第42話 ふるさとのスギライト魔法

 朝の仕事である畑の手入れが終わった。テーブルがある部屋で休憩していた。

 今後のことを考えた。収穫になれば野菜を運ぶのに苦労しそう。手軽に野菜や大きな品物を運べる手段も考えたい。


「転送魔法は存在すると話していたよね。宝石魔法で同様な魔法を作りたい」

「二点間を移動するために使うのでしょうか」

「収納と移動目的よ。イロハお姉様が作ってくれた収集部屋を活用したい。旅に出たときに貴重品をなくしたくない。貴重品は収集部屋にしまって必要なときに取り出す。旅先とこの家への行き来にも使える」


 イロハ様に頂いた家を拠点にしたい。この場所が私にとって、この世界のふるさとだった。何処へ行っても簡単に戻ってきたかった。

「安全に旅ができれば安心できます。どのような魔法を考えているのですか」


「今ある転送魔法と同じ雰囲気で考えている。魔方陣を作って、その間を移動する。最初は収集部屋と私がいる場所との間よ」

「同じ見た目なら見つかったとしても平気でしょう。アイ様側の魔方陣はその都度ごとに描くのでしょうか」


「緊急時にも使いたいから事前に魔方陣を描いておきたい。普段から身につけている品物なら、より便利になりそう」

「ペンダントはどうでしょうか。アイ様から離れることはありません」

 イロハ様にもらったペンダントがあった。これ以上に安全な品物はない。


「一番安心できる。でもペンダントに魔方陣を刻んでも平気だと思う?」

「アイ様が楽しむためなら問題ないと思います。イロハ様の加護には影響しません」

「目立たないようにリボンの裏側へ刻むね。次は魔法の中身を決めたい。魔方陣を作る魔法と転送する魔法は分けたい」

「どのような宝石を使うのですか」


 プレシャスが目を輝かせている。まだ決めていなかった。転送や移動に関する宝石は思いつかなかった。別の視点から決める必要がありそう。

「関連しそうな宝石が見つからないのよ。転送や移動以外で思いつく単語はある?」

「空間はどうでしょうか。考え方を変えれば、収集や大事な品物もあります」


 プレシャスは頭の回転が早い。すぐに別の視点を示してくれるのが嬉しかった。

「この魔法の目的は大切な品物を収集部屋に保管する。プレシャスの言葉から思い浮かんだ宝石があった」

「何の宝石でしょうか」


「あまりジュエリーでは見かけない宝石で名前はスギライト。紫色の模様が素敵よ」

「聞いたことのない名前です。転送魔法との関連は何ですか」

「スギライトは私が生まれた国の学者が発見した鉱物ね。収集部屋には大切な品物も入れたい。元の世界は私のふるさとだった。ふるさとは大切なものよ」


 もう戻れる可能性はないと思う。今の生活は楽しくて満足している。でも心の中に記憶として残しておきたかった。

「素敵な考えです。アイ様のふるさとを思い出す宝石が見たいです」

 プレシャスが顔をすりつけてきた。宝石への興味以外に、私を心配しているのかもしれない。プレシャスの何気ない仕草が嬉しかった。


「宝石魔図鑑で見せるね。私がいた国で採取されて新鉱物として認定された宝石よ」

 スギライトの頁を表示させた。

「淡い紫色から濃い紫色まで、色が混ざっています」

「同じ紫色でもアメシストとは雰囲気が異なるのよ。産出量が多い地域は、私がいた国と見た目が異なるみたい。硬度はオパールに近いのね」


 全ての宝石を知っているわけではない。宝石魔図鑑には宝石の説明も書かれている。解説を読むだけでも楽しかった。

「柔らかい宝石ということでしょうか」


「ルビーやサファイアのような固さはないから、取り扱いには注意が必要ね。オパールも硬い宝石と一緒にしまうと傷が付くから注意していた」

「宝石の保管時に注意が必要とは知りませんでした。作成する二つの魔法は、どのような効果を持たせるのですか」


「魔方陣はクリア以外で消えないようにしたい。自然由来の素材で描けば平気と思う」

「先ほど使った魔法の肥料はどうでしょうか。アイ様らしい魔方陣になります」

「その発想は面白そう。ぜひ採用したい。魔方陣の模様は元いた世界を表現する」

 地球の姿を魔方陣にしたい。ふるさとにも通じる。

「魔方陣を見るのが楽しみです。転送魔法はどのようにしますか」


「私が指示した人や品物が目的の魔方陣へ転送できる。転送できる人や品物が何処にあるかは、意図的に宝石魔図鑑には書かない」

「何故ですか」

 プレシャスが首をかしげた。


「離れた場所の品物でも、緊急で転送する可能性があるからよ。転送先の空間に別の品物があるかもしれない。その場合は別の品物を押し出して出現させる。転送先の基本は魔方陣の中ね。でも手元に呼び出す場合も考えて、任意に変更できるようにしたい」


「魔法の効果が分かってきました。アイ様の宝石魔法は柔軟性に富んでいます」

「楽しまないと損だからね。今回の魔法は他の人に気づかれたくない。魔法発動時は魔方陣の色が変化する程度で済ませる。発光もなしにしたい」


 暗闇で魔法発動が分かると問題になりそう。今回は見た目で楽しめないのが残念。

「宝石魔図鑑と魔法発動で出現するルースはどうしますか? 自動で出現しています」

「忘れていた。二つの魔法とも両方が出現しないように書いてみる。それで駄目なら場所や大きさを変更できないか検討する。今の内容と呪文を宝石魔図鑑に書くね」

 決めた内容を宝石魔図鑑に書き出した。最後に呪文も記入した。スギライトを使った二つの魔法が完成した。

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