第4章 魔術師の美少女エルフとの出会い
第27話 衛兵たちの訓練
勇者アークとの決闘、そしてレイア姫親衛隊として働き始めてから約1カ月が経った。
「せぇいっ! やあっ!」
王城衛兵たちの声があちこちで響く。ここは城下町から少し離れた森の側の荒れ地。彼らは3人1組になって1体のレッド・スライムやフォレスト・ウルフを囲い、真剣に槍を突き出してモンスター討伐を行っていた。
「いいですか、槍の適正距離をしっかり保ってください! それ以上近づきすぎたり、離れすぎたりはしないようにっ!」
「はっ!」
荒れ地を全体から見渡せる高所で、俺がちくいち指示を出すとその度に衛兵たちからは大きな返事が返ってくる。
──これは訓練。俺たち王城衛兵たちは、モンスター狩りをしてレベル上げをするために武装してここまでやってきている。そして俺はその指揮を取っているというわけだ。
「グスタフ殿っ」
「はい、どうしましたか」
「私たちC班、レッド・スライムの討伐を終えました。メンバーのドルトスがレベルアップをしてノルマ達成、カルザももう少しでレベル15です。引き続きモンスターを捜索します!」
「報告どうもです。いや、C班はいったん訓練を終わりましょう。疲れてくると危ないですし。適度な休憩が大事ですからね」
「はっ、お心遣いありがとうございます! では少し休ませていただきます!」
C班のリーダーを務めるその衛兵はビシっと敬礼を決めると、いそいそと戻っていった。
よしよし、労働環境はできるだけホワイトにしないとね。あまりにハードな訓練をしたら俺の評判が落ちるだろうし、そういう悪評がめぐりめぐってしまうとレイア姫の親衛隊隊長という立場から降ろされてしまうかもしれないし。
……しかし、それにしてもいい感じで訓練が進んでるよな。これまでのところ大きなケガ人は出ていないし、衛兵たちのレベルアップも順調きわまりない。
「グスタフ様」
「はい?」
後ろから声をかけられる。レイア姫だ。パラソルの下に置いた椅子に腰かけている姫は、読みかけの点字本を膝に置くとにこやかな顔をこちらに向けた。
「そろそろお休みになられては? もう何時間も立ちっぱなしでしょう?」
「ええ、まあ……でも訓練の指示を出さなくちゃいけませんので」
「あら、先ほどご自身で『適度な休憩が大事』と仰っていたではないですか」
「うっ……そうですね。それじゃあ、少し」
ちょうど休憩をしていたE班のリーダーが近くにいたので、俺はその衛兵に訓練の様子を見張ってもらうことにしてレイア姫の心遣いを受けることにする。わざわざ俺が座る椅子も用意してくれたみたいなので、それに腰かける。
「連日の訓練、お疲れ様です」
「いえ、元々俺が提案したことですので。それにしてもレイア姫には申し訳ないです、警護と訓練を両立させる関係上、姫にも時折こうして外に出てきてもらっちゃって……」
「そんな謝っていただくようなことではありませんわ。それに、私は普段はなかなか外に出ることを許してもらえなかったのものですから、こうして連れ出していただけるのはとても嬉しいのです」
そう言ってレイア姫はニコリと幼げな笑顔を向けた。それは俺へのフォローでもなんでもない、姫の心からの言葉のようだ。
「そうですか。そう言ってもらえるとありがたいです」
「ええ、これからもいろんなところに連れて行ってくださいね、グスタフ様?」
「あはは、陛下の許可が下りれば、ですね」
「むぅ、いじわるですわ。お父様はきっとご許可をくださらないのですから」
俺とレイア姫は2人して笑う。……おぉ、なんか良い雰囲気だな。これで俺が武装なんてしてなかったらまるでデートのようだ。こんな美少女と外に出かける機会なんて前世じゃ恵まれなかったからな……!
「ぶぅ~~~、訓練中に2人だけの世界を作らないでもらえないかしらねぇ~~~」
「うおっ⁉」
すぐ横からいきなりのヤジが聞こえて飛びあがりそうになる。振り向けばそこにいたのは不満顔でこちらを見つめる親衛隊副隊長のニーニャだった。
「ニーニャ、気配を消して近くに来るのはやめてくれって言ってるだろ……いつの間に帰ってきてたんだ?」
「2人がイチャイチャし始めたくらいからよ……フンっ」
どうしてか、ニーニャは何とも不機嫌そうに顔を背けてしまう。相変わらず俺にはニーニャの機嫌の上げ下げのスイッチがどこにあるかは不明だ。でもまあ、1カ月もいっしょに過ごしてきていれば、これが本気で怒っているわけではないということくらいは分かる。
「それで? ニーニャはA班の報告に来たんだろ?」
「アタシの文句はスルーっ? ったく……A班はレッド・スライム2体と途中から割り込んできたフォレスト・ウルフを1体撃破。予定外の戦闘はあったけど全員無傷でレベルアップよ。オリヤがレベル18、アリシアがレベル17。アタシはレベル26になったわ」
「そうか、ありがとう。フォレスト・ウルフによく対応してくれた。さすがニーニャ、お前がいなかったらきっとケガ人が出てたろうな」
「フ、フンっ! まあそれくらいヨユーよ。アタシにかかればねっ!」
褒めると、今度は赤くなってまたそっぽを向いてしまう。今ではこのリアクションの理由も分かる。ただ照れているだけだ。俺とレイア姫はその反応が微笑ましくてつい笑ってしまう。
「な、なによ?」
「いや、別に?」
「嘘よ、絶対笑ってたでしょアンタたち!」
「いやぁ、訓練が順調に進んでいいなぁってさ。そうですよね、レイア姫」
「ええ、まったくですわね。みなさんとても頼りになるのでつい笑顔になってしまいました」
なおもごまかす俺と姫にニーニャは唇を尖らせていたが、
「まあでもホントに順調よね。まさかここまで早く安全にレベル上げができるなんて思わなかったわよ」
「それは本当にそうですわよね。私も王城ではモンスターとの戦闘なんて命がけで行うものだと教わっておりましたので、とてもびっくりしましたわ」
ねー、とレイア姫とニーニャは互いに頷き合った。まあ、この世界の一般的な常識から照らし合わせてみるに、この2人の感覚が正常なのだろう。
……俺としては前世でいろんなRPGをプレイしていたってこともあり、どうしても【モンスターがいる世界=モンスターを倒してレベル上げ】って思考になるんだけどね。
「早くレベル上げができるようになったのは、レッド・スライムとフォレスト・ウルフの出現地を特定できたからだな。城下町辺りだとこの2体のモンスターの経験値効率が一番良いんだ」
「へぇ……そんなの良く知ってたね、グスタフ」
「まあ、ちょっとな」
前世において、この世界とまったく同じ世界観のクソゲー【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】をさっさとクリアしたいがために、効率的なレベル上げ方法を実践していた
今は王城に勤める衛兵たちの全員のレベルを15以上にするという目標を掲げて日々訓練を指揮している。それくらいのレベルにすればまたガーゴイルたちが乗り込んで来たとしても俺を除く衛兵たちだけで充分に撃退できるからな。
「そういえばグスタフ様はご自分の訓練はできておられますか? 私もお父様も、他の衛兵様たちが強くなっていくことばかり喜んでおりましたが、もしやグスタフ様にいろいろと押し付けすぎているのでは……」
「え? いえいえ、そんなことはありませんよ。俺も姫の護衛の仕事が終わった後の時間や非番の日に自主訓練をしていますから」
「……そうですか?」
「ええ。俺のステータスを確認しますか? 『ステータス』」
そうして表示された黒いウィンドウの内容を俺は読み上げた──。
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グスタフ Lv42
次のレベルまでの必要経験値 781
職業:レイア姫親衛隊隊長
スキル
『槍の王』 LvMAX
→槍術において右に出る者はいない。槍を使用しての攻撃力が極大上昇する
『
→雷属性の超高速で超強力な突きを繰り出す。この攻撃は防御不可
『
→地面から伸びる槍の束で相手の攻撃を防ぎ、同時にダメージを与える。ダメージを与えた相手の素早さを大きく下げる
『流水千本突き』 Lv2
→水属性の100連突きを繰り出す。ひと突きにつき10回ヒット&相手の防御力が下がる
『バリスタ』 Lv9
→一直線に槍を投げて相手を貫く超強力な攻撃。この攻撃には破壊効果が付随する
『溜め突き・改』 Lv7
→力をためて極大威力の突きを繰り出す
『クアトルデント・フォーサー』 Lv4
→四方へと同時に強力な槍の突き攻撃を繰り出す
装備
『ポセイドン・ランス』
→水属性+
『プラチナヘルム』
→素早さ+
『プラチナアーマー』
→素早さ+
『素早さのネックレス・改』
所持金
96,000G
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「──とまあ、そんな感じでですね、それなりに強くはなっていますよ」
「す、すごい……42? そんなレベル、聞いたことないですわ」
「うわぁ、それマジで? すご……」
レイア姫とニーニャに、俺はまるで変なものでも見るような目で見られてしまった。
えぇ、そんなかな……? ゲームのレベル上限は100だし、まだ半分もいってないんだけど。むしろここ最近はレベルに伸び悩んでいるくらいだ。
だからできるだけ経験値を多く稼ごうとして、休日に足を伸ばしてレベルの高いモンスターたちが出てくるダンジョンに潜るようにはしてるけど……でも1カ月かけてレベルが20弱しか上がらないなんていうのはゲームとして見れば遅いくらいだ。
……魔王はもうちょっとレベルも高いし、むしろまだまだがんばらなきゃな。
「──グスタフ殿」
そんなとき不意に声がかかった。振り向くと、伝令と思しき兵士がこちらに敬礼して立っている。
「グスタフ殿、陛下がお呼びになっています」
「え? 俺をですか?」
「はい。できるだけ早く、玉座の間に来てほしいとのことです」
俺とニーニャ、レイア姫は一様に首を傾げる。でもまあ王が至急ということで呼んでいるならきっとただならぬ何かがあったのだろう。俺は伝令にすぐに向かうことを伝えると、城下町への帰還の準備を始めるのだった。
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