第89話 (後編)三色丼の魅力!100年の眠りから覚めたゴーレム!

ヤナは、バルトと小次郎に任せて拓哉と桜花は、ヤナに食べさせる料理と常連客の料理の準備に取り掛かっていた。 桜花には、ミスしても修正ができる野菜の皮剥きとひと口大に切る作業をお願いしている。


「このピーラー凄い楽だよ。 どんどん皮が剥けて行くから楽しいよ」


包丁で野菜の皮剥きを教えていたが、薄く剥けず苦労していたので、ピーラーを渡した拓哉。


「ピーラーは、ベテラン泣かせのアイテムだからな。 新人でも、ベテランと変わらない速度で剥けるしね。 でも楽しく剥く作業だけしないようにな。切る方も頼むよ」


拓哉が、籠を見ると剥いたじゃがいもの山が出来ていて、どんだけハマってるんだよと思うのだった。


「ふっふっふっ切るのも任せてよ。あるじに内緒で密かに練習してたんだよ。 僕の練習の成果を見せるよ」


トントントンとリズミカルにひと口大に切っていく桜花! 拓哉が「おぉぉぉお!!凄いな」と言うと調子に乗った桜花は更に早く切っていく。 ザクザクザクザクとじゃがいもを切った音じゃない音が聞こえる。 桜花の「あっ...!」と言う声が聞こえる。


「おぉ〜〜い!またまな板切ってるよ桜花ぁああ〜!」


拓哉の声が厨房に響き渡る。

いつになれば、桜花がまともに調理する姿を見れるのだろうか?


18時営業開始

桜花が看板を出しに行き、集まってる人に「いらっしゃいませ」と声をかけて出迎える。 中に入ると拓哉が「いらっしゃいませ」と言い、常連のお客さんが決まった席に腰を下ろして注文を桜花と拓哉に伝える。 それから、桜花がお酒やソフトドリンクを用意する。 最近の憩い亭の流れである。 桜花は、料理は全然出来ないがお酒に関しての知識は段々身についてきており、おすすめを推せるようにもなり成長が伺えるようになった。(モラル的に桜花にお酒を呑ませるようなことはしていません。)


「桜花、ヴァレリーさんのキマイラのたたきとバルトのマグロの刺身と師匠の秋刀魚の塩焼き出来たから出してくれ」


それを聞いて、桜花は注文された品をどんどん提供していく。

その間に、ヤナ用の三色丼を用意する。 鶏ミンチを甘辛くしたそぼろとほうれん草は出汁が効いたしょうゆ風味に卵も出汁が効いたトロふわに仕上げて丼に乗せる。


他の人の注文を桜花に運んでもらい、拓哉はヤナの元に三色丼を持っていく。


「ヤナ君、お待たせしてごめんね。 三色丼て言う料理だ。 最初は、別々に食べて最後は混ぜて食べてもおいしいから味わって食べてみてほしい」


綺麗に三色分かれた物から、嗅いだことないいい匂いがしてくるのを鼻で感じるヤナ。 自然とスプーンを手に取り茶色の物と知識にあるライスと言う物を口に運び入れる。 口に入れた瞬間、鶏肉の香りと甘辛い何かが鼻から抜ける。 黙ったまま、咀嚼をして舌で味わったことのない旨味を感じながら静かに飲み込む。そのまま一言も発することがなく、ほうれん草と卵も食べて最後に鶏そぼろと卵と米を混ぜて食べる。どんぶりの中は空になる。まだ黙ったままどんぶりを見つめるヤナ。 その様子を静かに見守る拓哉は、内心ドキドキしていた。 暫くして、ヤナは拓哉の方を向く。


「と、止まりませんでした。 初めて食事をしましたが、こんなに素晴らしいとは... 知識でおいしいと言う表現はありましたが、これがおいしいなんですね。 拓哉さん、一言だけ美味しすぎます! おかわりをください!」


心の中でよっしゃー!!!と叫ぶ拓哉。 正直、不安しかなかった。 ゴーレムに食べてもらう。 ましてや、食事を初めてする人(ゴーレム)に何を言われるかドキドキしていた。


「ふぅ〜よかったぁぁぁ」


心の底から安堵する。


「待ってろ。 すぐおかわり持ってきてやるからな」


横にいたバルトや他のお客さんが、注文しようと声をかけるも聞こえていないかのように厨房に去って行く。 桜花が、それをカバーするように。


「すいませんなんだよ。 あるじは、あぁなると周りが見えなくなるから。 注文聞いていくから順番に言ってください」


桜花が、ひとりひとりに丁寧に注文を取っていく。 お客さんも常連様と拓哉をよく知る人物なので一切怒ることはなく、逆に桜花を褒める。


「ピザを頂けますか? それよりも、桜花さんは、もう看板娘ですね。 しっかり拓哉さんを支えていて驚きましたよ」


「ほんとだよね。 僕も驚いたよ」


桜花は、照れているのか「えへへ看板娘とか何を言ってるんだよ」と言い、バシン!!とボーンの背中を叩く。


「ぶへぇっ!!? 桜花さん、私骨だから痛くありませんが、他人にしたらダメですよ! 人間なら内臓破裂しますからね。 見てください...背骨にヒビが入ったじゃないですか。 まぁ〜魔力ですぐ治しますが」


ほわぁ〜んと背骨が光るとヒビが治る。 周りは、ノーライフキングの魔力防壁に覆われた背骨にヒビが入る威力の平手打ちに冷や汗を掻きながら見ていた。


「ごめんなさいだよ。 嬉しくてつい...」


謝る桜花に、ボーンは大丈夫だからと言い優しく頭を撫でる。

そうしていると拓哉がおかわりを持ってくる。


「おかわりの三色丼お待たせ!ってあれ?みんな汗を掻いてどうしたの?」


桜花が怖いとは言えないみんなは、聞こえないフリをして酒を呑んだり料理を食べる。

拓哉はおかしいなと思いながらも、ヤナの前にどんぶりを置く。


「ん〜〜〜おいしいですね〜。 甘辛く濃く煮られたお肉とさっぱりした甘みのあるライスがちょうどよく合います。 濃いなと感じたら、野菜と卵と混ぜて食べたらまろやかになって更に食べたいって思えてくるんですよ〜。 はぁ〜〜もうぅ満足です〜〜!」


ヤナが、エネルギー満タンになり満足した表情を浮かべる。


「それにしても、ヤナのお代はどうするんじゃ? 何も持っておらんじゃろ?」


あ!そう言えばと拓哉も張本人のヤナも気づく。 ヤナは、おろおろしだす。


「ヤナ君、宿を貸すから住んでみるか? お代は魔物を狩ってくるか?バルト達について行って鉱物か薬草を採ってきてくれ。 それを俺が買い取るから」


ネットショッピングで、売って宿代と食事代の差額が出たら、硬貨で返してあげたらいいと考えた。


「いいのですか? 俺にはいいことしかないですよ。 えぇっと、本当にありがとうございます。 しっかり頑張りますね」


やる気に満ちた顔をしているヤナ。


「全然構わないよ。 やることしてくれたら基本自由でいいからな」


はい!と答えるヤナ。


「拓哉よ、そろそろ俺たちの注文も頼みたいのだが......」


あ!営業中だっと拓哉は思い出して、桜花から注文を受け取って厨房に走って行く。 それをみんなは、大笑いをして見るのであった。

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