異世界女神様に溺愛された ~アイは宝石魔図鑑で世界を楽しみます~

色石ひかる

第1部 大切な宝石

第1石 オパール

第1話 女神様に溺愛された

 目を覚ますと宇宙にいた。正確には見渡す限りの星空だった。さきほどまでミネラルショーに行っていた。勝利品を片手に家へ帰る途中で世界が揺らいだ。

「意識と体が繋がりました。これで償いができます」


 声の方向を向くと女性が立っていた。全身が光輝いてダイヤモンドみたい。理想とも言える顔立ちで長い髪も素敵だった。まるで女神様みたい。

「私に何かあったの? 今の状態が飲み込めない」


 声に違和感を憶えた。同じ女性の声だけれど、幼い少女の声だった。

 私は倉木くらき彩香あやか、二十四歳。何処にでもいる普通のOLで、給料の大半はルースにつぎ込んでいた。ルースはジュエリー加工前の石単体で、宝石の輝きに魅了された女性よ。体を動かすのも好きだった。


「ワタシはこの世界を管理している、イロハ・ミララッテです。あなたはワタシの世界で残りの人生を楽しんでください。元の体は再生不可能で妹と同じ姿にしました」

「ちょっと待てよ。私が私でなくなるの?」

「見た目が異なるだけで、あなた自身です。ワタシの姿でも可能ですが、生活が成り立たないでしょう。新たな人生です。あなたの名前は妹と同じアイです」


 目の前に鏡が現れた。鏡の中に少女が写し出された。見慣れない服装で中学生くらいだった。本来よりも十歳くらい若いかもしれない。発育もよくて、中学時代に憧れていた容姿だった。肩まで伸びた髪は青白かった。


「本当に少女の姿ね。私の知らない科学技術よ。ここは日本なの? 海外に連れて来られたかもしれない。償いも意味が分からない」

「ここは地球ではありません。別世界です。地球は妹が管理しています。妹の手違いであなたを消滅させてしまいました。元の世界に復活できませんでした。姉であるワタシが管理している世界に復活させました」


 小説や漫画にある異世界転生みたい。現実するとは思わなかった。普通に考えれば別人の姿にはなれない。私を騙して得する人もいない。

「イロハさんは、この世界を作った女神様なの?」

「概念は合っています。ワタシを信仰している人間も多いです。人間は魔物を退治してくれます。信仰心の厚い人間にはワタシの加護で神聖魔法が使えます。怪我や病気を治せる回復魔法です。極僅かですが、直接会って話した人間もいます」


 姿だけではなくて本当の女神様だった。本来は対等に話せる立場ではなさそう。せっかくもらった機会だった。有効に活用したい。

「内容を整理すると、第二の人生をイロハさんが作った世界で過ごす」

「その通りです。ワタシからの指示はないです。あなたの好きなように、ワタシの世界を楽しんでください。世界を破滅させなければ、何をしても構いません」


 私は両親を知らなかった。児童養護施設で育った。施設の人に恩返しができない。友達と別れるのは悲しい。昨日も友達と一緒にカラオケで歌って踊った。もっとルースを拝みたかった。魅惑的な宝石は地球の奇跡だった。


 この姿を見れば悟るしかなかった。元の世界に戻れない。

 前向きに考えてイロハさんの世界を堪能する。元の世界に彼氏はいなかった。素敵な出会いがあるかもしれない。イロハさんの世界にも宝石があれば嬉しい。イロハさんの様子が変だった。真顔で私を見つめていた。


「呼び方を変えましょう。あなたの姿は妹のアイです。精神以外は全て再現しました。アイは別世界で滅多に会えません。でも今はあなたがいます。いえアイがワタシの世界にいるのです。アイはワタシをイロハお姉様と呼ぶのです」

 最後は命令口調だった。理由はわからない。でも逆らうつもりはなかった。


「イロハお姉様。これでよいですか」

「愛しいワタシのアイ。ワタシの楽しみが増えました」

 抱きついてきた。いくら同じ女性でも、素敵な女性に抱きつかれると赤面する。振りほどける力はなかった。私の気持ちは気にしないのか、頭を撫でて頬ずりをしてきた。


 心の中までイロハお姉様では恥ずかしい。心の中ではイロハ様ね。イロハ様は妹が好きみたい。いや溺愛している次元よ。時間が経つと暖かな雰囲気に包まれた。精神が癒やされて気持ちも落ち着いてきた。

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