第150話 ツイストドーナツと集落から来たゾンビ!

オイラは、ゾンビでやんす。いつ死んだのか、生前何をしていたのか?すら記憶にないでやんすよ。

魔境の中には、ゾンビの集落があるでやんす。気づいたら集まっていて、またフラフラと新しいゾンビがやってくるでやんすよ。正直、オイラにもどういう原理かはわからないやんす。

何故、魔境で弱いゾンビが生きていけるのかって?そりゃ、臭いからでやんす。腐った匂いや死臭やドブの匂いを自由自在に操ることが出来るでやんす。逆に匂いを出さないこともできるでやんす。しかも、意外に綺麗好きだから洗濯もするし体も洗うでやんすよ。まぁ体を洗ったら肉片が飛び散ったり大変でやすんよ。へへでやんす。


「少し遠出をしてみたけど、ずっと森しかない...ん?あそこに人がいるでやすんすな。お〜い!お〜いでやんす!」


何やら作業をしている一団が見えて声をかける。襲われたら激臭を撒き散らしてやればいいと考えている。

バルトが気づいてゾンビに近付く。


「ん?ん?なんじゃゾンビか!お前さん、なにをしとるんじゃ?」


この世界のゾンビは、人を襲うことはせず、フラフラ彷徨うか集落でゾンビ同士で暮らしているかだ。だから、バルトは、怖いと言うより何故居るのかの方に疑問が湧いた。


「集落から遠出してきたでやんす。そしたら、人影が見えたから声をかけたでやんすよ。ドワーフは、何をしてるでやんすか?」


死ぬ前の記憶はないが、何故か目の前の人物がドワーフだとわかるゾンビ。


「ワシらは、開拓をしておる。今住んどるとこが狭くなったでのぅ。新しい場所を作っとるんじゃ」


「大変でやんすね。オイラも、家を作ったことがあるでやんす。苦労はわかるでやんすよ」


世間話をしていると、オルトロスに乗ったアニカがやってくる。


「バルトおじちゃん、オヤツの時間なの。ってこの人誰なの?」


ゾンビを見るのは、初めてなアニカが尋ねる。恐怖する様子は全く無い。


「集落から出てきたゾンビらしいんじゃが、世間話をしておったんじゃ。もしよかったらお前さんも来るかのぅ」


アニカは、「へぇ〜」と言う感じで見ている。


ゾンビは、まさかのお誘いに、歓喜する。

未だかつて集落のゾンビ以外と話す機会がなかったからだ。


「本当でやんすか?是非行きたいでやんすよ。ワクワクするでやんす」


肌は、緑色で腐っており、目も片方落ちてなくなっている。日本人の拓哉は、一体どんな反応をするのだろうか?


「ゾンビさん、よろしくなの」


「こちらこそよろしくでやんす」


歩きながら、挨拶を交わすアニカとゾンビ。

そのまま歩いて村に着くと外にテーブルとイスが並べられていた。


「パパ〜ただいまなの〜」


声をかけられて拓哉が振り返るとアニカとバルトの横にゾンビがいた。


「ゾ、ゾンビ〜!?アニカ、大丈夫か?」


アニカもバルトも周りも、何が大丈夫なのかと言う顔をしている。


「パパ、アニカは大丈夫なの。どうかしたの?」


「だって、ゾンビだぞ。襲われたりしてないか?」


みんなが、へ?という顔をする。拓哉は、何を言っているんだという感じだ。


「オイラは、誰も襲わないでやんすよ?」


拓哉は、ゾンビが話しているのを聞いて思わず「えぇ〜〜」っと叫んでしまう。


「どうしたんじゃ?今日の拓哉はおかしいわい。なんか変な物でも食ったのかのぅ」


バルトの言葉にみんなが頷き心配する。


「あるじ、ちょっと耳を貸すんだよ」


桜花が、耳打ちしてくる。

〘この世界のゾンビは、誰も襲わないし、集落でひっそりと暮らしているんだよ。だから、みんなが不思議がっているんだよ〙


え?そうなの?と思う拓哉。それは、みんなこんな顔になるよと思う。


「ゾンビさん、ごめんなさい。俺の住んでいた地域では、ゾンビが人を襲っていたんだよ。だから、あんな発言を申し訳ない」


全員が、意外な言葉に「え?」となっている。転生者だと知っている村人は、そういうことかと納得している。


「そうなのでやんすね。それは、同胞が迷惑をかけたでやんす。オイラ達は、人を襲わないから安心してほしいでやんす」


ゾンビが人を襲うのは、映画や物語の中の話だと切り出せなくなり、余計申し訳なくなる拓哉。


「ゾンビさんを見て安心したよ。お詫びになるかわからないけど、よかったらオヤツ食べていかない?」


またもや喜ぶゾンビ。こんな大勢の中で食事ができるなんてと思っている。


「嬉しいでやんす。同胞以外と食事は初でやんすよ」


「喜んで貰えてよかったよ。みんな席に座って」


そして、大量の捻れたパンに白い粉がまぶされた物をバスケットに入って置く拓哉。


「ツイストドーナツというパンだよ。オヤツにぴったりだから食べてみて」


村人が、一斉に食べ始めてあちこちから「おいしい」という声が聞こえる。ゾンビもおいしそうに食べている。


「こんなふわふわのパン初めてでやんす。甘いでやんすよ。おいしいでやんす。集落のみんなにも食べさせてあげたいでやんす」


流石に、集落分は用意していないので諦めてもらいたいが、おいしそうに食べてくれてよかったと思う拓哉。

やはり甘い物だけあって女性陣には大人気である。シャーリーとビーチェは、両手に持って食べている。


「使徒様の、食事は本当においしいです。モチモチのパンに甘いお砂糖最高ですよ」


「おいしいよ〜使徒様、もっと他にもおいしいパンが食べたいです〜」


みんなで、パン作りとかピザ作りをしたら楽しそうだなと思う拓哉。

マリーもドゥルシッラも、満足してくれたみたいだ。


「錬金術で疲れた後に、甘い物はいいですね。しかも、食べ応えもあっておいしくて最高のパンです」


「本当に食べ応えがあって、モチモチふわふわでおいしいです。最近、太らないか心配なのですよ」


スタイル抜群のドゥルシッラが言う。だが、ここの女性達は、みんなスタイルがよく僻んだような目線を送る女性は誰もいない。毎日いっぱい食べているのに、脂肪はどこにいっているのか気になる拓哉。だが、そんなことを聞いた日には、明日を拝めなさそうなので聞けない。


「もう無くなったでやんす...残念でやんす」


拓哉が、アイテムボックスからもう1つパンが入ったバスケットを取り出す。


「これが最後だけど食べていいよ」


「ありがとうでやんす。おいしいでやんすよ」


その後、みんな足りなかったみたいで、ネットショッピングで市販のパンを大量に買って出してあげた。見事に全て食べたのだが、全員昼ご飯も食べたのに、どこに入るのか聞いたら全員が「別腹です」と答えたので思わず笑ってしまう拓哉であった。

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