第18話・勇者はいじめっ子?
「それって勇者が戦うように煽ってるってこと?」
「結論からいえばそうなるな。奴は歴代勇者がそういう行ないをして来たから、自分もそう行動を取るのが当然だ。と、思ってるふしがある。誰でも静かに暮らしていたのを急に訳のわからぬ輩が出て来て、この世界は人間のものだ。出て行け。などと一方的に言われたら腹が立つだろう?」
志織は頭が痛くなってきた。
(レオナルド。何してくれちゃってるんの? それじゃ、いじめっ子がしてることと一緒だよ)
志織は脳裏に自分の受け持ちだったクラスのO君を思い浮かべた。O君は腕白な子だった。気分にムラがあり機嫌良く皆と遊んでるうちは良いのだが、だんだん自分が持って遊んでるおもちゃよりも、他の友達が遊んでるおもちゃの方が良く見えて来ると勝手に取り上げて相手の子を泣かせたり、ここは自分の場所だからどこかに行ってと一緒に遊んでいた子を追い出してしまうのだ。
(大の大人が四歳児の子と同じ行動を取るだなんて‥)
志織のなかでレオナルドは最下位まで印象は貶められていた。
「その言葉に影響されてか、魔族の高位にある者数名が国を出て行ってしまった」
「その方達はどこへ?」
「さあ。分からぬ。今のところ魔族に人間が襲われたという報告はあがってないから悪さはしてないと思うが、奴らは勇者に対して良い感情は抱いていないからな。我が勇者に対して何も手を打たない事にも呆れたらしい。
なかでも我の側近だった者が、その奴らを率いて国を出て行ったのにはがっかりした。散々目をかけてやったのに」
「そう」
魔王側も色々事情があるらしい。その魔王国を出て行った輩が今、どこにいるのか気にはなったが今それよりも志織が望むのは、魔族のトップがこの先、人間を襲わないと約束してくれることだった。
「じゃあ、人間側があなたたちを刺激しなければ、人間の国には手出ししないでくれる?」
「それが可能ならば。魔族の者たちもそうだが大概は気の良い奴らばかりなのだ。それが人間の前に姿を現わせば異形だ、なんだ。と、無駄に恐れられ攻撃される。痛くもない腹を探られるのはこりごりだ」
「分かりました。じゃあ、お約束致します。わたしが勇者を説得してみます。そしたら人間を襲わないで頂けますね? わたしもマーカサイドを勇者と共に倒すなんて事はしない事をここに誓いますから」
「そんなに簡単に誓って大丈夫か? 世の中、上手い話には何かあると聞くぞ」
さすがはマーカサイド、だてには魔王名乗ってないね。と、志織は思う。
「大丈夫です。もし約束をたがえることがあったら、わたしの首を差し上げます」
マーカサイドはおもむろに立ち上がり、志織の首に手を伸ばした。
「聖女さまっ」
「イエセ」
イエセが立ち上がりそれを止めようとするのを、首を横に振って止める。
「にわか聖女のわたしをマーカサイトが信用できないのは当然のことです。今まで散々辛散(しんさん)をなめて来たのでしょうから。今まで聖女たちはあなたがたに言われるがまま、勇者ルートか、魔王ルートを決めて来た。
でもごめんなさい。わたしはそんなに素直な人間じゃないんです。決められた道を歩くのには抵抗あるタイプなので、自分で決めた道しか進めないんです」
魔王の怖いほど鋭い金の瞳がすぐ目の前にあった。志織は圧倒されそうになるのを堪えた。するとマーカサイトは志織の首に振れた手を離した。
「聖女。そなたの覚悟は分かった。そなたが今後一切、魔王国に人間達を立ち入らせないことを徹底させると約束出来るのなら、考えてやらないこともない」
「ありがとう。マーカサイト」
「礼を言うのはまだ早いぞ。我の後にまだ話しあわなくてはならない奴がいるのではないか?」
魔王の言葉にそうだった。と、志織はウンザリしそうになった。奴=勇者を思い出したからである。こっちの方が説得が難しいかも知れない。
その日の会談は上手く行き魔王は終始ご機嫌で帰って行ったように思われたのだが、後日さっそく問題が起きることになろうとは誰も思いもしなかった。
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