第163話・休憩所

 疲労困憊の状態で次もキャラの濃いVTuberに出られては身が持たない。でも、次は、創介さんだ。


『初めまして! バーチャル、押しかけプログラマーの、春風創介です! なぜ、押しかけ属性が付いたかといいますと、お仕事が欲しかったので公式HPを作らせろと、代表取締役に圧をかけました!』


 頑張ってキャラを濃くしようとしている。とても創介さんは頑張ている。

 だけど、悲しいかな……。普通の人だ。キャラの濃さで、前の二人と並ぶなら、まず普通に自己紹介してはいけない。それに、ちゃんとした初配信をやってはいけない。更には……。


秋葉未散:あれが圧だったの? ママ、すっごい助かるから、普通に任せちゃったいよ!

秋葉文:私の作った文が、ホームページになっていくのは快感でした……。

秋葉ソラ:素材提供頑張った! でも、創介はもっと頑張った!


 ちゃんと圧を感じさせなきゃいけない。感謝されてはならない。

 あと、敬語を使ってはいけない。


『いやぁ、だって拾っていただいた恩もありますし、お役に立ちたいじゃないですか? できることは、やりますよ! と、いうわけで皆さんお気づきでしょうが、私春風創介はプログラマーです! 習得言語はめちゃくちゃたくさん! 配信内容としては、バーチャルプログラミング教室を予定しています! 一緒に、楽しく学びましょう!』


 照れてはいけない。


 その技能は、一般人を超越していると言っても過言ではないだろう。プロフィール画像が表示され、そこには使える言語が羅列してある。HTML、CSS、JavaScriptはひとまとめにされているから1言語としてカウントする。それでもなお、創介さんはバーチャルヘキサリンガル六種類の言語だ。普通に考えるとやばい。


 だが、感性は一般人で、それが春風家の中にあると……。


銀:普通の有能社員だぁ……

婆ショック:癒される……

さーや:なんか、ホッとする……

夜告鳥:ここは、休憩所でしょうか?

初bread:うちの秋葉家がお世話になります

虎太郎:学びましょう路線は、先生と一緒かなぁ?


 視聴者が和むのである。


『頑張ってキャラ濃度で張り合おうとしたんですけどね……。無理ですかそうですか……。いやぁ、春風の兄姉はとてもキャラクター性が強くて、一般人でしか無い私は正直放送裏で胃がキリキリしてました。ですが、皆様一般人路線をお求めくださったようなので、私は一般人を貫きます! 胃を痛めながらも考えた、ファンネーム草案はこちら! #逸般人(願望)です!』


 これは、春風家にとっても本家にとっても稀有な存在になる気がした。

 確かにキャラクター性は強くない。だけど、コメントを取りまとめて、自然な流れを作って、次に話題に繋げる能力。それは、司会適正と言っても過言ではない。


 パワーポイントを駆使して放送を進行するのは、元社会人らしさも感じる。


かえで:(願望)って……身の程をわきまえちゃってるなぁ……

武吉:能力は高いですね。キャラクターは薄味あっさりですけど……

デデデ:あっさりが身にしみる……

ハンッ!すぅ~:なんだろう……滋養にいい……


『あはは、もうすっかり休憩所ですね! #逸般人(願望)はなかなか好評のようで良かったです! もうこちらでよろしいですか?』


 どうしよう……愛おしい。この休憩所が愛おしい。

 っと、これはおそらく孔明お兄ちゃんの罠だ。極限までキャラクターの濃い二人で疲れさせたからこそ、この創介さんが身にしみるのだ。おのれ孔明お兄ちゃん……。


銀:イイ……

初bread:一緒に逸般人目指そう……

さーや:でも本当に逸脱されたら困る……

虎太郎:永遠に一般人でいて……

ハンッ!すぅ~:逸脱されたら休憩所なくなっちゃう

夜告鳥:急性キャラクター性中毒の特効薬としての働きを期待しています


『困りました……。私もいつか、一般人を逸脱したいんですけどね……。でも、皆さんのお気持ちは分かりました! 放送タグ、本来は#バーチャルプログラミング教室で考えていたのですが、そこに(休憩所)と追加しましょう! でも、皆さん、これは草案です! ご意見お待ちしておりますよ!』


 鬼だ……気遣いの鬼がここにいる。ホスピタリティが半端じゃない。推せる……。

 ちゃんと初配信をしているし、見守っていてすごく安心感がある。そのせいで、僕は涙が出てきた。


さーや:ウチの推しが同時視聴枠で泣いてる!

銀:こっちも……

夜告鳥:博先生も安心で涙しています

ハンッ!すぅ~:春風の良心


 僕たちの同時視聴枠の情報が伝書鳩を媒介して創介さんに流れ込む。


『えええ!? 本家の皆さん、泣かないでください! 恩人さんたちに泣かれると、困っちゃいますから!』


虎太郎:ええ子や……

夜告鳥:抗うつ剤の予感しかしない……

デデデ:秋葉グループ(?)の抗うつ剤枠(二錠目)


『ごめんなさい。時間が迫ってしまっているので、タグ決めを優先させてください! まず放送タグの方から!』


 コメント欄が異議なしで埋め尽くされる。


『では放送タグは#バーチャルプログラミング教室(休憩所)! 最後にファンアートタグですが、こちらの草案は#素材提供でいかがでしょう?』


銀:イイ……プログラマー活かしてる

ハンッ!すぅ~:草案が優秀すぎる!


 そんなコメントに押されて、創介さんは決定をした。


『では、#素材提供に決定したいと思います。皆様、ご協力ありがとうございました! お暇な折に、これからの配信にも遊びに来てくれると嬉しいです! ではでは、よろしくお願いします!』


 放送が終了する。本当に、狂おしいほど愛おしい一般人が誕生した。


 創介さんの一般人力は、視聴者さんたちからものすごく愛された。その結果が、登録者数87万人である。プログラミングに興味がある人がそんなにいるとも思えない。滋養のために登録した視聴者の方が多いのであろう。

 とにかく、創介さんは大成功だった。

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