第6話 新しい仲間

「優奈ちゃん。今日から新しいバイトの女の子。仲良くしてあげてね〜」



オーナーが私に一人の女の子を紹介した。



「はい!超嬉しい!女の子来てくれて良かった~♪みんな良い人達ばかりだから。私、小西 優奈。あなたは?」


「…成巳…室矢馬 成巳(むろやま なるみ)」


「成巳ちゃんだね?よろしくね!」


「…うん…」



可愛い感じの女の子だ。


大人しそうな感じも気がするけど……






〜 宗氏 Side  〜



「なあ、あの子、どう思う?」と、俺。


「えっ?あの子?新しいバイトの子?可愛いじゃん」


啓ちゃんは、そう言った。




「可愛いのは認めるけど、何か裏がありそうなんだよな〜」


「それ、宗ちゃんの思い過ごしだろう?」


「そうか?」


「そうだって!優奈ちゃんも可愛いけど、あの子も可愛いし。オーナーのタイプなのかな?」


「えっ?そっち?」


「他に理由ある?」


「そう言われると……」




その日の夜―――



「じゃあ、お先に失礼します。お疲れ様です」



成巳ちゃんは、早々と帰って行った。




「新入りとはいえ、普通、少し先輩のお前が帰るべきだろう?」と、椎野君。


「そう?まあ、私は気にしないよ。そんな事よりも自分の事気にしなよ」


「何だよ」


「目、目のやり場がないんだけど?」




椎野君は、ボタンが外れ、服装が乱れていた。



「あー、これ?」




突然、グイッと引き寄せると抱きしめる椎野君。



「きゃあ!」


「最後の、お客様。俺がキューピッドした彼氏と喧嘩したらしく、ぎゅうっとして〜♪って言われて、こんな風にしてあげただけ」



「ちょ、ちょっと」




グイッと押し離す。


騒ぐ私達。


そんな私達のやり取りを帰ったはずの、成巳ちゃんが遠くから見つめる彼女の姿があった。




「…あの子…もしかして…雪渡狙い?」



その姿を偶然見掛ける、砂都中 宗氏君の姿があった。





ある日の事。



「ねえ、優奈、大丈夫?」

「えっ?」

「最近、疲れてない?」

「そう見える?全然、平気だよ」

「本当?」

「うん」




最近、ライブとクラブの日々で正直、忙しい。


彼女、成巳ちゃんが来てから、仕事が逆に増えた。


彼女は、椎野君狙いというのが明らかになったのだ。



特に、椎野君が顔を出すと


“働いてますよ”感を、アピール。



これに関しては、誰に対しても同じやり方な態度を見せ、対応する。


彼女は、私の前と男の子の前で違う態度や行動を取るタチの悪い女の子だった。


でも、それは、私以外誰も知らない。



だけど、唯一、砂都中君は知っていて、私にだけ彼女の情報を話してくれた一人だ。


彼女が休みの日、砂都中君との残業の日に遡る。



「優奈ちゃん、彼女とはどう?」

「えっ?」

「成巳ちゃんと仲良くしてる?」

「う、うん。大丈夫だよ」



「………………」



「どうして?私、もしかして仲良くしていない感じに見える?」


「何で、そうなるん?」



ドキッ

聞き慣れない砂都中君の関西弁に胸が大きく跳ねた。



「えっ?」

「あの子…雪渡狙いなんちゃう?」

「雪渡…椎野君、狙い?」

「優奈ちゃんも薄々、気付いてるんやろ?」



「………………」



「あの子、ホンマタチ悪いで!優奈ちゃんに話しておこう思うてんけど、残業になったのも何かの縁やったと思うわ」


そんな彼女の情報を聞いたのだ。




彼女は、雪渡狙いで以前から良くお店には出入りしていたらしく、ここでバイトをする事になったのも自ら志願したらしいのだ。


そして、最近、妙な事件が起きつつあるのだ。


雪渡に近付く人や仲良くしている人は、何かしら事件に巻き込まれているとの事。


それに関しては本当に驚いた。


その情報を知っている砂都中君も凄い。


まるで街の情報屋さんみたいだ。


そこで、忠告されたのが、気を付けた方が良いと――




ある日の事だった。


私は、学校の授業中に倒れてしまった。


そんな中、休むわけにはいかず、バイトに行く。




「お前、大丈夫なのか?」と、椎野君。


「えっ?大丈夫だよ」

「でも…お前…」

「貧乏暇なし!私は大丈夫だから」

「もっと自分の体を大切に…」


「成巳ちゃん一人じゃ任せられないから。申しわけないし」



「………………」




本当は、軽い貧血と言われ、疲れから正直熱もある。


夕美にも止められた。



夕美には彼女の話をしていない。



第一、休んで彼女一人にさせたら、後で、ブツブツ文句言われるのが目に見えてるからだ。


椎野君は、率先して、私の手伝いをしてくれた。


だけど、彼女にしてみれば全く良い気はしないだろう




「椎野君、成巳ちゃん、手伝ってあげなよ。私は全然、大丈夫だから」




そう言うと成巳ちゃんに椎野君を渡し、そこから去る。




「あっ!おいっ!何だよ、アイツ」


「優奈さん、どうかしたんですか?」 


「あー、アイツ、体育の授業中に倒れてさ」


「…雪渡君…優奈さんと同じ学校だったんですか?」


「うん。あれ?知らなかった感じ?」


「…はい…じゃあ、学校でも仲良いんですか?」


「いや…学校では、距離、おいてるかな?」


「…そうなんですか…」




そんな中。


「優奈、顔赤いようだが大丈夫か?」


「えっ?あ、令ニさん。大丈夫ですよ」



スッと私のオデコに手で触れる。



ドキッ



「熱あるみたいだが、本当に大丈夫なのか?」


「はい、大丈夫ですよ。心配しなくても働けますか?」




「………………」




その日の夜、何とか閉店まで働く事が出来、帰り始める。




「優奈、待て。その体じゃ無理だ。車で送るから待ってろ!」


「令ニさん…だ、大丈夫ですよ」


「駄目だ!上司命令だ!そこにいろ!」


「お前、やっぱ無理してたんじゃん」



視線の先には、椎野君。



「だ、大丈夫だし!」



私の頭をポンとする椎野君。




ドキン



「無理しすぎなんだよ!」

「無理してません!」




「………………」



顔をのぞき込む椎野君。



ドキッ



スッ

オデコに触れる椎野君。



ドキッ


「熱あるじゃん!」



両頬を軽くペシッと打たれた。



「きゃあ!」


「全く水分とれ!」




そういうと私に水を渡す。



「やる!俺、また買うし!じゃあな!お先!お疲れさん。戸西 優奈さん」



椎野君は帰って行く。




「優奈ちゃん」

「砂都中君」



スッ

顔をのぞき込むように、頭をポンと触れる。




ドキッ



「どう?大丈夫?雪渡、結構心配してたし」

「気持ちは嬉しいけど、成巳ちゃんの目があるから」


「そうやんな〜。あっ!そうそう、彼女、優奈ちゃんが雪渡と同じ学校だった事、知らんかったみたいやで」


「えっ!?」


「偶々、二人でいる時、会話聞こえてんけど……」


「そっか…」


「彼女の事やから、優奈ちゃんに相変わらず、一人仕事任せっきりなんやろ?」


「まあ…」


「そんな事やろうと思うたわ。じゃあな。優奈ちゃん。お疲れさん」


「うん。お疲れ様」



「………………」



「優奈、帰るぞ!」

「はい」

「全く、どうして休まなかったんだ?」

「借金もあるし、1日1日が貴重なので……」



「新しいバイト入ったんだから、お前が休んだ所で支障はしないぞ!まあ…ほぼ一人で仕事してたんじゃ体も壊すだろうがな?」



「えっ!?」



「宗氏との会話で気になってな。優奈、俺達に何か隠してないか?」



「………………」



「話したくないなら無理に聞こうとは思わないが、俺にだけは正直に話せ。前に、一人で抱え込むなと言ったはずだが?」



「………………」



「…分かった。無理に聞くのはよそう」


「す、すみません…」




そして、私は家まで送ってもらった。







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