第23話 国王視点3 あまりの心労にたおれてしまいました

「あなた、そのようなこと信じられる訳ないでしょ!」

「左様でございます。陛下。そのような世迷い言、信じられましょうか!」

王妃も内務大臣もその他の皆も、信じられない面持ちだった。


「貴様らが信じられないのも無理はない。私も最初は信じられなかったのだからな」

私は皆を見渡した。


「司法長官」

私はテールマン司法長官を呼んだ。


「御前に」

司法長官が前に出てくる。


「お前は私の言ったことが全て真実だと知っておるな」

「はっ。我が家は代々司法長官を世襲しております。その話を伝えるためだけに司法長官の役職だけが世襲になっいるのです」

テールマンは言い切った。


「テールマン殿、それは真のことなのか」

内務大臣が聞いた。


「信じがたいことかとは存じますが、全て事実です。証拠の品の数々は我が家と王家とそれにハインツェルにございます。更に、ハインツェルでは、本屋にまでその話の本が並んでおり、子供までが知っております」

「そんな、辺境伯の言いがかりだとばかり思っておりました」

王妃が呆然としていった。


「しかし、それが事実なのだ」

私は一同を見渡した。


「そして、我が王家とハインツェルには秘密条項まで結ばれておるのだ。その第三項にハインツェルの直系に対して王として接する以外に必要以上に辱めてはいけないとあるのだ」

「それが今回に当たると」

「そうだ」

「今回の婚約は前王のたっての希望でして、そもそも、こちらからの婚約破棄はあり得ません」

「そんな」

テールマンの声に王妃は唖然とした様子だった。


「廃棄はハインツェルのみ可と契約書に記載してあります」

「そこまでして、義父殿はこの婚約を結ばなければならなかったですか」

「そうだ。父はそこまでしてこの婚約を結びたかったのだ」

王妃の問に私は答えた。


「何故ですか。なせそこまで我が王家が下手にでないといけないのですか」

「そもそも、ハインツェルとの婚姻はしばしば結ばれておる。大体5代毎にだ。血が薄れないように王家から持ちかけて結んでおる。それがちょうど5代目だというのもある」

「だからと言って、このようなこと。そもそも今回はバルチュ侯爵本人もエルヴィーラに重傷を負わされておるのです。それでも不問なのですか」

「な、ナニをしておるのだ。バルチェは。宗主国の姫相手にそのようなこと許されるとでも思っているのか」

私は机を叩いた。


「司法長官、バルチェの罪は」

「今回はエルヴィーラ姫に宝剣を抜かせています。領地取り上げの上、一族処刑かと」

「な、なんですって」

「そこまでせずとも」

王妃と内務卿が言うが、

「愚か者。反逆罪が適用されるのだ」

私は一喝した。


「秘密条項第二項に、ハインツェルに剣を向けること無かれとあります。今回はエルザベート様の宝剣を抜かれたのです。当然、領地取り上げの上一族処刑かと」

「そんな」

「馬鹿な」

周りは騒然としだした。


「では、今回の王太子の罪はどうなるのです」

王妃がきっとして聞いてきた。


「婚約破棄だけならば不敬罪で済んだが、ゲフマンと組んでそのエルヴィーラ嬢をゲフマンに売ろうとしたのです。当然反逆罪が適用されます」

司法長官は淡々と言った。


「そ、そんな、ベルンハルトは王太子なのですよ」

「愚か者。何度も申しておるだろうが。ハインツェルは普通の辺境伯ではないのだ。極秘だが、我が王家の上に位置するのだ。それに逆らえばただで済むわけはなかろう。それで済めば御の字だ。お前らはナニをしでかしてくれたのだ」


「陛下、ベルンハルトの命を守るためにも、何卒助命を」

王妃が私にすがりついてきた。


「愚か者。王太子一人のせいで国を滅ぼせるわけはなかろう」

「このような理不尽な条約がありますか」

「もともと、国王を譲り受けた我らの先祖が決めた法律なのだ。致し方あるまい」

「しかし」

「しつこい。そもそも、ハインツェルに逆らった所で我軍では勝てまい」

私は当然のことを言った。


「何故です。たかだか一辺境伯ではございませんか?」

「馬鹿者。元々、ハインツェルは武の名門ぞ。我軍全軍であたっても勝てる見込みがないわ」

「それはやってみないと判らないではないですか」

私の意見に、王妃が噛みついてくる。こいつらは単純に数の比較しか出来ないのか。確かに5万対5千だが、各々一人ひとりの力が違いすぎるのだ。それがわからないのか? 私は唖然とした。


「お前は現実がわかっていないのか。南国ゲフマンは侵略国家として名高いが、我が王国は1度たりとも侵略を許しておらん。全てハインツェルがあの地にがんばってくれているからだぞ。今回も5万のゲフマンの大軍を潰走させたのだぞ。そんな最強軍と戦って、戦も知らぬ我軍など勝ち目はなかろう」

私は言い切った。


「それは」

王妃も黙り込んだ。


「陛下。それ以上に今回は懸念事項がございます」

司法長官が改まって言ってきた。


「これ以上何があるのだ!」

「使者に立ったギュンター子爵が『ハインツェルは第一項の適用を考える』と言われたと」

「な、何じゃと。その者、何故まともに帰ってきたのじゃ。責任とって何故、その場で自刃せんのだ!」

最悪のことが起こった。もうこの国も終わりかもしれない。私は地面に座り込んでしまった。


「第一項とは何なのですか?」

私の様子を見た王妃が青い顔をして代表で聞いてきた。


「第一項とは、王家に国を治める力がない、とハインツェル側が認める時、これを代わるとあります」

テールマンが淡々と言った。


「これと代わるとは」

蒼白となって内務大臣が聞いた。


「文字とおり、恐れ多くも国王陛下にハインツェルがとって代わるということです」

「そんなバカな。辺境伯が国王に成り変わるなど反乱でも起こさない限りありえないのでは」

「こうなれば、我軍の全軍挙げてハインツェルを攻めるしかございますまい。思い上がった辺境伯に鉄槌を下すしかましょうぞ」

「愚か者! そのようなことが・・・・」

私は急に胸が痛くなった。


「陛下!」

慌てて周りのものが駆けつけてきた。


「よ、良いな。絶対にハインツェルと事を構えるでないぞ」

「へ、陛下」

私は急速に意識がなくなっていくのを感じた。

このままではオーバードルフが滅びる。私は必死に起き上がろうとした所で意識が飛んでしまった。







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