第9話 ギルドマスター登場

 ハンターギルドに戻ってきた。ライマインさんが試験結果を報告してくれた。自素石をピミテテさんに渡した。見慣れない装置を持ってきて自素石を置いた。

「間違いなくリーフウルフの自素石です。アイさんは私よりも若いのに凄いです」

「魔物の種類が分かるの?」


「どの魔物から取った自素石かは、鑑定魔法で分かります。ただいつも鑑定魔法が使える人材がいるとは限りません。ハンターギルドには鑑定可能な装置があります」

「魔法の効果を装置に取り込んだ感じ?」

「アイちゃんの考え通りさ。試験は問題ないようだね。でも合否はマスター次第さ」

 リリスールさんが答えてくれた。


「そのうちマスターが来る。アイは少しだけ待ってくれ」

「用事はないから平気よ。先ほども鐘の音を聞いたけれど、時間を知らせているの?」

「アイちゃんは本当に常識を知らないのかい。鐘は一日五回鳴るのさ。日の出と真上、日の入りのときだよ。残り二回はその中間さ。三刻の鐘が昼食の合図だね」

 元の世界で考えれば、朝六時から三時間おきくらいだった。


「生活する上で重要だから覚えておく」

「アイの常識なさには驚くが、俺は異国の魔法に驚いた」

「アイちゃんは珍しい魔法を使うのかい。珍しい魔法ならマスターの耳にすぐ入りそうだよ。この街一番の黒魔道士さ。魔法の探究心も強いから驚くかもしれないね」


「黒魔道士は職業の名前なの?」

「ハンター以外にも一般的に使われる名称さ。職業に近い意味合いだよ。攻撃魔法を使うハンターを黒魔道士、神聖魔法を使うハンターを白魔道士と呼んでいるのさ。マスターの攻撃魔法は見物だよ」


「私の話ですか。人のいないところでの噂は感心しません」

 女性の声が聞こえた。振り向くと入口に女性が立っていた。大人の若い女性だった。人を惹きつける魅力的な姿だった。綺麗な長髪で肩には鳥が乗っていた。

「入会希望で試験は終わったところさ。マスターを待っていたのさ。アイちゃんだよ」

 リリスールさんが答えてくれた。


「私がマスターのコララレです。入会希望は少女ですか。リリスールは本気ですか」

「俺が試験で確認した。変わった攻撃魔法だが一撃でリーフウルフを倒した。初めての魔物退治だったとは思えない実力だ」

「使い魔がいて初めてですか。探究心をくすぐります。ライマインが知らない魔法も、確認する価値があります」


「少女の使い魔は気配をおさえている。僕の勘だと話せるよ」

 鳥が話した。使い魔で間違いなさそう。それも話せる珍しい使い魔だった。

「話せる使い魔ですか。ラミリーチュの直感はよく当たります」

 コララレさんが、興味深そうな目で私を見ている。プレシャスに目を向けた。座った姿勢で私を見つめていた。私の指示を待っているみたい。


「プレシャスの判断に任せる。私には常識がまだ分からないのよ」

 イロハ様の世界で、使い魔の扱いが不明だった。プレシャスが立ち上がった。

「わたしはプレシャスです。アイ様のお世話をしています」


「探究心をくすぐります。その年で話せる使い魔がいます。どのような魔法を使うのでしょうか」

 名称を考えてなかった。宝石魔図鑑からの魔法よね。素直な名前が分かりやすい。

「宝石魔法よ。変わった呪文で効果も特徴的。ただプレシャスは私の使い魔とは違う」


「アイ様」

 プレシャスが声を張り上げた。今までにない強い口調だった。

「アイの使い魔ではないのですね。契約した主人以外と一緒は初めて見ました。それもここまで従順しているとは、探究心をくすぐります。ぜひ詳しく知りたいです」


 普通は他人の使い魔は従えないみたい。プレシャスは私を様で呼んでいる。傍から見れば私の使い魔と考えるはず。私が口を開くと、またおかしな発言をするかもしれない。プレシャスに助けを求めるため視線を送った。

「わたしは、アイ様のお姉様にあたる方の使い魔です。異国では一般的です」

 最後の言葉を強調していた。


「この大陸では考えられません。異国は遠い場所ですか」

「あなた方が到達するのは無理な場所です。運よくアイ様とわたしのみが、この地にたどり着けました。これ以上は、あなた方の命に関わる内容となります」

 プレシャスは頭の回転が早い。嘘は言っていない。最後の言葉も本当と思った。私に何かあればイロハ様が黙っていない。つまり女神様の神罰が下るのだ。


 コララレさんが口を閉ざしている。考え事をしているみたい。数秒で口を開いた。

「続きは後日がよさそうです。探究心をくすぐる人材です。本来なら入会を許可できる能力まで達していません。ですが討伐依頼は、ランク2になるまで監視役をつける。この条件でよければ、入会を許可しましょう」


「私はそれで平気よ」

「迷いはないようですね。アイは今日からハンターです」

「アイは凄いな。マスターが即決で認めた」

 ライマインさんが驚いていた。


「ギルドメンバーの証を作ります。ザムリューン国内なら身分証明にもなります。ピミテテ、準備をお願いします」

 ピミテテさんが奥から品物を取ってきた。手のひらに乗る大きさだった。

「この紙に名前を書いてください。ハンター区分も決めてもらいます。最後に血が一滴だけ必要です。痛くないから大丈夫よ」

 上側にはリガーネッタと書かれていた。下側に名前とハンター区分を書く欄がある。


「ハンター区分は何があるの? どんな意味があるの?」

「パーティーを組むときの参考にします。区分は接近物理、遠隔物理、回復魔法、攻撃魔法です。ライマインさん、アイさんの区分はどれが妥当だと思いますか」

「攻撃魔法が無難だ。魔法で剣を出したが、基本は魔法による攻撃だ」

 職業が偏らないための区分ね。私の場合は仲間に接近物理がいると安心できそう。


「ハンター区分は攻撃魔法にする。名前も書いたよ。これで何をするの?」

「ハンターギルドの証に血を一滴垂らします。最後に魔法を使って所属ギルドなどを写します。特殊な装置で見れば、本人かどうか証明できます。準備ができました」


「アイは証に手をかざしてください」

 コララレさんの指示に従った。手をかざすと、コララレさんが呪文を唱えた。知らない魔法だった。血が一滴、証に垂れた。痛みは感じない。今度は異なる呪文を唱えた。証に文字が刻まれた。


「ギルドメンバーの証です。受け取ってください」

 表側には街の名前と私の名前があった。ハンター区分の下には数字が書かれていた。裏側には円形の模様が刻まれている。


「大切にするね。名前の下に1が書かれているけれど何の数字?」

「ハンターランクです。ランクは1~10まであります。ランク4以上が一人前です。裏の模様はこのギルドの印です」

「頑張って一人前になるね」


「アイはギルドメンバーになりました。歓迎します。異国とザムリューン国では文化が異なります。何かあればピミテテに聞いて下さい」

「いつでも気軽に声をかけてください」

 ピミテテさんが優しく答えてくれた。


「アイちゃんは常識知らずだから心配さ。即決でマスターに認められるとは、アイちゃんにはイロハ様のご加護があるようだね」

 言葉を疑った。思わず一歩下がった。ペンダントの加護は誰にでも分かる? イロハ様に会っていると感じ取られたかもしれない。意味が分からなかった。


「アイは異国の出身だった。不思議な顔をしても仕方ない。イロハ様について教える。この大陸全土で、多くの人間が信仰している女神様だ」

「光と影を司る全知全能の神様だよ。過酷な地域では、別の神様を信仰している人間もいるさ。でもイロハ様は別格だよ。あたいも信仰している」


「リリスールは口が悪いが神聖魔法を使える。数少ない回復魔法が使える人材だ」

「一言多いよ。簡単な怪我や病気なら治せるさ。でも無理はしないでおくれよ」

 信仰の意味で言ったのね。実際に会っていると言ったら驚くはず。イロハ様との関係は私の心にしまっておく。


「まだ魔物退治に慣れていないから慎重に行動する」

「魔物の特徴は俺が教える。魔物退治には力だけでなくて、知恵も必要だからな」

「ライマインから知恵と聞くとは、あたいは驚いたよ」

 みんなが笑い出した。釣られて私も笑った。みんなが私を歓迎してくれた。ギルドの扉を開けてよかった。


 急な環境変化があった。でもイロハ様の世界で生きて行けそう。急に目頭が熱くなってきた。涙が溢れて止まりそうになかった。イロハ様とプレシャスは優しくしてくれた。でも気を張っていたのがわかった。

「アイちゃん、どうしたのさ。急に泣き出して辛いことでもあったのかい」

「嬉し泣きよ。私はこの雰囲気が好きみたい」


 しばらくすると気分が落ち着いた。ハンターギルドの仕事は、街になれてからでも構わないと言われた。仕事の依頼方法や報酬内容、ランクアップの説明も聞いた。依頼によって点数が決まっている。依頼成功で点数が入る。一定点数以上でランクアップする。


 注意事項も教えてもらった。一通りの説明を受けた。

 緊急連絡用に家の場所を教える必要があった。まだ地図を把握していない。説明が難しかった。リリスールさんが一緒に家まで来てくれた。


 何事もなく家まで到着した。

「この場所に住んでいるのよ。静かで素敵な場所でしょ」

「家があるとは知らなかったよ。たしかに素敵な感じだね。まるで神殿の祝福部屋にいるような感じさ。心が温かくなるよ」


「気に入ってくれてよかった。家でゆっくりしていく?」

「用事があるから帰るよ。あとで来たいさ。でもアイちゃんは不思議だね。まるで誰かに守られているみたいさ」

 リリスールさんは神聖魔法を使える。信仰心も高いから、イロハ様を思わせる発言になるかもしれない。


「いつでも遊びに来てね。食事をご馳走したい」

「楽しみにしているよ。分からないことがあれば、いつでも聞いておくれ」

 リリスールさんが家をあとにした。

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