単眼のワカ
寿 丸
旅立ち
第1話「ワカと七人の侍」
「火をくべろ!」
男たちの声に合わせ、
「火をくべろ!!」
「火をくべろ!!!」
続々と運ばれていく。
膝と両手を土につけた、機械仕掛けの人形である〈からくり〉。その腰部に〈星石〉が放り込まれる度、内奥が窯のごとく燃え盛る。火花が舞っては宙に散り、
「ワカ、終わったぞ! 後は頼んだ!!」
指と歯の欠けた老人ムクロが、金づちを掲げて大声を張り上げる。
「わかった、ありがとう」
少年ワカは操縦席に乗り込み、木製の
まず、
〈からくり〉の全高は
操縦席の前面——木の格子の隙間から雨風が容赦なく吹きつけてくる。ちょっと寒いなと感じたぐらいで、この先の
「ワカ!」
駆け込んできたのは、
ワカは彼女を見下ろし——「大丈夫」
「シマダさんも、みんなもいるから」
「……無茶しちゃ、ダメだから」
「わかってる。危ないから、離れてて」
〈からくり〉を歩かせ、
村の真ん中——広場を取り囲むように、一人の人影と六つの
「準備はできたのか、ワカ」
腰にひと振り、己の背丈ほどの刀を差したシマダが声を発する。
長身の女性で、髪を肩の高さでざっくりと切っている。装飾品の
「うん、待たせてごめんなさい」
「構わない。ここが
「おいおい、シマダ! 冗談をぬかしてんじゃねぇや! まるでこれから死ぬつもりみてぇじゃねえか!」
そして〈大刀〉——ワカの〈からくり〉よりもひと回り大きく、名の通り分厚く長い刀を背負っている。しかし、傷や
勢い込んで操縦席から身を乗り出したことで、無駄に大きな
「やめんか、チヨ。はしたないだろうが」
「そうですよ。一応、仮にも性別的には女性なんですから」
「おめぇらも女だろうが! それに、一応ってなんだ、一応って! こら!!」
チヨががなり立てた先には最年長のゴロウと、ふっくらとした体つきのタイラ。それぞれ四本腕の〈
「決戦前だというのに、騒がしいことですわね」
愛機〈クリムゾン〉にて扇子を扇いでいるのはリタだ。悪天候の中、そして
そして〈クリムゾン〉は左手に円形の盾を、背部には
チヨはそれが気に入らないらしく、ぎりぎりと歯を鳴らしていたが——リタはまるで気にも留めていない。
「まぁ、このぐらいの方がちょうどいい感じに緊張が
リタの背後——背中合わせに〈
そして〈朧〉もまた、両の目以外は漆黒に彩られていた。頭部がなく、装甲も薄く、手足が細長い。腰には四本、そして背中にも二本の刀を差してある。
乗り手であるキュウは、口を開く気配もない。
リタは慣れているらしく、「相変わらず、つれないこと」とぼやいた。
「ああ、緊張といえば——オシロ、あなたはどうかしら?」
「え!? あ、そうですね……」
しどろもどろに応えたのは、ワカとそう変わらない年齢のオシロだ。まっすぐ伸ばした髪を頭頂部で束ね、きちっと上物の着物を羽織っている。
乗機の〈
「今度はいかがかしら?」
「せ、先生の名に恥じない戦いをしてみせますっ」
「だそうよ。シマダ様、どうかしら?」
「……先生はやめろというに」
シマダがぼやいた時——ぴく、と彼女の
「ワカ、聞こえたか」
「うん、もうすぐ来る」
間を置かずして——村とはまるで見当違いの方向——山の中腹で大砲の弾が炸裂した。瞬く間に炎上し、村の各所から悲鳴が上がる。
「おおっと! へへっ、おいでなすったか!」
「今のは、ただの揺さぶりでしょうね」
「
「待て、ゴロウ。敵はまだ見えていない。キュウに偵察を任せたいが……いいか、リタ?」
「構いませんことよ、キュウがいいのなら。……で、どうなの?」
キュウは何も言わず、〈朧〉を一歩前に出す。両手には、すでに刀が握られていた。
「キュウ、敵の数を知るだけで構わん。把握したら、すぐに戻ってきてくれ」
シマダの指示に、キュウはわずかにうなずいた。〈朧〉で木の柵をひょいと飛び越え、林道へと走らせる。
「では、こちらも迎撃に備えるとしようか」
シマダの一声に、それぞれの〈からくり〉の乗り手が手を振るなどして応える。その後ろには村人たちが——かろうじて戦える人々が——怯えをあらわにしつつも、竹槍をひしっと握り込んだ。
「全員、死ぬな。生き残れ。——各自、持ち場につけ!!」
それぞれの〈からくり〉が、村人を率いて別々の方向に走り出す。
そして——その場に留まったのは、ワカとシマダのみだった。
「ワカ、行けるか?」
「うん」
「うむ。……守るぞ、お主の村を」
「うん」
シマダは長刀を
ワカは白く濁った片目で、操縦席の真上の〈からくり〉——〈
もの言わぬ〈からくり〉に、ワカはただ一言発した。
「——行こう、〈地走〉」
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