◇BL◇俊輔くんと葵くんの甘々な日常

海花

第2話『レプラコーン』

ダイニングテーブルの上に凄いご馳走が並んでいる。

合格祝いだと、母さんが張り切って作ってくれた。

俺の好きな物ばかりだ。

その中にちゃんと葵の好きなケーキも用意されていて、母さんの気遣いが窺える。

久しぶりに家族で囲んだ母さんの手料理が美味しくて、葵も俺も食べ過ぎな程食べた。

父さんはビールを数本空け、ご機嫌に顔を赤くしている。

「俊、お前…ケーキ食わないだろ?」

葵が母さんの切り分けてくれたケーキを、嬉しそうに2つ取っていく。

葵と母さんが幸せそうにケーキを頬張る。

……親子だな……。

思わず笑ってしまう。

「俊輔、お前…付き合ってる子いないのか?」

父さんはが酔っ払ってニヤニヤしながら突然聞いてきた。

…絶対、朝の葵の発言が尾を引いてる…。

「…なっ!…なんだよ!突然…」

ついどもって、思わず葵をチラっと見る。

相変わらずケーキを頬張っているが、顔は明らかに険しくなっている…。

「いないよ…。勉強で、それどころじゃなかったし……」

つい声が小さくなってしまう。

「結衣ちゃんは?」

屈託のない笑顔で母さんが爆弾を投下した…。

「……!?」

思わずまた葵に視線を向ける。

「お母さん、結衣ちゃん良い子だと思うけどなぁ!ずっと俊ちゃんと仲良くしてくれてるし。小柄で可愛くて素直で…申し分ないじゃない?」

より強力な爆弾の投下に、俺の背中にイヤな汗が流れる。

当たり前だが…幼なじみの結衣と葵は未だに犬猿の仲だ…。

「それは無いな」

言葉に詰まる俺の代わりに葵が答えた。

「なんでぇ?」

母さんが残念そうな声を上げる。

「何でも!」

……明らかに機嫌が悪くなっている……。

……頼むからそれ以上は本当にやめてください……。

「葵はどうなんだ?いるのか?彼女」

父さんの矛先が葵に向く。

「……俺は……大切な人はいる……」

葵の言葉に俺の心臓が『トクン』と高鳴る。

「そうなの!?」

父さんより母さんがいち早く反応した。

「やだ!お父さん聞いた!?葵…『大切な人がいる』ですって!」

「聞いてるよ」

父さんが苦笑いする。「どんな子なんだ?」

「…どんなって……」

葵が俯いて「すごく…いい人だよ。…俺の事をとても大事にしてくれる…」

そう言った葵の言葉に胸が熱くなる。

「その子可愛い!?それともキレイ系!?」

母さんが嬉しそうに尋ねている。

葵が顔を真っ赤にして

「……どっちかっていったら……可愛い方……かな……」

と小声で答えるから…俺の顔まで熱くなる。

「なんで俊輔まで照れてるんだ」

父さんが呆れたように笑った。

机の下で葵が俺の足を蹴る。

「母さんに紹介してぇ!葵の彼女会ってみたいわ!」

母さんが今にも会わせろと言わんばかりに食いつく…。

……実は目の前にいるんですけど……。

葵が

「いつか…必ず紹介するよ」

そう言って優しく微笑んだ。

「葵も俊輔も、うちの自慢の息子だ。お前たちが連れてくる子なら間違いはない」

父さんが嬉しそうに言って……


…………少し…胸が傷んだ…………。



食事を終え、シャワーを浴びて俺は自分の部屋に戻った。

――1人で眠るのは……――

――…どれくらいぶりだろう……――

ベットに横になると微かに葵の匂いが残る毛布を抱きしめた。

「お前…何やってんの?」

突然の葵の声に飛び起きた。

「――!!お前……何で来たの!?」

あわてる俺に

「…『兄貴』の部屋に『弟』が来て何が悪いの?」

と、呆れている。

それは……そうだけど……。

「…お前が……後悔してるんじゃないかと思ってさ……」

葵のことばの意味が解らず

「はい?」

とぼけた返事をしてしまう。

「…………俺と…………」

葵がそこまで言って睨みつけてくる。

……えー…また俺…怒られる感じですか……?

「…なんだよ…」

俺はベットに座って肩を落とした。

葵に怒られるのは慣れているが…

意味の分からない事で怒られるのは…

やっぱり少し腑に落ちない……

「……俺を……選んだことだよ!」

葵の顔が赤くなっている。


――普段…自信満々のくせに……


俺は立ち上がり葵を抱きしめキスをした。

「後悔するわけないだろ?男でも…女でも…お前以上に好きになれるヤツなんていないよ……」

そう言ってもう一度葵にキスをする。


――俺の事となると、すぐ不安になる――


葵がしがみついてくる。

「愛してるよ…」

耳元で囁くと今度は葵からキスをしてきた。

優しく舌を絡める――


――…朝の続き……したいな……――


『コンコン』

俺の部屋のドアが無粋な来客を知らせる。

「俊ちゃん?」

……母さんだ……。

慌てて離れ、俺は部屋のドアを開けた。

「どうしたの?」

また背中に汗が……。

「葵も一緒?」

勘だけは鋭い……。

振り向くと葵はベットに座りマンガを手にしている。

「良かった!これ2人に渡したくて…」

母さんが嬉しそうに俺たちに2つのキーホルダーを見せる。

緑の服を着たヘンテコなおっさんが付いている……。

「お友達がアイルランドのお土産にくれたの。『レプラコーン』て妖精なんだけど、願い事を叶えてくれるんですって!だから2人にあげようと思って!」

俺と葵に手渡す。

葵が本当に微かに…嬉しそうにしているのが分かった。

「お父さんとお母さんにってくれたんだけど…、お母さん……あんまり好みじゃないから……」

――…あ……ね……言っちゃう感じですか……。

「それじゃ、おやすみなさい。あんまり夜更かししちゃダメよ?」

母さんはにっこり笑うと部屋を出てリビングへ戻って行った。

葵はキーホルダーをしばらく眺めていると

「おそろい」

と嬉しそうに笑う。

俺にはヘンテコなおっさんにしか見えないけど……。

――葵が喜んでるから……

――……まぁ…良しとしよう……――

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