第32話 帝国皇子視点2 エルに好かれるためにまず外堀から埋めることにしました
オーバードルフ王国からのエルに対する謝罪使は全然来なかった。本当にムカつく奴らだ。
俺のエルにあんなことをしやがって、本来ならば帝国軍1個師団連れてきて征伐するところなのだが、他国の援助を良しとしないだろうエルの兄上と姉上の手前、何もしなかった。
それよりも、いかにして、エルに俺の気持ちを知ってもらうかだ。
エルに好意をもってもらわないといけないのに、俺は思わず、エルの行動に文句を言ってしまっていた。もっと気をつけて行動しろとか。だから俺も学園に一緒に留学するといったのだとか。
「でも、ついてきてくれなかったの、フェルよね」
ガーン!、エルにこう言われて俺は固まってしまった。
そうだ、最後についていかなかったのは俺だ。
帝国側の都合だと言って誤魔化したが、本当はそんなことはない。そんなの俺の都合でいくらでも変更できたのだ。
本当は、エルが婚約者とイチャイチャするかもしれないと考えると一緒に行けなかったのだ。
二人がイチャイチャするのをみたらキレて王国の王太子を殺しかねなかった。
でも、危うくエルがゲフマンに売られるところだったと聞いて、一緒に行けばよかったと本当に後悔したのだ。
「その点は大変申し訳なかった」
俺は心から謝罪した。
エルが空を必死に見ているので
「何をしている?」
思わず聞いた俺は悪くない。
「いや、フェルに謝られたから、何かあるのかと」
「俺も帝国の皇子だ。悪いことをした時は当然謝る」
俺はそう言ったが、エルはあんまり信じていないみたいだった。
昔から俺は天邪鬼だったらしい。俺はエルがかわいくて、照れ隠しで思わず虐めたりしていたとはいえなかった。ずっと昔から好きだったと。それが言えないばかりに、思わず意地悪していたのだ。
「今後は、二度とエルを一人では危険な所にはやらない、と俺はここに誓う」
俺は本心から言った。もうどんな所でもエルを一人では行かせない。俺は決意していた。どんなに嫌がられようが・・・・いや、嫌がられるのは良くないが、煙たがられようが、絶対にエルから離れないのだ。
「じゃあ、領都に出来た、帝国堂に行きたい」
「えっ、帝国堂?」
「そう、そこのチョコレートパフェとかいうものが食べたいの」
そんなことなら簡単だ。帝国資本だし、一言言えばいいだろう。ついでに特別室を用意して演出しろと帝国本社に連絡しよう。あとは、俺とエルの噂を大大的に流させるのだ。
皆が誤解しようがないように。
外堀から埋めていくのだ。
「じゃあ、フェルのおごり?」
嬉しそうにエルが聞く。そんなの当然ではないか。デートは当然男が持つのが当たり前だ。そんな安いものでなくて欲しいものは何でも買ってやるというと
「うーん、それはいらないから、そう言ってくれるなら屋台で串を食べたい」
「いや、別に良いけど、安上がりな女だな。それも食いもんばっかりだし」
「だってお母様が、婚約破棄されたところだから、超過保護になっているんだよね。一人で出歩くのは禁止とか言って。そうかと言ってついて来てくれるかというと、忙しくて、一緒になかなか連れて行ってくれなくて。フェルの護衛付きなら問題なく行けると思うの」
「それは当然だ。喜んで、我が姫!」
俺はここぞとばかりに皆が恋人に言う言葉を言ってみた。
そう言ったのに、エルは変なものを見るように俺を見た。
エルの反応が皆が言うのとは違う。全然響いていないのだ。
な、何でだ。言った俺もとても恥ずかしいのに、その気が狂った者を見るような目で俺を見るな・・・・
うーん、エルにはなかなか伝わらない・・・・。
翌日、エルの母に散々心配されて俺たちは出た。
うーん、昔、いたずらしすぎたみたいだ。
「おい、待て、エルは帝国にはやらんぞ」
エルの父には釘を刺されるし、うーん、親父は何をとろとろしているんだ。さっさと婚約申し込めよ。文官共も何をしている。俺は再度本国に圧力をかけようと思った。
「えっ」
俺が馬車の前で手を差し出しすと、エルが固まっていた。
おいおい彼女をデートに誘う時に手を差し出すのは当然のことだろう。
エルは全然判ってくれない。
馬車も隣りに座ったんだけど、邪魔なものを見るように見るのはやめてほしいんだけど・・・・・
でも、あっという間にエルは楽しみだした。
「あっ、フェル、昔黙って登った、教会の塔が見えたよ」
「あの時は登るの楽だったけど、下るのは大変だったよな」
「本当に」
「あっ、あの橋、昔はあの橋の下で魚釣りしたよね」
「そう、そこで釣った魚を焼いて、周りの民家の人から文句言われたわよね」
「それは食いしん坊のエルがすぐ食べたいなんて言うから」
「何言っているのよ。あんな所で魚を焼こうって言ったフェルが悪いのよ」
昔話に話が弾んだ。
やはり、エル相手に話すのも楽しい。
そして、帝国堂についた。
当然従業員一同外にそろって
「いらっしゃいませ」
馬車が着くと同時に一斉に頭を下げて迎えてくれた。
そうだ。よくやってくれた。
走ってきた支配人に笑顔で頷いた。
「これはこれは殿下。良くこのような所までお越しいただきました。昨日、本国の社長より連絡をもらいまして」
「まあ、ここは僕にとって本拠地のようなところだからね」
そう言いながら俺はエルを馬車から丁重に降ろした。
「こちらの方は」
「えっ、君たちの領主様の2番めのご令嬢だよ」
「ああ、あの出来・・・・・いえ、失礼いたしました」
こいつ、俺の前でエルのことを出来損ないと言いそうになった。殺されたいのか?
俺は鋭い目で支配人を見た。
「はっ、申し訳ありません。でも、その方を殿下がエスコートなさっているということは」
「ま、そう言う事だ」
そうだ。それでいい。帝国にもこの国にももって広めてくれ。俺は目で支配人に合図した。
「こちらに、個室を用意してあります」
支配人に案内されて部屋に入る。何かエルが嫌そうにしているけど、何故。
まあ、オープンスペースでイチャイチャしても良かったか。その方が噂の広がりが早かったかもしれない。と後悔はした。
「何にする?」
「うわあああ、凄い、ありすぎて目移りするけど」
エルはメニューを見てとても嬉しそうだ。
「当店の一番人気はチョコレートパフェでございます」
「じゃあ私はそれを」
「俺はフルーツパフェを」
俺は別のものにした。そうあこれならば食べさせが出来る。小さい時はよくやったものだ。その延長で今日やってもエルは驚かないだろう。でも、それを傍から見たらどうなる?
完璧な恋人になるはずだ。そう、周りには仲の良い恋人がイチャイチャしているようにみえるのだ。
「えっ、それも食べたい」
そう言うエルに俺は頷いた。やった、いきなり食いついてきた。
出てきたパフェをエルは本当に美味しそうに食べる。
「えっ、一口食べる?」
エルはスプーンを俺の口の中に持っていってくれた。
うそ、エルから食べさせしてくれるなんて、俺は満面の笑みを浮かべて食べさせてもらった。
何か給仕の女の子と支配人の目が点になっている。そうそう、もっと驚け。そしてどんどん噂を流して欲しい。
「どう?」
「美味いな。じゃあ俺のパフェも」
桃とクリームの部分を取って俺もエルの口の中に入れた。
これで食べさせ合いが完成だ。
「あっ、本当、これも美味しい」
エルが満面の笑みを浮かべる。
これで仲の良い二人の恋人が完成した。
コイツラは早速盛大に噂を流してくれるだろう。外堀埋める作戦その一は大成功だった。
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