第42話 決闘開始~その1~

 玉座の間での話し合いを終え、その翌日。

 

 王城の中庭に多くの面々が集まった。衛兵たちが囲む中で俺とニーニャ、そしてスペラの親衛隊メンバーと勇者アークをはじめとする勇者一行がにらみ合う。

 

 ──決闘が始まろうとしていた。


「しっかし急よね、グスタフ」

「悪いな……」


 ニーニャにジト目を向けられて思わず謝ってしまう。確かに昨日の今日で急だし、それに言いだしっぺも俺で、ニーニャとスペラを勝手に巻き込んだのも俺だ。


「私は構いませんよ。この城下町に来てからというものの、連日姫の護衛と魔術の研究だけでしたから。いい刺激になります」

「スペラさん……そう言ってくれると助かるよ」

「どうしても申し訳ないと思っていただけるなら、今度夜這いのひとつでもかけていただければと思います」

「いや、それはしない」


 いつも通りの誘いに即答で断りを入れる。……いや、これがいつも通りっていうのもおかしいが、でもスペラが何かにつけて夜這いを勧めてくるのは事実だからな。もう俺が戸惑うことも無くなった。


「じゃあアタシはねぇ、新しい装備でも買ってもらおうかな」

「待て待て、ニーニャ、『じゃあ』ってなに?」

「え? そりゃもちろん、この決闘に付き合ってあげるアタシたちに対して『申し訳ない』と思ってるグスタフに何かを奢らせてあげようと思って」

「いやいやいや、ちょっと言葉がおかしいよ? 『奢らせてあげる』って変でしょ?」

「それでは私は夜這いの代わりに、少し値の張る薬草を取り寄せてもらいましょう」

「ス、スペラさんも便乗しないで?」


 しかし無念かな、俺の声は2人には届かないらしい(ていうか無視されてる?)。ニーニャとスペラはアレだコレだといろいろと欲しいものを挙げて盛り上がっている。どうやらこれから始まる決闘に勝ったとしても俺の財布は瀕死の重傷を負わされる運命のようだ。


「──それでは両陣営、準備はよいか?」


 低くよく通るモーガンさんの声が中庭に響いた。公務で忙しい王に代わり、彼がこの決闘の立会人として全権を任されているのだ。

 

「フンっ、聞くまでもないな」

「大丈夫です」


 勇者アーク、そして俺が答えると、モーガンさんはそれに頷いて続ける。


「決闘の方法だが、先日の話し合いにもあった通り、勇者一行の案が適用されることになっている。その内容は【親衛隊と勇者一行での3本勝負】。勝負ごとに両陣営から代表者を出し合い決闘を行う。なお、勇者一行側が1本でも勝利をあげればその時点で勇者一行の勝利とする……これで問題はないな?」

「ああ、俺様が提案した通りの内容で間違いない」

「こちらも問題ありません」


 アーク、俺が同時に頷いた。アークは俺の方を向くと気に入らなそうに鼻を鳴らした。


「ずいぶんと余裕そうじゃねぇか、クソ衛兵」

「そう見えるか?」


 ……そりゃまあ余裕もあるさ。勇者が攻略に詰まっている山脈の件から、だいたいの勇者一行のレベルは推察できるしね。保持してるスキルもなんとなく分かる。


 唯一、原作シナリオに未登場なアグラニスにだけは油断ができないが……しかしうちのメンバーの誰に当たったとしても充分に勝てるだけの根拠はあった。


「……オイ、クソ衛兵。お前がいま思ってたことを当ててやろうか?」

「なんだと?」

「『勇者アークに俺が負けるはずがない。今回も余裕で勝ってやる』、とそう思ってたんだろう?」

「……えーっと」


 ……まあ、当たらずも遠からずってところだ。勇者アークに、だけじゃなくて全員になんだけど。


「で、それがどうした?」

「ハハッ、つくづく頭がおめでたい野郎だぜ、クソ衛兵! 悪いが俺はお前と戦う気なんていっさい無ェんだよっ!」

「ほぅ?」

「──それでは決闘を始めます」


 俺が訊こうとするよりも先に、しかし、モーガンさんの声が中庭に響く。


「まずは3本勝負の1本目、【レイア姫親衛隊隊長グスタフ】対【勇者一行剣士ザイン、ならびに勇者一行弓使いエンリケ】!」


 ザワッ、とあたりの面々が顔を見合わせて騒がしくなった。1番は俺がいきなり1本目の勝負に出るということへの驚きの声、次点で1対2という数的不利なことについて憤慨するような声が多かった。


「認めてやるよクソ衛兵。俺様じゃお前にはまだ勝てないってことをな。だがなぁ、俺様はお前以外にだったら負けやしねぇ。次の2本目で盗賊ニーニャと一騎打ちさせてもらう。それにこっちには後詰めにアグラニスもいるからなぁ……! 俺様たちの勝ちはもう動かねーだろ。いまさら後悔しても遅いぜ?」

「……えーっと、あれか? お前は自分が勝てそうな相手と対戦して、どうやっても勝てない俺には捨て駒をぶつけておこうと……単純にそういう作戦なわけね?」


 ……まあ、普通に考えれば、何としても1勝を上げたい側としてはまっとうな手段じゃなかろうか。別にズルではないし。


 しかしアークが俺にこだわらないっていうのはひとつ予想外な点だった。なんなら後半2本をすべて不戦敗にして、先行1本目で【俺1人 VS 勇者一行全員】みたいな可能性も想像していたんだが。さすがに俺の打順には敬遠球を投げる、という理性くらいはアークにも残っているらしい。


「……ちなみにさ、なんで2対1とか、そういうそっちにとって有利な条件をニーニャかスペラにぶつけなかったんだ?」

「はぁ?」

「お前とアグラニスの2人がかりとかでニーニャかスペラと戦った方が勝率が高いとか、そういう考え方はできなかったのか?」

「ハンっ! オイオイ、俺様が1対1で盗賊ふぜいに負けるとでも? この勇者の俺様が? そんなこと天地がひっくり返ってもありえねーよ!」


 アークは鼻で笑ってそう答えた。


 ……どうやら、俺以外のメンツを相当ナメてかかってるらしいな。まあ、ナメてかかられてた方が都合がいいからいいんだけどさ。


 と、そんなことを考えていると、俺の体を大きな影が覆った。


「──おい、俺たちを捨て駒とは聞き捨てならねぇなぁ……!」

「へ?」


 こめかみに青筋を立てて俺の後ろに立っていたのは大剣を背負った巨漢の男と弓を持った細身の男だった。2人ともギロリと鋭い眼光を向けてくる……コイツらがザインとエンリケか。

 

「俺たちのコンビネーションでズタボロにしてやるよ、衛兵ッ!」


 ザインが鼻息荒く、決闘場として用意された中庭の中央の石造の舞台に上っていく。


「2対1をズルいとは言わないでくれよ? 俺たちは試合1本ごとに代表者を選ぶと言っただけで、何人かなんて指定はしていないんだからな?」


 エンリケの方はニヤリとした笑みを浮かべるとザインの後を追った。

 

 ……いや、まあ俺としては全然その可能性も視野に入れてはいたんだけどさ。そんな得意げに言われても……って感じだ。まあどうでもいいが。さっさと終わらせてしまおうと、俺もまた舞台へと上がる。


 ザイン&エンリケの2人とは少し間を空けて、俺は槍を構える。2人もまた大剣と弓をそれぞれで構えた。なるほど、彼らのその立ち姿はかなり様になっている。雰囲気的にレベルも……30弱くらいかな? この世界の平均と比べればけっこう高そうだった。


「──1本目、試合開始っ!」


 モーガンさんの声が響いて、直後、一直線に矢が3本飛んでくる。エンリケによる連射だ。そしてその横を回り込むように、巨体には似合わない素早さでザインが大剣を携えて低く突っ込んでくる。


 ……なるほど。確かに大口を叩くに値する良いコンビネーションだ。正面の矢を槍で叩き落としている間に、死角からザインが特攻を仕掛けてくる腹積もりだろう。エンリケがさらに第二の矢の準備をしているあたり、ザインの攻撃の効果によって別の連携も用意してあるに違いない。


「だけど……相手が悪かったな」


 ……悪いが、今の俺とお前らじゃ動体視力のステータスが段違いなんだ。


 俺はスキルも槍すらも使うまでもなく、飛んでくる矢をすべて手の甲、肘、肩につけた鎧で受けて弾くと、槍の底のつかをザインの下あご目掛けて振り抜いた。


「あぐっ⁉」


 脳震とうを起こしてフラつくザイン。

 

 ……へぇ、一撃では意識が飛ばないとか、結構タフだな。さすがは前衛。と内心でその評価を見直しつつもその体を蹴とばして舞台から落とした。


「なっ⁉ ……くっ!」


 驚きつつも矢を放ってくるエンリケ。俺も今度はそれらを槍で叩き落としつつ、間にある2人の距離を一気に詰めた。それも、ザインをはるかに上回るスピードで。そしてエンリケが次の弓を構える時間を許すことなく、これまた槍の柄でわき腹を突いた。


「あっ、あぐぅぅぅ~~~ッ⁉」


 そこは無防備なレバーの部分だ。瞬間的にではあるが立ってられないほどの痛みと苦しさが体を遅い、昏倒するだろう。案の定、エンリケは地面に突っ伏した。


「そ、そこまでっ! 勝者、グスタフっ!」


 モーガンさんの勝利判定が下った後、おおっ! といった歓声が中庭に溢れた。とはいっても親衛隊メンバーたちは「まあ当然でしょう」みたいな顔して頷いてるだけだけど。

 

 ……姫も、喜んでるみたいだな。満面の笑みを浮かべてくれている。よかった。


「ク、クソっ……! 勇者殿から、聞いてはいたが……ナニモンなんだよアンタ……!」

「ん? あぁ、気絶して無かったのか。お前もタフだなぁ」


 床にせって脂汗をダラダラかいたまま、エンリケが苦しそうに訊いてきていた。


「悪いな、もうちょっと強く打ち込んでればすぐ気絶させられたんだが……」

「……チクショウ。アンタ、レベルはいったい……」

「俺か? 俺のレベルは53だよ」

「マ、マジかよ……ありえねぇ……」


 それきり、エンリケはグッタリと意識を失った。




~現在のグスタフのステータス~

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グスタフ Lv53

次のレベルまでの必要経験値 781

職業:レイア姫親衛隊隊長

スキル 

『槍の王』 LvMAX

→槍術において右に出る者はいない。槍を使用しての攻撃力が極大上昇する

『雷影』 LvMAX

→雷属性の超高速で超強力な突きを繰り出す。この攻撃は防御不可

『千槍山』 Lv8

→地面から伸びる槍の束で相手の攻撃を無効化し、ダメージを与える。ダメージを与えた相手の素早さを大きく下げる

『流水千本突き』 Lv6

→水属性の100連突きを繰り出す。ひと突きにつき10回ヒット&相手の防御力が下がる

『バリスタ・極』 Lv9

→一直線に槍を投げて相手を貫く超強力な攻撃。この攻撃を行う槍の特性効果は大きく上昇する

『溜め突き・超』 Lv2

→力をためて防御不可、超極大威力の突きを繰り出す

『クアトルデント・フォーサー』 Lv8

→四方へと同時に強力な槍の突き攻撃を繰り出す

装備

『ポセイドン・ランス』

→水属性+

『プラチナヘルム』

→素早さ+

『プラチナアーマー』

→素早さ+

『素早さのネックレス・改』

所持金

256,000G


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