第22話【商品開発3 ユリのデザイン】
ミッシェルさんが連れてきくれた従業員で店が運用できそうだったので、俺はミッシェルさんを連れて応接室に向かう。ユリがデザイン画を描き終えるまでの時間で、ミッシェルさんに新しいゲームのプレゼンをする。
「リバースやチェスは頭脳ゲームなので、身体を動かすゲームを考えました」
ラノベではあまり見ないが、めんこや独楽、
「――なるほど。身体を動かすゲームな。騎士が訓練で身体を動かすことはあるが、遊びで身体を動かすことはないからな。ルールも簡単で誰でも遊べる。これもまたおもしろそうや」
ミッシェルさんの受けはよさそうだ。
「そやけど、相変わらず見た目がひどいな。この後ユリちゃんがデザインするんやっけ? あの子絵上手いんか?」
「上手いですよ。このお店の看板や案内板はユリが描いたものです」
俺がそういうとミッシェルさんは驚いた顔をする。
「――は? あの看板、プロが描いたんやないの!? え、めっちゃ上手いやん。なして兄のあんさんは……ま、まぁ人間欠点があった方が可愛げがあるもんやしな」
ユリと比べたら誰だって下手だろう。決して俺が特別下手なわけでない……はずだ。そんな会話をしていると、応接室のドアがノックされた。
「どうぞー」
「失礼します! デザイン画、描き終わりました!」
ユリが両手にデザイン画を抱えて入ってくる。デザイン画には、それぞれの駒が前後左右から見た様子が記されていた。
「こ……これ…………ほんにユリちゃんが描いたんか?」
「? そうですよ? あと、チェス盤のデザイン画も書いてみました!」
ミッシェルさんが驚愕している。そこには俺がイメージしていた前世の記憶そのままの駒とチェス盤が描かれていた。
「さすがだね。俺がイメージしてた通りの駒だよ。盤もありがとう!」
「え…………ユリちゃん、あの絵からアレンはんのイメージをくみ取れたんか!?」
ミッシェルさんが、以前俺が描いた駒の絵を指さして言った。
「あんな…………あんな絵からこのイメージを…………どうやったんや……」
「あはは……そこはまぁお兄ちゃんなので」
「……そっか。クランフォード商会には優秀なデザイナーがおるんやな」
妹が褒められて嬉しくなる。ミッシェルさんとユリが気の毒なものを見る目で俺を見ているが気のせいだろう。
「それじゃ、いい時間ですしフィリス工房に向かいましょうか」
時計を見ると、父さんが出て行ってもうすぐ1時間だ。ユリが描いてくれたデザイン画をもって俺達はフィリス工房に向かう。
途中でミッシェルさんがユリに話しかけた。
「ユリちゃん。今度アナベーラ商会の看板描いてくれへん?」
「もちろんいいですよ! ベーカリー・バーバルの看板描いた後でよければいつでも大丈夫です!」
「ほんまか! おおきに!」
ユリもデザイナーとして順調に顧客を増やしているようだ。
「納期はでき次第でかまへん。依頼料は100万ガルドでええか?」
「「100万ガルド!?」」
俺もユリも驚いた声を出してしまう。
「何を驚いとるん? あの看板のクオリティやったらそのくらい当たり前や。むしろ今はまだユリちゃんが無名ってだけで、将来的にはその10倍の依頼料でもおかしゅうないで?」
開いた口がふさがらなかった。横を見るとユリも同じ気持ちなのだろう。茫然とした顔をしている。
「ユ、ユリ……その、デザイン料だけど……その……今までの分、後でちゃんと払うね」
「え、いいよ! 家族なんだし! 私が好きで描いたんだもん。お金なんかもらえないよ」
「そ、そっか……うん。ありがとう」
よくよく思い返してみれば、俺達がまだ地元で小さいお店を営んでいたころ、ユリが看板を描き変えてくれたおかげで、常連客が増えた。もとの看板だって変な看板だったわけじゃない。ユリの看板のクオリティが良すぎたのだ。
(客の入りを増やせるクオリティの看板。そりゃ大金払ってでも依頼するよな)
ユリのデザイナー能力の高さを改めて実感した。
フィリス工房についたので、前回同様受付に向かう。相変わらず、工房独特の凄い音がした。受付にミケーラさんがいたので声をかける。
「ミケーラさん! お疲れ様です! アレンです! 父が来ていると思うのですが」
ミケーラさんが俺達に気付いた。俺、ユリ、ミッシェルさんと順番に見て深々とお辞儀する。
「お待ちしておりました。アナベーラ商会並びにクランフォード商会の皆様。ルーク様は応接室にてマリーナと会議中です。ご案内させて頂きますので、こちらへどうぞ」
そう言って俺達を応接室まで案内してくれる。応接室が近づいてくると、工房の音が収まり、代わりに人の話す声が聞こえてくる。
「――で~す~か~ら~。請け負いますからお酒に付き合ってください! 前は付き合ってくれたじゃないですかー!」
「今まではめんどくさくて付き合ってたけど今後は付き合わない。酒の相手は他をあたってくれ」
「そんなー! 私知ってるんですよ! ルークさん、私とお酒飲んだことさりげなくイリスさんに伝えて嫉妬してもらうの楽しんでるって! 嫉妬した時のイリスさんってすごいらしいじゃないですか!」
「なんで知って!?――ゴホンッ! そうじゃない! 子供達の教育によくないから言ってるんだ! もうすぐ、アレンやユリがここに来る。酔った状態で会うつもりか!?」
「別にかまいませんよー。アレン君にもユリちゃんにも、もう見られてますしー。なんならみんなで一緒に飲み――」
「いい加減にしなさい!」
「ふにゃ!?」
ミケーラさんがノックもなしに応接室の扉を開く。本来は無礼な行為だが、我慢の限界だったのだろう。
「工房長? 何をやってるんですか?」
ミケーラさんがマリーナさんに詰め寄る。
「ミ、ミケーラ? これはその…………」
「クランフォード商会からの依頼は基本受けるように言いましたよね? それが何をやってるんですか?」
「う、受けるよ! もちろん受けるつもりだよ? でもその前にちょっとお酒に付き合って欲しいなぁって。ほら! 飲みにケーションって言葉があるじゃない? それよ、それ!」
マリーナさんは言い訳を続けるが、ミケーラの目がどんどん吊り上がっていく。
「アルコールハラスメントという言葉もありますよね? 嫌がる人に無理やりお酒を勧めるのはハラスメントです」
「で、でも! 楽しくお酒が飲めて夜もいい思いができるんだから問題な――」
バシッ!
「ギャ!!」
ミケーラさんがマリーナさんの頭をひっぱたいた。
「それを決めるのはルーク様です」
「ミケーラ……痛い……」
「ほんに、何をやっとるんや?」
俺達の後ろにいたミッシェルさんが顔を出した。
「――せっせせせ先生!?」
「「先生?」」
俺とユリがハモる。
「な、なぜここに先生が!?」
「いやねぇ。今後アレンはんと一緒に商売していくことになったんよ。けれどアレンはんがひいきにしている工房がここや聞いてな。馬鹿弟子共の様子を見に来たんや」
ミッシェルさんが言うと、ミケーラさんが憤慨した。
「お言葉ですが、先生。私をこの姉と一括りにしないでください!」
「はっ! この姉を工房長にしたんはあんさんやん。わざとこの姉に好き放題させて顧客の同情ひいてたんやろ? 同罪や」
ミッシェルさんの指摘に押し黙るミケーラさん。
「……それで? ルークはんの話は聞いたんやね?」
「は、はい! 今デザインを練っていると聞きました!」
マリーナさんが答えた。話が先に進んだことに安堵し、ユリに描いてもらったデザイン画を渡す。
「デザインはこちらでお願いします」
デザイン画を見たマリーナさんとミケーラさんが驚愕する。
「これは…………凄いわ!」
「こんなわかりやすいデザイン画は初めて見ました。これなら……」
ミケーラさんとマリーナさんが考えこむ。
「サンプル品の作成に2日ください。これだけ詳細なデザイン画ですので、アレン様のイメージと違う可能性は低いとは思いますが、量産する前にサンプルの確認をお願いします」
「この大きさなら……B、C、Dラインで量産できるはず。Fラインを予備に回せば、バッファは十分。うん! サンプルを確認頂いてから2日もあれば量産体制を整えられます!」
ミケーラさんはまだしも、マリーナさんが仕事の話をしていることに驚いた。工房の生産体制を把握し、突然の依頼にもきっちり対応する手腕はまるでまとも工房長だ。
(真面目に働いていればかっこいいのに……)
「やればできる子なんや。酒さえ
ミッシェルさんのつぶやきが不思議とよく聞こえた。
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