第35話 帝国皇子視点5 怒るエルもかわいいです
エルを中心に俺たちは西街道を進むことにした。
総勢は1万1千人と兄上と姉上の各1千人と比べると11倍の戦力だったが、王国の騎士たちが大半だし、そんなに戦力にはならないだろう。
こちらの最大の戦力はエルなんだけど・・・・、それは裏返すと・・・・。
エルが総大将ということで、特に第三騎士団の連中は、誤って不能にされたらどうしようと、エルをとても怖れていた。
まあ、エル命の俺にとって、ライバルが減るのは良いことなのだが。
「もっと胸張りなさいよ。何故、そんなに私を気にしているのよ」
エルの機嫌は当然悪くなる。
まあ、皆が、第三騎士団員みたいにエルを怖れてくれたら、自然とエルは俺のものになるはずだ。
そう思うと俺は嬉しかったが・・・・
そんな中、
「前方にホフマン子爵の砦が見えてきました」
斥候が叫んできた。
敵はたかだか500くらいだ。第三騎士団ならそれほど時間をかけずに占拠できるだろう。
何なら俺が先陣切ってもいいし。
俺が楽観した時だ。
「ふんっ、総指揮官は出来損ないの姫だと、我々も嘗められたものだな!」
大音声が砦から響いてきた。
「何だと!あの野郎!」
その言葉に俺はキレた。俺のエルを貶める発言忘るなど、許さない。
「儂は騎士団に所属する事30年のホフマンだ。出来損ないなど片手で相手してやるわ。女の魅力でバルチュ侯爵令嬢に負けた腹いせに、王太子殿下を不能にするなど女の風上にもおけぬ奴よ。顔が酷くて外も歩けないそうじゃないか」
「あいつ、もう殺す!」
俺は剣を抜いて突撃しようとしたが、第三騎士団の奴らが必死に俺を止めた。
「まあ、フェル、おっさんには好きに言わせておけば」
エルは大人の対応をしている。まあ、エルか気にしないのならば・・・・・いや、俺は許さない。未来の帝国第五皇子妃を貶めるとはどう言うつもりだ。
その時だ。おっさんがとんでもない発言をした。
「ふん、胸が小さいと根性も小さいな」
おい、エルに胸のことを言うな。それでなくても姉上と比べて小さいのを気にしているのだ。兄上と比べても胸囲で負けたと切れていたのだ。それはエルの前では禁句だ。
「な、何ですって」
次の瞬間エルは案の定激怒していた。
「おい、エル!」
俺は声をかけたが、もう遅いだろう。
「もう一度言ってみなさいよ」
エルが大声で叫んでいた。
「ふんっ、何度でも言ってやるわ。ペチャパイ!」
あの男エルの噂を聞かなかったのだろうか。王太子とかその側近とかバルチュ侯爵とかがどうなったかを。第三騎士団長とかは、自分の股間を押さえて必死にエルとおっさんの間から逃れようとしている。それに続いて騎士団の面々も間から離れようとしている。
「もう許さん!」
エルガ宝剣を抜いた。
「ヒィィィィ!」
「全員伏せろ」
退けきらなかった第三騎士団の連中が一斉に股間を押さえて伏せた。その上をエルの怒りの宝剣の一振りが通りすぎたのだった。
絶対にあの親父はアホだ。
凄まじい閃光と衝撃の後には破壊され尽くした要塞と不能になった男たち500名がピクピク震えて倒れていた。
「ふんっ、私をペチャパイなんて呼ぶからよ」
仁王立ちしてエルが言い切った。いや、エル、その姿勢は良くないぞ。姫としての体裁が・・・・・。それでは王子だ。
騎士団員たちはエルからみんなはるかに離れて聞いていた。
途中のバルチュ侯爵家もあっさり占拠して俺たちは一路オーバードルフに向かった。
おっさんの最後を聞いて、俺たちの姿を見るやいなや、オーバードルフの連中は降伏してくるか逃げ出して行くかのどちらかで、軍の進軍スピードはとても早くなった。
王都の前10キロで我軍は布陣した。
兄上と姉上が来る前にオーバードルフを占拠してしまうとあとがうるさそうだと懸念していると、
「とりあえず、王都に工作を仕掛けて宜しいですか」
エルの補佐官のウンガーが聞いてきた。
「えっ、また何か酷いことするの?」
エルが嫌そうな顔をする。
「いやあ、一番いいのは無血開城ですから」
ウンガーは笑っているが絶対に色々画策しそうだ。
ウンガーに言われてエルは王都に向かって凄まじい顔で剣を放っていた。あれは絶対に昔の恨みを晴らすつもりで放っているんだろう。
「おのれ、若作りババアめ!」
誰の事を言っているのか?
それを兵たちは唖然と見ていた。
「姫様に恨みを買うなんて、なんて恐ろしいやつなんだ」
ヘルマンがボソリと言った。
ウンガーの動きが気になるのでチラシを兵に見せてもらうと凄いことが書かれている。
エルをここまで貶めて良いのか。
「おい、エル、王都へのビラ見たんだけどこれで本当に良かったのか」
俺はエルにチラシを見せると案の定エルは切れていた。
「大ボケウンガー野郎!」
エルは王都に向かって宝剣を振り抜いていた。
「アチャーーー、ついにウンガーも姫様のお怒りをかってしまいましたな」
ヘルマンが笑ってエルの怒りを勝っていた。
「うーん、なによ、これ、どんどん大人しい、静かな姫のイメージが崩れていくんだけど・・・・」
「いや、エル、そんなイメージ元々無いから」
俺はエルに言った。そうだ。こいつのどこにそんなイメージがあるんだ。
エルは俺を睨む。
「どういうことよ。不能姫なんてあだ名が付いたら私お嫁に行けないじゃない」
「大丈夫。そうなったら俺が貰ってあげるから」
ここぞとばかりに俺がアピールした。渾身のアピールだったんだが・・・・・
「何か言った、フェル」
「いや、何も」
俺の言葉は王都からの爆発音で聞こえなかったらしい。
うーん、タイミングが悪い。がっかりした。せっかく気合い入れて言ったのに。
でも、ぷりぷり怒っているエルも可愛いんだけど・・・・・
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