第6話/語らう将来(目指すべき人物像)
夕食の席、カークはジャックに問いかけた。
「僕ね、孤児となったからには将来像を決めて行動していった方がいいと思うんだ。兄さんはどんな登場人物になりたい?」
唐突な問いかけにポカリと口を半開きにする。
「いやいやいや、何で登場人物なんだよ。おかしいだろ。そりゃあ、俺たちは転生者だから転生物とか転移物に感情移入するけどさ。物語の主人公みたいに冒険者始めたけどさ」
「感情移入とか主人公になりたいって話じゃないよ。将来像。こんな大人になりたいとか、どんな生活がしたいとか。僕らはゲームやラノベっていう共通点があったろ? ……世代は違うけど」
現世こそは兄と弟であるものの、中学3年の夏休みに海で流されたジャックと三十半ばで病死したカークだ。親子でも通ってしまう。
「どんな生活ったって……。冒険者始めたのも住むとこ失いたくない上に、やってみたかったからだし」
「三十過ぎてから、あの時ああすれば良かった。とか思っても遅いんだよ。中学時代学校の勉強嫌いで好き勝手やったから、そこそこの高校から社会人になったけど、やりたいことを考えていなかったからって、大学に行けば良かったとか思ってもね。本当に、遅かったんだ」
はぁ……と溜息を吐く。
「だからこそ、僕はどのような人物となり、どのように生活するかを早いうちに想像して、そのように自分を近づけて行きたいんだ。ま、向き不向きって、あるけどね」
目を輝かせてカークは将来の展望を語る。
「十に満たない僕たちは『将来の夢』を語る子供でいいんだ。例え転生者でもね。前世がどうあれ、現世は子供なのだから。前世の常識と今世の常識は全然違うでしょう? 常識を知ったのは転生者でない子供と同じでしょう? でもさ、転生者の
前世の大人目線で子供を語るカークにジャックは戸惑うしかない。
「『将来の夢』ねぇ……。どんな人物になりたいか? 考えたことねぇな」
「スポ根漫画とか洋書とか映画とか前世の家族とかでもいいよ? 僕、スパダリに憧れてる」
「お前っ! マジか!」
スパダリ=スーパーダーリン。ハイスペックで高収入、包容力と性格も良いとされる。少女小説の相手役に多い。
「俺TUEEEは性格的に無理なんだ。最強とか面倒くさい」
「面倒くさいって」
「スパダリは今のうちにコツコツ積み重ねれば何とか行けそうじゃない?」
「どう違うんだ?」
「ハイスペックと最強では全くの別物なんだよ。ハイスペックは頂上じゃないでしょ? いろんな事ができますよってだけなんだ。いろんな事をしてみたいし、いろんな事を知りたい。やりたいことに沿っているし、丁度いいじゃない」
「えぇ……。違う気がする」
「幸い、今世の識字率からすると、僕らは平民の勝ち組確定なんだ」
「いやまあ、そうだけど」
父に教わって、二人は文字の読み書きはできる。勝ち組確定。
「ほらね、高収入は確定でしょう? それで、僕は冒険者じゃなくて、兵舎の雑用に行くでしょう? 兵舎の雑用でいろんなことが知れるからスペックはロースピードだろうが高くなるよね。 兵士になるでしょう? すると読み書き計算できるから出世コースに乗るよね。ほら、もうできた人間になるだけだ」
「その年だから目指せるってことか」
「そうそう。だから、兄さんにもそういう考えもあるって知って欲しいんだ。今だから目指せるものってあるよ。考えたことがないなら、これから考えて欲しいな。この人生はこれ限りだもの!」
んー。とジャックは唸る。
「冒険者だったら……どうだろう」
しばらく考えてみたもののでてこない。「ふはっ」と大きく息を吐いて笑う。
「まっ、考えてみる」
「ん。どんな人物でも応援する」
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