第224話・Tha ballots
やがて、投票結果が出たとのメッセージが控え室に届く。
僕たち四人はステージに戻った。全員、素晴らしいアーティストだ。もちろん、自分も含める。
ここまで来ることができたんだから、自覚しなくてはいけない。僕も、そうだ。ここに肩を並べるにふさわしい。
『今年の決勝戦は四人を進出させた。そして、その全員が素晴らしかった。マジシャン、Alice! コメディアン、Ben! ダンサー、Arc! ディーヴァ、Rin! 困難な選択を迫られている。だが、決めなくてはならなかった! 国民は選んだ!』
煽るような、炉に風を送るふいごのような、司会者の言葉。
息を呑む、無数の気配。AliceさんとBenさんの間にアントさん。僕と、アークさんの間にディックさん。
発表寸前の、待ち時間。それが、永遠のように感じられた。
だけど、それはついに告げられた。
『BGT・2025。勝者は……Rin Akiha!!!』
僕はディックさんに手を掴まれ、それを掲げさせられる。
追いつかなかった、現実感。だが、紙吹雪が舞い、そして観客のみんながスタンディングオベーション。それは、紛れもなく僕の視界に広がっていた。
割れんばかりの歓声が証拠だ。僕は、完膚なきまでに裏切ることができたのだ。観客たちの、不安を。
ディックさんは僕を持ち上げて、振り回す。
「わわっ!?」
その間にも現実感はどんどん追いついてきて、膝がどんどん笑っていく。
「
と、アークさんが言って、僕は彼の前に下ろされる。
アークさんからハグをされて、その時気づいたんだ。膝が笑い転げている。僕には、もう立つことができない。
「
アークさんは、自分に預けられていく僕の体重に気づいたのだろう。
「ok……」
と、一度小さな声で言い、次に大きな声で言った。
「
「
そう言って、コメディアンのBenさんが近寄ってくる。
「
マジシャンのAliceさんがいうと、僕は急に浮遊感を感じる。
正直怖い、これじゃあまるっきり魔法だ。いや、本当に種も仕掛けもないのではないだろうか……。
僕はそのまま宙を舞って、Benさんの頭上に運ばれた。
足を掴まれて、開かされて、Benさんに肩車される。足腰立たなくなった僕への、最高の配慮だった。
そんな僕に、アークさんは小さな声で言う。
「
Benさんはそんな声が聞こえていただろうに、何も聞いてないふりをしてくれた。
僕たちを見て、アントさんが言う。
『素晴らしい光景だ! 聞くまでもないかもしれないけど、今の気分はどうだい?』
そんなの、決まっていて、全員で顔を見合わせた。
「
その短い言葉以外何もいらなかった。
『これじゃ、退場させるわけには行かないな! このまま行くぞ! ヒーローインタビューだ!』
マイクが手渡される。でも、僕は姿勢を維持するのに精一杯だ。
『リン、優勝したんだよ! 今の気持ちは!?』
心臓の強くて速い鼓動、呼吸すらも深く早く……。だから、僕は気づいた。
「すごく、興奮してます。優勝できるだなんて思ってもみなかった……」
興奮だ。限界値を超えて、それがそうであるということに気付くのに時間がかかるほど巨大な。膝も笑うわけである、体も震えるわけである。
『たくさんの人が君に投票したんだ! 伝えることはあるかい!?』
そんなもの、ないわけがなかった。
「Thank you so much! 本当にありがとう!」
翻訳なんてさせない、僕の声で、僕自身の言葉で伝えたい。
「
シモンさんが興奮して、審査員席から叫んでいる。
満さんも、Mikeさんも、最上さんも、みんな僕に手を振ってくれていた。
ただ、優勝してしまったということは、確定してしまったということでもある。
『君が、王室の方々に向けて何を歌うのか本当に楽しみだよ! それに、十二分に値する!』
『英国王室御用達のVTuberが産まれるかもしれないね!』
そんな、カオスなことが許されるのだろうか……。
もちろん、見るななんて言えない。だけど、英国王室からスーパーチャットなんて飛んでこようものなら、飛び上がってしまう。そもそも、僕は日本人だ。
『優勝者は、秋葉リンでした!!!』
繰り返し、何度もその言葉を背中に受けながら、四方八方から「ありえるよ!」と英語で言われながら、僕は舞台を後にする。Benさんに肩車されて。
運営側が、便宜を図ってくれて、僕は満さん達に引き渡される。
でも、BGTで僕が得るものはそれだけじゃなかった。当然、賞金25万ポンド、日本円換算約四千万円もそうだ。でも、もっとすごいものを僕は得ていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます