虹色の鳥
「キミは、どうして婚約破棄をしたいの?」
緊張しておかしくなってしまいそうな私に聞いてきた殿下は首を傾げた。
疑問に思ってもおかしくはない。いきなり『婚約破棄をしたい』と言い出したら理由があるんじゃないかと普通は思う。
思うんだけど……出来れば聞いてほしくはなかった。
「そ、それは」
(その先の未来を知ってるから)なんて、信じてもらえるわけがない。
ダメだ。緊張しすぎで頭が回らない。何も思い浮かばない。どうしたら。
「困らせちゃったかな。言いたくなかったら無理に聞かないから安心して」
「あっ、はい」
助かったと思い、私は安堵の息をはいた。
「キミは本当に……なんだな」
「? あの、なにか言いました?」
殿下がなにを言ってるのか聞き取ることができなくて聞き返したらニコッと微笑まれた。
「いや、なんでもない。ソフィア嬢は虹色の鳥を見たことあるかい?」
「虹色……」
なぜ急にそんな話を? と、思ったが私は前世の記憶を遡った。
虹色の鳥って、フォーゲルのことよね。
フォーゲルは神の使いともされる鳥で、その翼は赤 ・ 橙 ・ 黄 ・ 緑 ・ 青 ・ 紫の六色の色が綺麗にグラデーションされている。飛んでいるとグラデーションがかかった翼がまるで虹がかかってるように見えるために虹色の鳥って呼ばれている。
でもその鳥は実際には存在しないはず。なんでフォーゲルの話なんて。
この世界では、それが神話で語られてるということ。実際に見た者は誰一人としていない。
「その鳥がなにか?」
「キミに似てると思っただけだよ」
私に似てる? それってなに?
どういう意味で。
フォーゲルの性格は人懐っこくて、かなりのやんちゃ。
どの辺が私に似てるというのですか、殿下。
「まぁ、今日はこの辺でおいとまするよ。キミもかなり困惑しちゃってるみたいだし」
急に立ち上がった殿下に慌てて私も立ち上がった。
ものすごく含みのある言い方をされたので、腑に落ちない。
だからといって、帰ろうとしている殿下を引き止めて話を振ることはない。
そんなことしたら失礼だもん。
「それじゃあ、また明日来るからね」
にっこりと微笑んだ殿下を見て「また明日」という言葉が引っかかる。
「また明日というのは?」
「そのまんまの意味だよ」
明日来るということは嫌われてはいない所か、興味を持たれてる気がする。
あの失態で嫌われたかと思ったけど、どうやらそうではないらしい。
だったらまた明日、嫌われることをするだけだ。死刑にならないように。
目指せ!!! 婚約解消!!
「わかりました。 では明日お待ちしております」
私は背筋を伸ばし、微笑んで軽めにお辞儀をした。
それが意外だったようで殿下は一瞬目を見開いたが、すぐに元の表情になる。
殿下が歩くとその後ろを護衛騎士二人がついていく。
その様子を見た私はとんでもない世界に転生してしまったなって、つくづく思った。
前世の私はジャージが普段着のようなものだった。
こんな着飾ることなんてなかったし、イケメンとは一生話せないと思っていた。
それが乙女ゲームのイケメン君……いや、今はまだイケメンというよりも愛らしい少年だけど、ゲームで攻略していた相手と向き合って話す日が来るなんて。
殿下の姿が見えなくなったら一気に緊張が解けたのか、お腹の虫が鳴ってしまう。その音が侍女に聞こえてしまったらしく「すぐにおやつをご用意しますね」と侍女が笑いを堪えながら言われてしまった。
自分の中では予想外なこともあり、恥ずかしさで頬が赤くなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます