第248話・暴力団疑惑
ゴミ出し、と言ってもビルの一階に集積所があって、そこに置くだけだ。会社というのは結構住み心地がいいのかもしれない。もちろん、秋葉家以外で会社に住むなどおそらく無理だが……。
その帰り道、ちょうどまだ一階にいるときにインターフォンが鳴った。
急いで駆け寄ってみると、そこには現代のヒーローがいた。
「こんにちはー! 警察のものです!」
何か悪いことをしてしまったのではないかと、僕は焦って訊ねる。
「こんにちは。株式会社秋葉家所属のVTuberの秋葉リンです!」
だが、心配する必要はなかったのだ。悪い人の所には、お巡りさんも複数人で向かう。
「あ、秋葉リンさんですか! そうですよね、秋葉家ってそれですよね!?」
その雰囲気は和やかで、そして少し申し訳なさそうであった。この時点で気付いた。別に悪いことをしたのではないと……。
「パトロールですか? ご苦労様です!」
警察についてそんな詳しいわけでもない僕は、警察といえばパトロールな印象だ。
「その一環なんですけどね、どうも近隣企業の社員さんが、ここを暴力団と勘違いしたみたいなんですよ! 笑っちゃいますよね!」
言われてみれば、無理もない話だ。
「あはは、秋葉家ですもんね! 勘違いされちゃいましたか……」
この社名は、若干暴力団っぽいかもしれない。秋葉家を知らない人からしたらもっとだ。
「そうなんですよ! で、リンさんがいらっしゃるのも確認できましたし、職務的には十分なんですけどね……」
なんか、このお巡りさん、僕のことを知っているっぽい。むしろ僕の中で、ファン疑惑まで浮上してきている。
「中、見たいですか?」
見せても特に問題はないと思うし、更に言うと得もありそうだ。合法的組織だったという、警察のお墨付きがもらえるかも知れない。
「できれば是非! そうしてくれると、周辺企業の方もより安心ができそうですし」
どっちの行動をとっても、仕事として問題ないようだ。
「じゃあ、ちょっと取締役に連絡しますね!」
会社としての決定もあるし、やっぱりママとの意思疎通は必要である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一人で案内するつもりだったが、ママは楽しそうと言ったのである。よって、僕たちは事務所で落ち合うことになった。
「取締役って、未散さんですよね……。そうですよね、秋葉家ですもん……」
そう、うちは暴力団などではない。時折暴力的なてぇてぇを供給することはあるが、健全な企業だ。
「そうですよー! 弁護士なメンバーもいるから、法律違反なんてできません!」
「お、カゲミツさんですね!」
この人、間違いなく親戚隊だ……。秋葉家視聴者だ。
「知ってるんですか!?」
「いやぁ、実は本官がKCで、妻がおちびちゃんなんですよ! 子供が出来たときは、未散さんを参考にしようと話しておりまして……」
これが、僕がお茶を淹れて戻ってきた時の会話である。
春と秋は困る。暖かいのがいいか、冷たいのがいいか……。
「お茶です」
とりあえず、僕はそれをお出しした。
「ありがとうございます! あ、話しすぎましたね……。職務中に失礼を……」
ちょっとだけ僕も心配だったのだ、そんなに話していいものなのかと。お茶出しがいいきっかけになったようだ。
「気にしないでください! でも、参考なんてそんな……。私は、当然のことを続けているだけですよ」
とママは言うが、僕はママ以上に模範的な母親は存在しないと思う。ただ、ちょっと甘やかしは過剰の可能性が否めない。
「いえ、本当に参考にすべきとおもっています。おててないないを除いて……」
そう、そこが過剰なのだ。僕はおまわりさんに同意した。
「だって、あぁでもしないとリン君は甘えてくれなかったでしょうし……」
「僕はママを信頼してるから甘えるんだけど?」
僕はママをじっとりとした目で見た。
「ん? これは、てぇてぇ不供給罪に抵触しませんか!?」
まずった……。密告されてしまう。
「この程度なら暗黙の了解で許されますよー! この程度が該当しちゃったら、私たちはずっと服役中ですからねー!」
だが、実はママは今服役中である。
「なるほど……。では、抵触しないと本官も解釈します! で、できれば社内をしっかり把握できるものってありますか?」
多分、このお巡りさんはあの放送の時仕事中だったのだろう。
「本社紹介の生放送がアーカイブに残ってますよー!」
「社内を一般に紹介してらっしゃるんですね! 本官もそれを拝見することにします! して、どんな放送ですか?」
「リン君と二人で、雑談しながら本社の内装が終わったところを紹介して回ったんです」
ママが答えたあと、お巡りさんの腰が一瞬浮いたのを僕は見逃さなかった。
でも、お巡りさんは事も無げに言う。
「できれば、内装の無い部分も把握したいんですけどね……」
「じゃあ、見取り図作ってホームページに載せてもらうのはどうですかー?」
ママが答えると、今度こそお巡りさんの腰は着地しなかった。
「是非お願いします! では、本官はパトロールに戻ります! これにて!」
タイミングを考えるに……。
「アーカイブ見に行くのかな?」
「多分そうだね……」
僕たちにはそれがお見通しなのである。
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