第16話 新たな出会い~第2ヒロイン~

 さっきまで確かにあったはずの、金貨・銀貨で満たされた俺の巾着きんちゃく袋が……消えたっ?


 ……オイオイオイオイ、勘弁してくれっ……! 俺、あそこに全財産を入れていたんだぞっ⁉ 明日からどうやって飯を食えとっ⁉


 俺が冷や汗をダラダラと流していると、さきほど俺がスラれたことを教えてくれた店主が「ガッハッハッハ!」と他人事のように大笑いした。


「ありゃ最近ウワサの盗賊さ。この城下町の治安をつかさどる守護しゅごのヤツらだってまるで敵わないってハナシなんだから……まあ、諦めることだねぇ」

「いやいや、それを聞いて諦められる額でも無いんだわっ! いちおう、教えてくれてサンキューなっ!」


 礼もそこそこに俺は駆け出した。17,000G、まごうことなき大金だ。衛兵の給料が月に5,000Gなことを考えると、大手企業のボーナス分の額になる。失うには痛すぎる!

 

 人混みをかき分けて盗人らしき姿を捜す。どこだどこだどこだよ? 盗人らしくほっかむりでも被ってもらえてりゃ分かりやすいんだがっ!

 

 そんな時、スッ……と。俺を見て動きを変えたヤツがいた。それは灰色のフードを被っていて顔は分からなかったが、怪しい。


「ちょっと、そこの君っ」

「ちっ!」


 声をかけるなり、そのフードの人間は人混みを縫うように走り出した。しかも、めちゃくちゃ速い。まさか、ビンゴか? アイツが俺の全財産を盗んだのか!


「逃がすかよっ!」


 人混みをかき分けながら盗人の背中を追いかける。盗人は必死になって走る俺を振り返ると、「ふふんっ」と鼻で笑う。


「そんな鎧を着こんだ状態でアタシに追いつけるわけないじゃない」

「な、なんだとぉ!」

「だいたいスられた時点でこの金はアタシのモノよっ! 潔く諦めなさいっ!」

「そりゃいったいどんな理屈だっ!」


 盗人は軽快に人をかわしながらどんどんと前に行ってしまう。クソ、このままじゃまた見失う……と思った時だった。


「ちっ、市場を抜けちゃったか」


 盗人が悪態を吐いた。そう、人で混みあっていたエリアが終わり、見通しが良く走りやすい道に入ったのだ。


「でも、これだけ引き離せていたら余裕で逃げ切れるわ。それじゃあね、お金持ちの衛兵さん」

「それはどうかな?」


 遠くを走る盗人のその背中をめがけて、俺は強く地面を蹴り出した。直後、俺の体は強く引きしぼられた後に放たれた矢のような速さで一直線に盗人へと追い付いた。


「そんなっ⁉」

「悪いな、人混みさえなけりゃこっちのもんだ」


 急激なレベル上昇に伴って基本的な素早さのステータスが上がっていたこともあるし、何よりさっき装備した兜と鎧は装備者の素早さを上げる効果もあった。たぶん今だったらチーターとも鬼ごっこで良い勝負ができそうだ。


「さて、と」


 俺は盗人の手を掴むと、それからその体を地面に押し倒して拘束する。


「ちょっ、やめさないよっ! イタイイタイ!」

「やめるもんかよ! いいから盗ったものを返しなさいっ!」

「い~~~やぁ~~~! 犯されるぅ~~~! 誰かアタシを助けてぇ~~~!」

「こらっ、おまっ! 人聞きの悪いことを叫ぶな……って、『アタシ』?」


 そういえば追いかけるのに必死で考えられてなかったけど、コイツさっきから妙に女言葉ばっかり使ってたような?

 

 バサリ、俺は盗人のフードを取り去った。途端にあらわになったのは……美少女そのものの顔。


「なっ、お前……!」

「なによっ、人の顔を見て驚くなんて失礼ねっ!」


 俺が驚いたのは美少女って要素にだけじゃない。その薄紅色に染まったショートカットでフワフワの髪、薄汚れた大きめのフード付きローブの下に隠された細く小さな体つき、そして何よりちょっと強気なその言動。

 

 この女の子は間違いない。【ちょっと魔王シバいてきてやんよ】で勇者のハーレム要員の1人になる盗賊──ニーニャだった。

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