第19話 ノース鉱山防衛戦Ⅳ 反転攻勢
念のためダンジョンの扉を破って魔獣が出てこないように、数分待機して様子を見よう。
キングサイズの骸骨ロードが入り口にたどり着くまでは、街の皆でなんとか持ちこたえられるだろう。
ライカの速度であれば十分に間に合うはずだ。
その間に、ダンジョンの入り口周りを調査する。
以前、フェンリルの時にも見たツボが置いてある。
このツボの芳香が魔獣を惑わしてスタンビートを引き起こしたのだろう。
もちろん、サンドラがダンジョンの扉を閉め忘れたことが魔獣が外に出てきた原因ではあるが。
ツボを観察すると、このツボには底に教会の刻印はないみたいだ。
フェンリルの時は教会の刻印があったし、さしずめ、教会から依頼を受けたサンドラがスタンビートを故意的に引き起こしたというところか。冒険者ギルドの制帽ではなくて、教会の帽子を被っていたし間違いないだろう。
それは、魔獣を全て片付けてから問い詰めれば分かる話だ。
ツボを剣で壊す。
扉の様子を見ていると、どうやら魔獣は扉を破ってまでは出てこないらしい。
これで新しく魔獣が増えることはないはずだ。
良かった。
さっそく街に戻ろう。
ライカに飛び乗り、来た道を駆け抜ける。
鉱山の入り口までは全ての魔獣は焼き殺している。サクっと走り抜けるだけだ。
鉱山の入り口から街を見ると魔獣の数は数百は残っている。
まだかなり魔獣の数が多いな。
数で押し切られても面倒だ。
さっさと終わらせよう。
ライカから降りて魔法の詠唱を開始する。
禁術魔法を放つためには詠唱が必要だ。
数秒にわたって詠唱を続ける。
「全てを焼き払え! 『流星の輝き<メテオインパクト>』」
空から幾千もの火炎が魔獣に降り注ぐ。
その姿は流星の輝きの如し。
流星は道中の魔獣を焼き払った。
魔獣たちのうめき声がこだまする。
後は門前にいる魔獣だけだ。
一気に形勢逆転しただろう。
残っている魔獣で脅威になるのはキングサイズの骸骨ロードだけだ。
流石に魔力を使いすぎた。
その場でよろめく。魔力切れだ。さすがに禁術を言われる魔法を放つには負担が大きい。
オレが倒れないように、ライカが支えてくれる。
「ライカ。頼む。オレを街まで運んでくれ。それまで少し休む。」
ライカがワオンと言い、オレはライカに覆いかぶさる様に乗った。
ライカがどんどん街に向かって進んでくれる。
ライカに乗ると元気をもらえる気がする。魔力を分けてくれているからなのだろうか。
目を閉じて、休むのに集中する。
少しずつ体力が回復するのを感じた。
◇
数分もしないうちに北門の目の前までライカが運んでくれた。
手を開いて閉めてを繰り返して体力の残り具合を確認する。どうやら体力も魔力も戻ってきているみたいだ。
これでまた戦える。
目を開けて状況を確認すると、北門前では魔獣の数がほとんど残っていない。
皆が踏ん張ってくれていた。
残りの魔獣は冒険者と鉱山の男たちでなんとか倒しきれるだろう。
問題は、キングサイズの骸骨ロードだ。
キングサイズと呼ばれる魔獣は、通常の魔獣より数倍強いと言われている。通常の魔獣を倒せても、キングサイズには勝てないということも多くあるらしい。そういったことから、キングサイズの魔獣は災害級と言われている。
ニーナさんがキングサイズの骸骨ロードと対峙している。
ニーナさんを見ると傷だらけで、膝を地面につけて肩で息をしている。
双剣もボロボロで、一本は折れているのか。
まさに満身創痍だ。
他の冒険者達もニーナさんの助けに入ろうとしてはいるが、実力的にも厳しいだろう。戦闘に参加しないのは賢明な判断だ。
まだ骸骨ロードはオレには気がついていない。
強襲するチャンスだ。
「ライカは骸骨ロードの左足を先に攻撃してくれ。オレはそのスキに右腕を一本叩き折る。」
ライカに小声で話しかける。強襲するチャンスを会話で気づかれたくはない。
ライカが小さく頷いた。
ライカから飛び降りて、駆ける。
骸骨ロードがニーナさんにとどめを刺そうと四本の腕で四本の剣を振り上げる。
―――その刹那
ライカが骸骨ロードの左足に噛み付く。
噛みついた衝撃で骸骨ロードがよろめく。
よしっ。
これでニーナさんへの有効な攻撃はできないはずだ。
オレはよろめいて、無防備に上がっている骸骨ロードの右腕を剣で切断した。
そのまま、ニーナさんの前へ踊り出る。
「ニーナさん下がって下さい。この骸骨ロードは僕が引き受けます。」
「カノンさん! 」
驚いたニーナさんの声が後ろから聞こえる。死を覚悟して目をつぶっていたのだろう。
骸骨ロードは残りの三本の腕で剣を扱い、オレに攻撃してくる。
盾と剣でなんとか受ける。
重い。
ダンジョンで倒した骸骨ロードとは大違いだ。
このままだと押し切られる。
一撃一撃受けるだけで後に押される。
早急に腕の数を減らさないとまずい。手数が多すぎる。
「ライカもう一度! 」
ライカに指示を出して、骸骨ロードのスキを作るしかない。
ライカが骸骨ロードの後ろから飛び、首の後に噛みつく。
骸骨ロードは嫌がる素振りを見せる。
ライカを振り払おうと左腕の剣二本を後ろ側に振る。
今だっ!
オレは、一気に距離を詰めて、無防備になった右腕一本を剣で斬る。
「オラッッッ! 」
骸骨ロードの右腕が空高く舞う。
これで骸骨ロードの腕は、左腕二本だけだ。
反撃を喰らわない様に、骸骨ロードから距離を取る。
骸骨ロードのけだもののような咆哮が響き渡る。
一瞬にして汗が吹き出る。
これが、キングサイズの強さか。
周りの男達はもう魔獣をほとんど片付けたようだが、咆哮を聞いて腰を抜かした人もいるみたいだ。巻き込んでしまってはまずい。
オレは目を骸骨ロードから逸らさずに叫ぶ。
「オレが骸骨ロードを倒します。絶対に近づかないで! 巻き込まれます! 」
だが、骸骨ロードを追い詰めたのも事実。
このままライカとコンビネーションで叩き潰してやる。
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