これが本命でしょう
…………なぜ、本物の嫡男が家に帰らなかったのか、考えなかったのだろうか。
彼は侯爵の実子だが正妻の子ではなかった。
彼は攫われて捨てられた、正妻の手の者に。
それを幼い彼は知っていたから帰らなかった。
「愚かすぎます。なぜ『自分と瓜二つの同い年の少年』が目の前に現れたのか。なぜ彼が……同じ王都にある家に帰らないのか。その理由を考えていたら、こんなことにはならなかったはずです」
「この者は知らなかったのだろうな。……夫人の専属侍女だった母が、前侯爵のお手付きになり双子を産んだことも、一人を奪われて自分たちは捨てられたことも。母の実家も体裁を気にして二人を下町に追いやったことも」
そうなのですよ、聞こえましたか?
あなたは義父に叛旗を翻した正妻が母子に奪われた子を返してくれた恩を無駄にしたのです。
実の兄弟をその手にかけ、入れ替わったことに気付いた母を窓から突き落として殺し、入り込んだ侯爵家から正妻を追い出したときの気分はどうでしたか?
貴族という立場から、あなたの罪は揉み消されたんです。
そうそう、ご存知かしら。
正妻が領都の別邸に移り住んだのは、妊娠していたからですよ。
あなたの魔の手から我が子を守るため。
そのために避難したのです。
そして、貴族院に次期当主として登録されたのは、そのときに産まれた子息です。
あなたは当主の弟で、当主の息子ではないのですから。
名前を同じにしたのは、あなたに気付かれるのを恐れてのこと。
彼の存在をご存知ないのは当然でしょうね。
あなたに存在が見つからないように、隣国の学園都市に進学されたのですから。
隣国でも次期当主はその方という認識であって、あなたではありませんでした。
そして、私の婚約者も。
「彼は侯爵家を乗っ取った犯罪者。ですが、侯爵家はすでに爵位を返上して隣国に、私たちの国に属しているのですから」
この度、
ひとつは、この国の貴族だった方の子息に陞爵させることが内定し、その許可をいただくため。
彼は不遇な立場を自身の努力で打ち破り、まだ学生という立場なれど魔導具の製作技術者としての地位を手にいれた。
その報奨が陞爵なのですが、彼の実家は元貴族。
一応の礼儀としてお伺いする必要があるのですよ。
「ところで、お兄様。お許しは頂けましたの?」
「ああ、彼の愚行で優位に働いたよ。慰謝料もいただいた。王領地となっていた元侯爵家の領地と、ついでにその両隣の王領地だ。領民は残るかどうか、自由に選んでもらうことになっている」
「では元領地をお返ししましょう。元々領地経営で繁栄させていたのですから、領民は喜ぶでしょうね」
「私も同じことを考えていたよ。領地経営は元侯爵に任せることになると思う」
「それはよかったわ。彼には魔導具の製作を続けていただきたいもの。これで安心して彼と結婚できるわ」
「妹の純白のウエディングドレスを見るのが先だなんてな」
「残念でしたね。お
「それは仕方がない。公爵家に臣籍降下なされた弟君が身罷られたのだ。今回のことで顔を見られたし、ご好意からお会いすることができた。思いっきり泣かれて、やっと落ち着いたと笑顔を見せられたよ。健気な方だ」
これが、お兄様の二つ目の目的です。
いえ、これが本命でしょう。
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