音楽にはリラックス効果があるとも言われている。
最近では音楽を聴くことでストレスを発散していると言う人もいるほど音楽には良い点がある。
しかし、俺は音楽が苦手だ。
その為普段は極力音楽と関わらないように生きてきた。
でも今日は違った。
きっとまだ今日見た夢の件を引きずってるのだろう。
(もう家に帰ろう。)
家に帰ろうと公園を出ようとした時、先ほどまで歌っていた少女に声をかけられた。
「ねぇ」
周りを確認し俺しかいないことを確認する。
「俺?」
「そう。」
「何?」
「もう帰っちゃうの?」
「ああ。」
「最後まで聴いてってよ。」
「すまないが夕飯を食べないといけないからな失礼するよ。」
俺はやんわりと断った。
「もったいないよ。もう気づいてるんでしょ?」
「何がだ?」
「だから、歌声で気づいたでしょ?」
「え?」
「……………」
2人の間に沈黙が流れる。
「ま、まさか本当に気付いてないの?」
「どう言うことだ?」
「じゃあ、ナナカって言えばわかる?」
「誰だ?」
「ウソーーーー。まじで言ってる?」
「すまん。本当に誰かわからない。」
「自分で言うの恥ずかしいけど、最近人気出てきたシンガーソングライターだよ。この前は週間音楽ランキング5位とって近年ずっとトップ5を独占してたエキザカムの間に割って入ったって一時期すごい取り上げられてたんだけどなぁ〜」
「へー。すまない。俺普段音楽全然聴かないからそう言うのに疎くて……」
「まさかエキザカムも知らない?」
「それは一応知ってる。」
エキザカム。
それは5人組のバンドグループだ。
顔出しはおろかシルエットすら公開しておらず完全に声のみの公開。
約2年半前に活動を開始し、活動期間は半年も満たしていないが全5曲を世に出し日本中に大ブームを巻き起こした伝説のバンドグループ。
2年前に活動休止を発表してから今まで音沙汰なく、消えた天才バンドグループとも呼ばれている。
新曲の更新がないのにも関わらず、今でなお音楽の日間・週間・月間・年間ランキングでトップをキープしておりファンもまだ多くいるらしい。
「エキザカムは知ってるのに私のことは知らないの?」
「すまない。」
「もー結構有名だと自負してたのになぁ〜」
「そもそも俺は音楽聴かないから知らないだけで他の人は知ってるよ。多分。」
「てか君はなんで音楽を聴かないの?」
「その……あの………」
(どうしよう…………音楽やってる人に「音楽が嫌い」なんて言ったら怒るよな……)
「そ、そんなに興味が持てない的な?そ、そんな感じ……」
「へー。じゃあ私が興味持たせてあげる!」
(しまった………言い方をマイルドにしすぎたか…………)
「いやー……遠慮しておきますよ。あなたに悪いですし………」
「遠慮しなくて大丈夫だって!!私、
(果たしてここで自己紹介していいのか……?これ、自己紹介したら追いかけ回されたりされないよな………でも学校に七瀬って苗字の人いないから学校で危害ないなら、もうここにさえ来なければ大丈夫なはずだ。)
「天沢樹」
「天沢君よろしくね!」
(これ以上の長いはきっと危険だ。)
「そ、その、七瀬さん。俺もうそろそろ家に帰らないとだから……それじゃあ。」
俺は急いでその場を離れる。
「天沢くーん!また明日ー!」
(え?明日もここに来いってこと?七瀬さんには悪いが俺はもうこの場に来ないと心に誓った。)
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