第47話 最強の刺客
上空から襲い来るガーゴイルたち。そのあまりの数に、中庭に集まった衛兵たちが息を飲むのが分かった、だが。
「──各員っ! 全員戦闘配置につけっ! 絶対にヤツらを城内に入れるなっ!」
「はいっ!」
モーガンさんのとっさの指揮に、衛兵たちは普段の訓練通りの動きを見せる。いきなりの来襲であり、戦闘準備を満足にそろえられている状況ではなかったが、しかし王城衛兵たちのレベル平均はいまや20。ガーゴイル程度にそう簡単にやられはしなくなっていた。
「モーガンさんっ! ガーゴイルたちの相手は任せます。俺たちは姫を守りつつ幹部を叩きます!」
「ああ、頼んだぞっ!」
空中で戦況を
「ほォ、いい魔術師が仲間にいるじゃねェか」
「そうだろ? 親衛隊メンバーは全員精鋭ぞろいなもんでなっ!」
ニーニャをレイア姫の護衛に残し、俺がガドゥマガンへと距離を詰める。すぐに俺の槍の必中の距離まで達した。……よし、このままスキル『雷影』で一気にケリをつけるっ!
「……オイオイ、言ったはずだぜ? 『総力戦』だとよォ。オレにばっかり気を取られていていいのかァ?」
「っ?」
ガドゥマガンのその謎の言葉へと、スキル発動を
──ゾワリ、と。空から放たれた大きな闇のかたまりが地上を覆い、その直後に大きな爆発を引き起こす。
「ぐっ⁉」
それはあたりにいた衛兵・ガーゴイルの区別なく、すべてを吹き飛ばした。俺はギリギリで飛びのいたが、しかしその攻撃の余波を受けて宙に弾き飛ばされる。だが、なんとか受け身を取って着地できた。
……今の強力な攻撃はガドゥマガンのものじゃない。そしてギガ級のさらに上位、【グロリアント級】の闇属性魔術である『グロリアント・デミルマ』だ。そして、このグロリアント級の魔術を使えるのはこの世にただひとり。
「いい加減待つのは飽き飽きした。
その雷鳴のように低い声が空に響いたかと思うと、厚い雲の中からひときわ大きなモンスターが飛び出してくる。それは全長6、7メートルはあるのではないかというくらいに大きなワイバーン。しかし言葉を話していたのはソイツではない。そのワイバーンの上に腕組みをして乗っている男だ。
その男はこれまでの三邪天たちよりももっと人に近い造形をしており、しかし、その姿から漂わせる邪悪さは三邪天たちが赤子に思えるほどに色濃いもの。
──魔王カイザース。死神のような真っ黒なローブに身を包んだその男の正体は魔王。この世界を支配せんと目論む諸悪の根源であり、【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】のラスボスだ。
その魔王カイザースはワイバーンの背中から飛び降りて、ガドゥマガンの隣へとスチャリと着地する。
「さて、迎えに来たぞレイア姫よ」
「っ!」
カイザースの言葉にレイア姫の肩が跳ね上がる。
「レイア姫、お前は余の計画に必要だ。共に来てもらおう」
歩みを進めようとしたカイザースの前に、しかし俺は立ちはだかった。
「俺がそれをさせるとでも思ってんのか?」
「……俺たち、でしょうがグスタフ」
「まったくですね」
後ろで姫を守るニーニャの声、そして俺の隣にスペラが立つ。……なんとも心強い。
「そうだな、スマン。俺たちだ。おい魔王ども、よくもまあノコノコと俺たち親衛隊の前に姿を現してくれたな? 俺らがいる限りお前らは指一本たりとも姫に触れることはできねーよ」
「……フン、なんとも目障りな」
カイザースが舌打ちをする。状況は
「──ハッハッハァッ! やはり世界は俺様に味方しているぅッ! ここで俺様が魔王を討ち取れば、すべての功績は俺様のものだぁッ!」
乱戦模様の中庭を突っ切って現れたのは勇者アーク。剣を振りかぶって、いつの間にか魔王の背後を取っていた。
「お前っ! 縄で縛られていたはずじゃっ⁉」
「ハンッ、バカめっ! 俺は盗賊職のスキルを取っていると言ったろうが! 縄抜けなんてお手の物だ! さあこの一撃で死んでしまえ魔王ッ! 『ギガ・スラッシュ』ぁぁぁッ!」
アークの剣が水平に魔王の首をめがけて
──ピタッ、と。魔王の指先がその剣を止めた。
「なっ⁉ 俺様の最大攻撃が……⁉」
「お前が余を殺す宿命を背負った勇者とやらか……フンっ!」
「ぐはぁッ⁉」
魔王の何の魔術でもスキルでもない、ただの蹴りがアークの鎧を破壊してその腹へと深くめり込んだ。その一撃はミシリとアークのあばら骨を
「お前のような虫ケラに殺されるつもりは毛頭ない……が、念には念を。ここで殺しておこう……『グロリアント・デミル・ゾムニア』」
それは魔王カイザースが持つ最強の単体攻撃スキル。膨大な量の闇属性攻撃が圧縮され、1本の槍のように鋭い攻撃となってアークめがけて飛んでいった。……今のアークと魔王のレベルには大きな隔たりがある。この直撃を受ければ間違いなく、アークはこの世に灰も残さず消し飛んでしまうだろう。
「クソッ‼」
俺は地面を蹴って飛び出した。今さらアークを助けたいなんて義理や人情があるわけじゃない。だが助けないわけにもいかない。なんせ魔王にトドメを刺せるのは勇者であるアークだけなのだから。
「そう簡単に殺させるかよっ!」
俺はスキル『
「その程度の防御で余の最大攻撃をどうにかできると思わぬことだっ!」
「分かってるさ、
ゲーム上での魔王のレベルは50。俺がゲーム上で魔王に挑んだ時の勇者アークのレベルはそれを越していたが、しかし『グロリアント・デミル・ゾムニア』を1発受けただけでHPが8割消し飛んだのは鮮明に記憶に残っていた。
……いまのアークにかすりでもしたら確実に
「どぉらぁッ! 吹っ飛べアークッ!」
「ぎゃんッ!」
俺もまたアークのその体を蹴り飛ばして、遠くへと吹き飛ばす。
……これでアークが闇魔術を喰らうことは無く、死にもしない……しかし。
「グスタフっ‼」
ニーニャとスペラの叫び声が聞こえる。そう、今度は勇者を蹴り飛ばしたことで体勢を崩した俺がその闇魔術から逃れることができなくなっていた。
「くっ、『雷影』!」
俺の持つスキルの中で最速の一撃を迫りくるその魔王の魔術へと喰らわせる。少しその威力が弱まった。だが、それでも完全に
「う、うぉぉぉおおおッ⁉」
闇の槍が俺の腹に突き刺さり、そのまま体を大きく吹き飛ばす。勢いそのままにドガァンッ! と背面の王城の壁も破壊して、俺は城内の廊下まで転がされた。
……いってぇ……! けど、幸いなことにダメージはそれほどでもない。『千槍山』と『雷影』によって多少は威力が弱まっていたようだ。腹部を見れば鎧に多少のヒビは入っていたものの、致命的なケガは負っていない。これならまだ戦えるっ!
「魔王ぉぉぉおッ!」
ガレキをかき分けて立ち上がり、俺が再び中庭に出ると、しかし。
「さて、レイア姫。お前は余と共に計画の最終段階を進めようか」
「うっ……!」
ニーニャとスペラが倒れるその中心に立った魔王が、レイア姫の首を絞めるようにして掴んでいた。
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