第14話 南国は私を捕虜にしたととんでもない勘違いをしていました

「何か、空に文字が浮かんでいますが」

斥候兵が叫んできた。


「はっ、なんて書いてあるんだ」

お兄様が面倒くさそうに言った。


送り出した使者が我々のもとに来るまでに殲滅されたので、ゲフマンも少し考えたみたいだ。

次は空に魔術をで文字を書いてきたのだ。


珍しく、お兄様はそれを攻撃しなかった。


しても仕方がないと思っていたのかもしれないが。


森林限界のはるか先に陣取った敵からのメッセージだった。


「『お前らの妹を預かっている。妹の命が惜しければ攻撃を止めて、降伏しろ』とあります」斥候兵が読み上げた。


「はあああああ! 由緒正しい我がハインツェルに降伏しろだと」

お兄様が切れて、剣を振り下ろした。


斬鉄剣の一撃がその文字を真っ二つに切り裂く。


それと同時に斬撃は敵本陣に叩きつけられていた。


ドカーン


凄まじい爆発音と爆風、粉塵が飛ぶ。


「お兄様。そこじゃなくて人質の件なんですけど」

私がやんわりと嗜めると


「いや、妹と言ってもここに我等3兄弟全員揃っているぞ。父上に隠し子がいたら別だが」

「一応聞いてみる?」

お姉様がそう言うや魔術で父と連絡するようにつなぐ。

目の前にお父様の姿が映し出された。


「お父様。お父様に隠し子がいるってゲフマンが言っていますけど」

お姉様は平地に波瀾を起こす様に説明した。


「はっ?」

お父様の目が点になる。


「あなた! どういうことですの?」

途端にお母様がお父様の襟元を掴む。


「いや、ちょっと待て、そんなのいるわけ無いだろう」

「でも、ゲフマンがいると言っているそうではないですか」

「いや、お前、そんなわけ無いだろう」

「煙のないところに噂は立たないと申しますわ。素直に白状なさい」

「いや、ちょっとお前」

ガチャ


お姉様は通信を無理やり切った。

この時に切るかと私は思ったが、


「あの様子では隠し子はいないみたいね」

いやいやいや、あの後お父様が大変なのでは・・・・

お母様切れていたし、物には言い方というものがあるのではと思ったのは私だけか?


まあマイペースのお姉様はびくともしていなかったが・・・・


「まあ、そうだろう。あいつら馬鹿だから、どこか他人の子を妹として連れてきたんじゃないのか?」

単純なお兄様に馬鹿にされるのもどうかと思うが、はっきり言って私もゲフマンは馬鹿だと思っているので否定はしない。だっていつもこてんぱんにやられているのに、いまだに脳筋のお兄様に楯突いてくるのだから。


「そうか、誰か兵士の妹を間違えて連れて行ったとか」

「おい、直ちに全兵士に確認しろ。妹がさらわれていないかどうかを」

お兄様が慌てて言った。


「何かそれも面倒くさくない。もうこうなったら本陣に殴り込んで人質を助けるのが早くない」

お姉様が言う。


「それもそうだな。これは人道危機だからな。森林限界出てもいいよな」

お兄様も乗り気になった。


「えっ」

ここでゲフマン殲滅されるの?


怪物二人が本陣に殴り込みをかけたら、敵兵の殲滅は確実だ。


この全軍が消滅すれば流石にゲフマンも滅ぶしか無いだろう。


「ちょっとお待ち下さい。エックハルト様」

そこにやっと追いついてきた騎士団長らが止める。


「誰を捕まえたか聞いてみようではありませんか」

ギルバート第一騎士団長が建設的な意見をだす。


「仕方ないわね」

お姉様がこちらも魔術で文字を書く。


「人質になっているのは誰?」


10分くらい立ってからだ。


「回答が出てきました。『お前らの末の妹エルヴィーラ様だ』とのことですが?」

皆一斉に私を見る。


えっ、私?


「なに、お前偽なのか」

「痛い、お兄様止めて、痛いから」

兄はあろうことか私のほっぺをつねりあげたのだ。死ぬ、死ぬから・・・・


「別に本物だぞ」

「だから本人だって言っているでしょ!」

私は涙目になって言った。本当に脳筋は嫌いだ。

傷が残ったらどうするんだ。私は必死に頬を撫でる。


きっとしてお兄様を睨みつける。でも、お兄様はどこ吹く風だ。


「妹ならここにいるけれど、誰を間違えて捕まえたというの?」

お姉様は空に文字を書く。


「嘘を付くな。こちらはオーバードルフの王都で婚約破棄されて傷心のエルヴィーラを拘束したのだ」

敵は書くのが面倒になったのか、いかつい男が画面に現れて大音声で怒鳴り返してきた。


「あっはっはっはっ、貴様が蛮族の王か」

お兄様が大声で宣った。


お姉様がその姿を映し出した


凄まじい大声だ。


「誰が蛮族だ。ゲフマン国王、メッテルだ」

ゲフマン王はふんぞり返って言った。


「ふんっ、まあ良い。そもそも我が妹はいくら出来損ないだからと言って貴様らごときに捕まるわけはないぞ。10年前を忘れたのか」


「10年前?」

「貴様らの大軍が妹の馬車を襲って殲滅されただろうが」

「えっ、ひょっとして厄災姫・・・・」


「誰が厄災姫よ」

私が怒鳴り返す。しなくていいのにお姉様が私を大画面にしてくれた。


「げっ」

ぎょっとして王は私を画面越しに見る。


「人を見てげって言うな」

「もう良い。エル、お前が落とし前をつけてやれ」

お兄様が言ってくれた。


「えっ?、やっていいの」

「いや、それは」

騎士団長らが止めようとしたが、


「やむを得ん。お前が虚仮にされたのだからな」

その言葉に、皆、私の周りからさああああっと引く。


お兄様まで私から離れるのは止めてほしいんだけど・・・・・

間違えて振り下ろさないわよ。


「では、証拠として私の一撃を喰らえ」


私は我が宝剣を抜くと、えいやっとゲフマンめがけて振り下ろした。


私のおっとりとした動きとは、別に宝剣からは凄まじい光がほとばしった。


「ギャーーーーー」

凄まじい悲鳴が

ズッドーーーン

これまた凄まじい爆発音に消される。


「終わったか」

お兄様が言う。

私が剣を鞘にしまうのを見てから皆帰ってきた。


「しかし、あいも変わらず、様になっていないな」

「煩いです!」

私がブー垂れた。


「どうなった?」

「うーん、半分くらいが重症で残りの半分が軽症ってとこかな」

お姉様が魔術で調べて言う。


「あいも変わらず使えんな。あれだけの攻撃で誰も殺していないとは」

お兄様は切り捨てた。

「ふんっ、良いもん!」

私はむくれる。別に戦闘不能にしたんだから良いじゃない。全滅させて練習台を無くすと困るのはお兄様なのに。


「いかががなさいますか」

「よし、ここから国境の向こうに追い出せ」

「判りました。直ちに行います」

騎士団長らは戦闘配置につく。


後は騎士たちに任せて私達は城に帰った。

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