第3話

 昔々、ある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。


 おじいさんは子供がいなかったせいか、一匹のスズメを飼っていました。


 そんなある日、おじいさんが出稼ぎに行ってる時のことです。おばあさんが洗濯に行った際、それに使うのりを飼ってるスズメの入れたカゴの近くに置いた事を思い出し取りに帰ったのです。


 すると何ということでしょうか。スズメが糊を全て食べてしまったではありませんか。

 これには困ったおばあさん。

 しかし、おばあさんは優しかった。


「あらあら、お腹が空いてたんだねえ。すまなかったねえ」


 そしておばあさんは笑いました。




 それを見たスズメは舌打ちしました。


 おばあさんは絶句。言葉も発せません。

 されどスズメはお喋りでした。


「何わろとんねん。こんな不味いもん食わせよって。頭お花畑か」


 おばあさんは黙ったままです。

 それはそうです。舌打ちしたと思えば今まで聞いたこともない舌回しで話すではありませんか。

 そのせいで思考が止まりました。


「ワシが話せとんのにお前が喋らんっておかしいやろ。脳までボケたか」


 おばあさんの眉がピクリと動きました。


「まあそれでも一番マシやったわ。あのクソジジイようわからん砂利みたいなん食わせてくるからな毎日。気狂いそうやしあいつ気狂ってるで」


 優しそうなおばあさんの目が少し空きました。


「あんなんと結婚してよう生きてるな。どこが良かってんあのジジイ。そりゃあいつの子供も欲しくないわなあ」


 おばあさんは隅の方で何かを探し始めました。


「カーーッ、ペッ、ペッ! 舌に糊絡まってるわ。マシやけど食えたもんちゃうわこんなん。おいババア。飲みもん持ってこい。果物絞って持ってこい……」


おばあさんは 流暢りゅうちょうに語るその舌を、目にも止まらぬ速さでハサミで切断しました。


 スズメは飛びながらのたうち回り、言葉にならない声で暴れながら飛び去りました。

 あの温厚だったはずのおばあさんは外に出てスズメが去るのを見ました。


「二度と家に来るんじゃねえ!!」


 その日おじいさんは頭から離れませんでした。芝刈りから帰ってきた時、いつも優しかったおばあさんが飛び去るスズメに向かい鬼のような形相で聞いたことのない罵声を浴びせていた光景を。

 一体何があったのか。

 それを知るのは今晩になるのはまた別の話だ。





第三話 「舌打ちスズメとブチ切れババア」

 ー完ー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る