第74話 引きこもりな研究者とビーフシチュー!
黒ローブを着た銀と白を2で割ったような色をした髪の美人のリッチが椅子に座りながら思い耽ている。
私はここに住むようになって、もう何百年になったのだろう!? 既に人間の頃の記憶も薄れてきているわ。 只々、錬金術の研究に励んでいた記憶があるだけだわ。人間の時に不死の霊薬も完成させて不老の霊薬も完成させてしまった。 出来上がってしまえば、案外呆気ないものであったわね。 今はエルダーリッチなっちゃったけど。
それから、数日が経ったある日、外界から遮断された錬金工房から何百年振りに外に出てみた。 見渡す限り森森森、昔と何ら変わりない。 だが、ある一箇所に様々な種族の生命体が集まっているのに気づいた。 その時は、種族間の戦争かと気には留めていなかったが、日を追うごとに色々な種族が増えていく。 なにかしら?と思うリッチ。
初めてこの時、錬金術以外に興味を示した瞬間であった。 そのリッチは、一度気になり出すと知りたい欲が止まらなくなるのだ。研究者の性というやつか。 居ても立っても居られなくなったリッチは、その場所へと足を運ぶ。 いく先々で、上位種や変異種の魔物が襲ってくるが、気づくと横たわる魔物達。リッチが手にしているのは、錬金術で作られた引き金を引くと魔弾が飛ぶ武器だ。
襲ってくる魔物を殺しつつ進むと、違和感のある場所を発見するリッチ。 この奥から色々な種族の生命反応がすることを確認して突入する。 少し歩いて進むと、さっきまで真っ暗だったにも関わらず、そこは幻想的な雰囲気を醸し出すかのような明るく照らされた道と看板があった。
「料理屋憩い亭!? それにしても、見たことがない素材の道ね。 石かしら?それとも鉄かしら?」
錬金術師の性である探究心に火がつき、その場に腰をかがめて、ある魔道具を道の上に置く。 液晶のように空中に浮かび上がったパネルには、errorの文字が1番上に浮かび上がり、その下にerrorと水と砂と砂利が浮かび上がる。 ちなみに、errorはコンクリートである。
「未知か登録されていない素材ってことね。 errorが何か非常に気になるわ。これは要研究対象ね」
そう言うと、リッチは立ち上がって前へ進む。
進むにつれて、視界が開けて明るく照らす1軒の家があった。 周りにも、多数の家が存在するのだが、どの家も見たことがない素材と造りをしていた。内心心踊るリッチ。 踊る気持ちを抑えながら、光が照らされた家に足を運ぶ。
リッチは、ドアノブに手をかけてゆっくりドアを開ける。
カランカラン。
中から2人の声が聞こえてきた。
「「いらっしゃいませ」」
リッチが見渡すと、普通ではない人間に神気を纏った少女に高位魔族に高位なドワーフに上位精霊に妖精にフェンリルにエルフ。 それから、私より上位のノーライフキング様までいる。 あまりのあり得ない光景に、フラフラとなるリッチ。
それを見た拓哉が声をかけて体を支える。
「大丈夫ですか? 急にフラつかれましたが、それに体が凄く冷たいですよ」
死んでいる身であり、体は冷たくて当たり前なのだが、拓哉はそんなことは知らずに口に出す。
リッチは、本当のことを言うか言わないかで迷ったが、周りにいる種族がおかしすぎる為、大丈夫だろうと語り出す。
「はい。大丈夫です。 長旅で疲れたのかもしれません。 それと、私は死んでいる存在なので体温はありません。 ここは料理屋で間違い無いですか? 来る道の看板にそう書いてあったのですが」
リッチは、死んでいるという言葉に、この人間がどう反応するのか様子を伺う。
「そうだったのですね。 てっきり病気か何かかと思い心配しましたよ。 あとここは、料理屋です。 何か食べて行かれませんか?」
人間である拓哉の反応に戸惑うリッチ。 普通なら恐怖するか攻撃をしてくるはずなのに、サラッと受け流したのである。 更には料理を食べていくか?と聞いてくる始末。
「何百年振りかの食事なので適当にお願いできますか? あと、ワインがあればお願いします」
人間の時も、錬金術以外興味がなく、食事も口に入る物ならなんでもよかったリッチ。 ましてや、リッチになってからは食事も不要になり一切口にしていない。
「わかりました。 少々お待ちください」
拓哉は厨房に行き料理を作る。 桜花には、ワインを持って行ってもらう。
「ワインお待たせしました。 ごゆっくりどうぞ」
桜花は、魔国から帰宅して以来、接客時はちゃんとした言葉を使うようになった。 拓哉を支えるという目標から少しずつ変わってきているのだろう。
「ありがとうございます。 綺麗で透き通るような赤いワインですね」
そう呟きながら、香りを楽しみ口に含む。
リッチは思った。 今までのワインと違って果実に近い濃い香りに、口に含むとワイン特有の酸みは弱く、甘く少しスパイシーな味に、凄く滑らかで呑み易い。 人間の時に呑んだワインとは比べ物にならないくらいおいしい。
「ごめんなさい。 お代わりのワインを頂いてもいいかしら?」
思わず2杯目を注文してしまうリッチ。
2杯目を呑み終わるか終わらない時に、料理が運ばれてきた。
運ばれてきた料理の香りに、リッチなので鳴るはずはないのだが、お腹がなったような錯覚に陥る。
「お待たせ致しました。 ビーフシチューです」
早く食べたいと体が欲するままに、スプーンを手に取りスープとにんじんを掬い口に運ぶ。
「ん〜〜〜!おいしい〜〜」
何百年振りのおいしい食事に思わず声を上げる。
リッチは思う。 まろやかで野菜の旨味とお肉の旨味が溶け出して、トマトの酸みと香辛料の辛みがうまく調和しているわ。 それに、ワインが入っているのか?味に深みを与えて更においしさが増している。 野菜も、今まで食べたものより甘くて柔らかくてスープの味と相まって、ハァ〜至高だわ。
次は、お肉と一緒に食べてみましょう。
・・・・・・んっんっ。 私意識が飛んでいたの?えっ!?いつの間にかお肉がなくなっている。 ちょっと!もう一口。 ふわぁ〜生きてる時にも食べたことがないこの柔らかくてトロトロした甘みのあるお肉...危ないかったわ。また意識がなくなるところだった。
カチャン
食べようとすると、いつの間にか皿の中身は消えていた。
「すいません!もう一杯頂けないかしら?」
「少々お待ちくださいね」
また今日も、憩い亭の料理に惚れ込む人物が増えるのであった。
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