彼と僕と世間と徒然

隣町

第1話 水曜日午後2時

「外回りと内回り、どっちがいい?」

 隣のデスクから彼の声がする。深い深いため息を押し殺し、聞こう、と僕は返す。

「今作ってる書類、終わりそうに無いから持って帰ろうと思うんだけど、帰りの電車は外回りと内回りどっちにしようかなって。」

 椅子の軋む音と、彼の声が僕の耳に跳ねる。

 心底どうでもいい。すこぶるどうでもいい。

「ねぇ、午後の休憩で隣の部署の部長に会えたら内回りでもいいかな?」

 彼の弾む声に、いいんじゃないか、と僕は抑揚無く返す。

「そっか。なら決めた、キミと帰るよ。」

 不要にスペースキーを押す。ここに空白はいらない。

「残業はしないでしょ?じゃあ定時にね。」

 隣のデスクからキーボードを叩く音が聞こえる。

 目の前の書類は不要な空白を消せずに止まっている。

「待て、何がどうなってそうなった?」

 彼の椅子を揺すると、彼がにんまりとこちらを向いた。

「キミがいいって言ったからだよ?」

 彼は目線をモニターに戻すと、またキーボードを叩き始める。

 僕の深い深いため息が床に落ちて消えた。



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