死にたいような、そうでもないような

不朽林檎

ぬるい午のこと

 午を過ぎて漸く、わたしは部屋に独りだと気づいて、ふと、窓を見遣ると、庭先の桜も満開に近く、風に咲っているのが見えた。

 喉が渇いていた。

 頭は呆としていて、あまり、日々の雑多なこと──、たとえば机上に散らばった紙切れだとか、未開封のメールだとか、そんなものが、少しも意識に留まらなくて、我ながら笑えた。

 細い白煙が立ち上る、変な幻までもが、わたしを試しているようで。

 花も散り、夏の来ぬまに──、と、その口癖のつづきが思い出せない。

 喉が渇いていた。

 わたしはベッドを抜け出して、腫れた眼も乱れた髪もそのままに、終ぞ何も飲まないままで、サンダル引っ掛け外へ出た。

 日の充ちた庭は、馬鹿に幸福な匂いがしていた。

 花も散り──詠いながら、わたしは桜へ近づく。花弁が眼前を過ぎり、それを目で追ううちから、わたしは不意に思い出す。

 時間が花を泣かせたのだ。

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