第71話 魔王城からのお別れと魔境で本気を出した仲間達!

呑みに呑んだ4人は、部屋で爆睡していた。

宰相とセバスも、普段ならこんな醜態は晒さないのだが、あまりにも楽しかったのと、酒とつまみのうまさに歯止めが利かなかったのだ。


拓哉が起きる。


あ〜そのまま寝てしまったのか。 それにしても、久々にあんなにも呑んだのに、2日酔いもないとは素晴らしい体だな。とりあえず、みんなを起こさないと思う拓哉。


「は〜い!みなさん起きてください。朝ですよ〜」


手をパンパン鳴らしながら起こす拓哉。


みんなが、モゾモゾ動きながら体を起こし始める。


セバスが、明るくなっている窓の外を見て慌てる。

「私としたことが、何という醜態をさらしてしまったのか。 早く仕事に行かねば行けませんね。 拓哉様、出立の準備もあると思いますので、あとはお任せください」


拓哉が言う。

「セバス、ありがとう」


そう言いながら、自分の部屋に戻る拓哉。 呑んでいるうちに打ち解けた拓哉は、セバスに対して敬語を使わなくなった。


部屋に近づくと桜花が、ドアの前で待っていた。


「あるじ、今までどこにいたの? 戻ったらいないから心配したんだよ」


心配させたのは悪いけど、ずっと部屋の前で待っていたのか?と思う拓哉。


「ごめんごめん! ヴァレリーさんに誘われてセバス達と呑んでたんだ。 それより、ずっと部屋の前にいたのか?」


「違うよ。 あるじの気配がしたから待ってたんだよ。 それよりお風呂入って!お酒臭いんだよ」


気配と聞いた拓哉は、桜花がいたら黙って遊びにすら行けないなと思うのであった。悲しい...


「え?そんな酒臭いか!? わかった。すぐ入ってくる」


お湯に浸かりながら、お酒を抜く拓哉。

のんびり目を瞑りながら、魔国で起こった出来事を回想する。 門番のこと、マドレーヌのこと、結婚式のこと、決闘のこと、おっさん達との飲み会など。滞在にして3日間だったが、濃い内容だったなと思いふける。 大変ではあったけど、魔境にいたら出会わないことばかりで、また気が向いたら旅行に行くかなと考える拓哉。 


風呂から上がり、着替えを済ませて部屋に戻ると、飲み物が用意されていた。


「あるじ、冷たいの用意しておいたから飲んで?」


えっ?と思う拓哉。 今までこんなことなかったのになと。そう思いながら飲む。


「おっ!うまいな。 ジンジャエールか。 それにしてもよく作れたな」


うまいと言う言葉を聞いて安心する桜花。

先日の女子会で、支えられるようにと言われ、少しずつ自分のできることをしよう考えている桜花は、朝から厨房に行き材料を貰って作ったのだ。 


「料理はできないけど、ジンジャエールは好きだったから神界でも作ってたし、厨房を借りて作ってきたんだよ」


優しい一面があるんだなと驚くのと同時に嬉しくもなる。先日の件で、もう怒ってないと分かり安心する。


「わざわざありがとうな。また作ってくれな。 それより朝飯は食ったの?」


「食べてないよ。 あるじが帰ってくるの待ってたから」


それは申し訳ないことをしたなと思う拓哉。  とりあえず厨房に行ってみるか。


「すぐ帰れるように荷物をアイテムボックスに入れて厨房に行くぞ」


「うん」


厨房に行くとジュドーと他の料理人がいた。 


「拓哉様、昨日はありがとうございました。 大変おいしかったです。 食事は、まだされていませんよね?今からお作りします」


「まだジュドーは、酒抜けてないだろうしいいよ。 お湯だけ借りたいから沸かしてくれないか?」


そう言うと、アイテムボックスからカップラーメンとカップうどんを取り出す拓哉。


「それは、なんですか? また新しい料理でしょうか?」


料理に対して貪欲なジュドーは、興味津々で聞いてくる。


「仕方ないな〜食わせてやるから、鍋に湯を沸かせといてくれ」


仕方ないなと思いながら、2人分のカップラーメンと桜花には油揚げが入ったカップうどんを用意する。


それより、部下に凄く睨まれているけどジュドー大丈夫か? 1人だけカップラーメンを食べてと思う拓哉。拓哉にも、恨めしそうな視線を向けてくる料理人達だが、面倒だから用意する気はない。


お湯が沸いたので注いでいく。 桜花とジュドーと拓哉は3分間無言で待つ。


「よし! 出来上がったぞ。 かき混ぜて食べよう」


袋に入った背脂を入れてかき混ぜると、豚骨のなんとも言えない香りが漂ってくる。 これだけ簡単に作れるカップ麺を開発してくれた偉人にありがとうと思いながら麺をすする。


「久しぶりに食べたけど、めちゃくちゃうまいな! 麺にもしっかり染みた濃厚な豚骨の味。 それに、甘味のある濃厚なスープが舌に絡みついてなんとも言えない。 普通だと文句が出そうな焼き豚だが、これもカップ麺らしくていいんだよな」


太ってもいいから食べたくなるこの味に満足しながら、麺とスープを交互に食べる拓哉。


「出汁を吸った油揚げおいしいんだよ。 ふんわり柔らかくて。 一枚しか入っていないのが残念...」


カップうどんの油揚げも、バカにできないんだよなと思う拓哉。 事前に染み込ませたような甘い油揚げではないんだが、カップうどんのスープを吸って噛んだらジュわりと口に広がり、カップうどん独特の油揚げの噛みごたえのある感じがいい。 これらもカップうどんでしか味わえない良さなんだよなと思う拓哉。


「拓哉様、この素晴らしい食べ物はなんですか? 乾燥した麺に、お湯を注いで3分で完成し、スープの味も、中に入ってる具もしっかり味がして画期的です。簡単でこんなおいしいとは料理人泣かせですよ。 それより、私からの助言ですが、絶対にこの食べ物を軍や人間の冒険者や商人に知られてはなりません。 どうにかして手に入れようとするはずですから」


それもそうだな。 缶詰も追加できないかと問い合わせがあるくらいだし、即席麺がバレたら余計厄介になるな。 もう少し慎重に行動しないとと思う拓哉。


「気をつけるよ。 ジュドーの言う通りだな。 それとみんな用に、これ置いていくから絶対見つからないように食べろよ」


他の料理人が、ずっと恨めしそうな顔をしてくるものだから仕方なく人数分置い行く拓哉。 

それを聞いた料理人達は歓声を上げて喜ぶ。


「絶対また来てください。 その時には、満足してもらえるような料理を提供できるように致します。 本当にありがとうございました」


「期待しているからな。 その時は、うまい物食わしてくれよ」


拓哉と桜花が、厨房から出て行く。


廊下を歩いていると、セバスがやってくる。


「拓哉様、ここにいらっしゃいましたか。 部屋に行ってもおらず、どこに行ったかと探しておりました。 それと、朝食をご用意致しましましょうか?」


「今ちょうど厨房に行って食べてきたばっかりなんだよ。 食べ終わったから、挨拶だけして帰ろうかなって」


「そうでしたか!では、皆様を呼んで参りますので、中庭にてしばらくお待ちください」


そう言うと、セバスは去って行く。


拓哉と桜花は、アイテムボックスにすべて入れているので、そのまま中庭に向かう。 

中庭に向かう途中、この滞在中に見た風景を眺めながら少し寂しくなる拓哉。


「また来れたらいいな」と桜花に対して言う。 桜花も「うん。絶対来るんだよ」と返してきた。


中庭に着くと、なぜか全員が勢揃いしていた。 セバスは、どうやってこんなにすぐ集めたのかと驚く拓哉。


驚いていると、今回の主役であったアドルフとヘルカが話しだす。

「今回は、俺たちの結婚式に来てくれてありがとう。 それから、バルトと小次郎と精霊の姉ちゃん達に、あんないい祝いの品ありがとうとお礼を言っといてくれ。 もちろん、拓哉も桜花もありがとうな。 記念日が来たらこれを使わせてもらうからな」


最終的に拓哉は、2人の記念日に料理を作りにいくと記した手紙を渡したのだ。 色々考えたが、みんなからのアドバイスを受けて、自分らしいプレゼントとはと考えた時に料理しか浮かばずこの結論になった。


「本当に、わざわざありがとうございました。 それから、素敵な贈り物をありがとうございます。あと、父とアドルフのこと感謝しています」


ヘルカの言葉を聞いて、ちゃんとアドルフとゼーランは男同士の話し合いをしたのだなと思う拓哉。


「もう少ししたら、家に帰れそうなので待っていてください。 アニカと一緒に頑張って早く帰れるようにします。 それから、私たちが帰るまでお父さんをよろしくね。桜花」


「パパ〜寂しいの!最後にぎゅーってして! 桜花お姉ちゃんもぎゅ〜って」


「3人ともおいで」


近寄ってきた3人を抱きしめる拓哉。 

泣き出すラリサとアニカの頭を撫でて、「早く一緒に暮らそうな」と声をかける。

暫く抱擁をし立ち上がる拓哉。 そこに、ヴァレリーが話しかけてくる。


「今回は、客として招いたにも関わらず、色々迷惑をかけてしまって悪かった。 それに、城の食の改善も助かった。 ありがとう。 是非、いつでも魔国に訪問してほしい。 昨日話した膿も今日いなくなるからな」


ヴァレリーから多いに感謝されるのと、不正を働いた者が粛正されることも伝えてくる。


「こちらこそ、初めての旅行も兼ねてきましたので新鮮な気持ちでした。 次回は行っていないところを散策したいですね。 まぁ当分は、家でのんびりしたいですがね。 色々お世話になり、ありがとうございました」


旅行もいいけど、やっぱり我が家が1番落ち着くのと、憩い亭で料理を提供している方が性に合っているなと思う拓哉。


その後、何人もの人と挨拶を交わした。

その中でも印象深かったのが、ヴィクトリアさんだ。 絶対に冷たいお菓子をすぐに作りなさいと言うことだった。終いにはもう少しここにいていいのよと言われたが、氷菓子生成機にはなりたくない拓哉は、店で試行錯誤したいからという理由で逃げた。


再度ラリサとアニカの前に行く。


「ラリサとアニカ、元気でな。 久々に会えてよかった。 次会う時を楽しみにしてるからな」


拓哉がそう言うと「お父さん」「パパ」と言って再度抱きついてくる。

拓哉は、頭を撫ででお別れをする。


全員に手を振り最後のお別れをすると、ヴァレリーが転移をしてくれる。


一瞬にして家まで辿り着く。

やっと帰ってきたと目を開けて、拓哉が周りを見渡すと以前の風景ではなく、土だった家の周りは全て舗装され、家らしき建物が数件並び、豪華な村が出来上がっていた。


「なんじゃこりゃ〜」と叫ぶのであった。

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