第3話/城下町
兄弟は手を繋いで城下町を歩く。王都はブラードン王の住まう城を頂上に、東西の高位貴族街、北に低位貴族街。南に城下町。それらを囲む堀。更に外周を行くと下町が広がる。
勾配の緩い丘陵地にある王都は山より生活しやすいものの、子どもの足ではすぐに疲れてしまう。
赤茶けたレンガ作りの店舗を二人は見上げる。
「ここか。グレイ武具店」
ウィリアムがいうには、下町にあるグレイ鍛冶屋の販売店らしい。
城下町では100年ほど前から騒音や火事の起こりやすい鍛冶屋も異臭を放ち、水を汚す染物屋も下町にある職人街で制作するよう定められている。……色々と公害があったのだろうというのが兄弟の考えだ。
平民のほとんどが字を読めず、商人が識字計算、販売路を商売範囲で口伝するなどはあるものの、勉学を習うことはゼロに等しい。
武具店に入る。ジャックはウィリアムに渡された紹介状を受付に手渡した。
「初めまして。王位継承騒動で殉職した平民兵士、イヴァンの息子ジャックです。兵舎の武具庫に務めるウィリアムさんの紹介で来ました」
受付の男はその言葉に顔を強ばらせる。
「坊や、物騒な言葉を出すんじゃない。危ないだろう。客がいたら追い出して出入りを禁止にするところだ。……この店には貴族の使いや騎士様も来るのだから、注意しなさい」
「え、あ。ごめんなさい」
受付が紹介状を読む間に武具を見せてもらう。
「兄さん、兄さん。見てよこの革鎧。この艶、色味、高品質のフレアブルじゃない? 均一な朱色って、目利きと腕が揃って初めて生まれるんだよ! 目利きが悪いと紅の部分が出たり、腕が悪いと斑模様になっちゃうんだ」
「こっち見てよ! 聖別! 聖別シリーズが売ってる! 初めて見た! 兵舎の中でも特別室に置いてあるから聞いたことしかないんだよね。本当に仄かな光を放っているんだ……」
「カーク」
「祝福の軽鎧だって! こんなスッカスカな構造でも高位神官の祝福があれば魔法威力も守備力も上がるんでしょう? あぁ……やっぱり高いなぁ。でも、ロマンだよなぁ」
「カーク」
「兄さん! これ、」
ジャックはカークの両耳を掴んでコチラを向かせる。
「お店屋さんでは静かにしなさい」
「はい……」
読み終わって見ていた受付に二人は謝る。
「ごめんなさい、はしゃぎ過ぎました」
「いや、いいよ。褒められて嬉しいしね。良い目利きだね」
「本当にごめんなさい」
「コチラにおいで。いくつか話をしよう」
店の奥に向かうと、大柄の男に引き合わされる。
「大きい方が冒険者志望。小さいのは目利きの一般人。よろしく」
「あいよ。さて、細かい打ち合わせと行こうか」
受付は表に戻り、大柄の男は二人を席に着くよう促した。
男はフィッター担当のゲイツと名乗る。
「フィッターって?」
「武具は個人の体格に合わせる物だ。商品を基に調整したり、オーダーを取ったりするのさ。元は鍛治職をやっていたが、若いのに先を越されてな。知識と経験を買われてフィッターをしている」
兄弟は揃って頷く。
「俺の体格でも使える武具はありますか?」
「ここにはない。が、鎧のパーツを加工したり、ショートソードの握りを誂えれば何とかなるだろう。どうする? 予算はいくらだ」
「ブラードン金貨20枚。それ以上は出せない」
「駆け出しなら釣りが出る。安心しな。金貨15枚程度になるはずだ。冒険者登録をすれば、ウチは割引もあるぞ」
「あ、じゃあ、先に冒険者登録を……?」
「後払いでいいから、受け渡し日までになっとけば良い。今から仕様書を作るんだ。できるのは5日後さ」
「分かりました。お願いします」
肩幅、胸囲、腹囲などなどをゲイツは細かく採寸していく。
「なぁ……」
「はい、なんでしょう」
「お前の弟、何をやってるんだ?」
「採寸サイズを……書いてますね」
部屋の隅ではゲイツの採寸を自前のメモ帳に記すカークの姿があった。
「何するつもりだよ、お前」
「大きくなったら買い換えでしょう? 今のサイズを覚えておこうかなって。古着買うにも楽かなって」
「ちゃっかりしてやがる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます