第24話 一方の俺様系自己中勇者は~その2~

 ──勇者アークの魔王討伐の旅が始まって1カ月が経過した。


 その場所は城下町から北西に20キロの地点にある町、ファボス。そこで一番の客入りがある酒場だった。


「よし、契約は成立だな」


 勇者アークはニヤリと笑った。その正面にいる屈強な男2人もまた不敵な笑みを浮かべる。


「大金をはたいて雇ったんだ、きっちり活躍してもらうからな?」

「任せておけよ。オレは長年冒険者としてこの辺りで幅を利かせてきたんだ。モンスターとの戦闘経験だって数え切れん。レベルも20を超えてるぜ」


 この町一番の剣士であるザインはそう答えると女の腰ほどはある太い腕で力こぶを作った。その腕力は常人の男が両手でやっと浮かせることのできる大剣を片手で振るうほどだという。


「ふふふ、ザインだけじゃねぇさ。俺だってモンスター討伐はお手の物よ。毎月のようにケイブ・バット狩猟依頼を受けているし、その道中で出くわしたスライムやウルフなんかを1人で相手にしたこともある。レベルは19。弓使いじゃこの辺で俺の右腕に出るものはいない」


 同じくこの町一番の弓使いであるエンリケも自信ありげに言う。人伝いにアークが聞いたところでは、変則的な動きで狙いがつけにくく兵士たちですら駆除に手を焼くコウモリ型のモンスター、ケイブ・バットを一撃で仕留める実力者らしい。


「2人ともレベル20近くっていうのは心強いぜ。俺様もモンスター討伐はそこそこやってはみているが……まだレベルは17だ」


 アークは渋い顔をした。


「本当ならガンガンとレベルアップしてるはずだったんだが……ツレがさがし物があるだとかなんとか言いやがったり予定があると言いやがったりでな。モンスターと戦う時間がぜんぜん作れなかったんだ」

「ハハ、まあレベル自体、普段の生活じゃなかなか上がるもんじゃねぇし仕方ねぇさ。それに本来は無理して上げるものでもねぇしな。俺やエンリケは依頼を受けてモンスター討伐を繰り返す中でゆっくりと上がってきただけだからなぁ」


 ザインの言葉にエンリケもまた頷いた。


「レベルなんて上げても何の銭にもならなかったから仕方ないさ。モンスター討伐の腕が上がったところで、これまでと同じモンスターを相手にするのに何の利点も無い。まあ、それもこうして勇者殿が雇いに来てくれたことでようやく報われたがな」

「ああ、よくぞ今日までモンスター討伐を続けてくれていたよ、2人とも。お前たちがいればきっと魔王討伐も果たせるだろう。これから俺様たちは栄光ある勇者一行として、この名を末代まで響かせることになるだろうさ」


 アーク、ザイン、エンリケはジョッキを掲げる。


「俺様たちの輝かしい未来に!」


 カシャンッ! アークたちはジョッキをぶつけ合って中身の酒を一気にあおった。

 

「くはぁっ! 真昼間からの一杯は最高だぜっ!」

「チマチマしたモンスター討伐依頼なんざもうやってらんねーなぁっ!」


 ザインもエンリケもガブガブと、次から次へと酒を飲み干していく。


「いい飲みっぷりだぜお前ら! 金は王からふんだくった分がまだまだ沢山あるんだ、じゃんじゃん飲んでたらふく食べろっ! ここは俺のおごりだっ!」

「勇者殿サイコーっ!」


 カシャンッ! 再びジョッキをぶつけ合い、酒を傾ける一同。アークもまた、今日3杯目になるジョッキを空けた。


「なあ勇者殿よぉ、そういやぁツレってのは誰なんだ? 強ぇのか?」


 ザインが酒で顔を真っ赤にしながら聞いてくる。


「まあ、そこそこできそうな魔術師だ。自分の財布を落とすマヌケだがな」

「神経質なヤツばっかって聞く魔術師が財布をぉ? ハハッ、そりゃ傑作けっさくだ。で、ツレはそれだけか?」

「いや、あともう1人いるが……チッ」

「『チ』?」

「……なんでもねぇ。もう1人は盗賊だがな、コイツは仮メンバーだ。この町でチンケな盗みをやっているヤツを見つけてな、鍵開けができるようだったから捕まえて脅して連れていくことにしたんだ」

「おいおい、ック。チンケな盗賊がなんの役に立つんだぁ?」


 ザインがヒックとしゃくり上げながら言う。酒の飲み過ぎだ。もう9杯はジョッキを空にしていた。


「おいおいザイン、勇者殿の話を聞いてなかったのかぁ?」


 こちらはジョッキ5杯目のエンリケ。しかしやはりその顔は赤い。


「明日は例の【ダンジョン】とやらを攻略しに行くんだと、そう言ってたろうに」

「あー、だんじょん? あぁ、そういえばそうだったなぁ……ヒック。で、それでぇ? なんで盗賊が必要なんだぁ? ック!」

「そりゃあそこにあるかもしれねぇ宝箱を開けるためだろう? なぁ、勇者殿」


 アークは不敵な笑みと共に頷いた。


「ああ、その通りだとも。この前手に入れた宝の地図にな、勇者である俺様にしか読めない古代文字で書いてあったのさ。『そこなるダンジョンに眠りしは、【勇者の鎧】が封印されし場所を示す地図』ってな。言い伝えによりゃあコイツを装備することで勇者である俺様の全ステータスは一段階上昇するそうだ」

「へぇ、そりゃあスゲェなぁ。一部のステータスを上げる装備ですら最上級装備くらいのもんなのに、全ステータスを上げられるってのは破格の性能だぜ」

「ああ、最高だろ? 俺様とお前たち、それにツレの魔術師がいればダンジョン攻略なんざ屁でも無い。サッサとクリアして俺様たちは次にこの鎧を手に入れに行くんだ。それさえありゃあ、俺様に敵うヤツなんざいねぇんだからよ!」

「ほぅ、勇者殿は魔王討伐に熱心だねぇ」

「魔王? まあ、それもあるが、まずは【アイツ】に借りを返して……」

「『アイツ』? 誰だい、そりゃあ?」

「……いや。チッ、なんでもねーよ。ただの独り言だ」


 アークはそう言うと、下あごをさすり、それから嫌な思い出でもいっしょに飲み下すようにジョッキを大きく傾けた。


「さあ、ここの店はもうやめだ。次の店に行くぞっ!」

「2軒目いくのか? まあいいけど……ってオイオイ勇者殿。ザインはどうする? 爆睡しちまってるぜ」

「チッ……おい起きろザイン!」

「う、う~ん……もう一杯……」


 ザインは空のジョッキを掲げてうわごとのように言う。


「ったく、明日のダンジョン攻略にアルコールを残して来やがったら承知しねぇぞ?」

「ンン? だんじょん……?」


 アークの声に反応したザインは、ぼけ~っとしたまなこを擦る。


「なんだっけなぁ、なーんかあった気がすんだよなぁ……」

「なんか、ってなんだよ」

「だんじょんには……なんかがあるとか、ないとか、行けとか、行くなとか……」

「オイ、ワケ分かんねーぞこの酔っ払い」

「……zzz」

「寝るなっ!」


 ──そうしてファボスでの1日は過ぎていった。

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